テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
視界の端が赤く揺れている。
炎か、血か、それとも自分の涙のせいか。もうどうでもよかった。
胸の奥に空いた穴は、何を詰めても塞がらない。
愛しい人はもういない。名を呼んでも応えはなく、伸ばした指先は虚空を掻くだけ。
――なのに、体は止まらなかった。
音がないはずの空間で、鼓動だけが太鼓のように鳴り響く。
そのリズムに従うように、足が動く。腕が振れる。
笑っているのか泣いているのか、自分でもわからない顔のまま、ただ舞う。
頭の中で、かつて二人で口ずさんだ旋律が蘇る。
あのときの幸福と、今の絶望が絡み合い、狂った舞踏を生み出していた。
「……アーサー……」
かつて一緒に戦ったライバルを思い出し、名を口に出してしまった。
声はかすれて、熱に溶けるよう思いの様に消えた。
それでも体は止まらない。踊り続ける。
まるで自分の肉体ごと、この世界を焼き尽くそうとするかのように。
舞い、狂い、笑い、泣き――最後にはただ一人。
血のように赤い景色の中で、菊は立ち尽くしていた。
その瞳に宿るのは、終わりなき愛と、壊れた祈りだった。