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まなこ〜友
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まなこ〜友
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交換日記……いや、「秘密の手紙」が始まってから、半年が過ぎた。
中2の冬。季節はすっかり冷え込み、放課後の図書室から見える空はあっという間に群青色に染まるようになった。
私と蓮くんの文通は、日を追うごとに濃密になっていた。
教科書の切れ端、ルーズリーフの端、時にはお菓子の包み紙の裏。そこには、お互いの好きな音楽、将来の夢、家族(私にとっては架空の、あるいはぼやかした家庭環境)のことなど、たくさんの秘密が書き連ねられていた。
『葵ちゃんは、高校に行ったらやりたいことある?』
ある日の手紙に、蓮くんはそう書いていた。
私はペンを走らせる。
『別にないよ。ただ、早く大人になりたい。自分の力で生きていけるようになりたいな』
施設を出る18歳になったら、私は一人で生きていかなければならない。誰の庇護も受けられず、自分の足で立つしかないのだ。
次の日、返ってきた紙にはこう書かれていた。
『大人になったらさ、一緒に遠くに行こうか。葵ちゃんが自由になれる場所に』
その文字を見た瞬間、私の胸は壊れた音を立てた。
自由。私をこの鉄格子のような施設から、誰にも縛られない世界へ連れて行ってくれる。蓮くんが、私の救世主に見えた。
(欲しい……蓮くんが欲しい。私だけのものになってほしい)
心の奥底で眠っていた情念が、爪を立てて暴れ出しそうになる。
私は一般家庭でぬくぬくと育った彼とは違う。何もない。親もいない、お金もない、スマホすらない。だからこそ、一度手に入れた温もりを絶対に離したくないという、病的なまでの狂気が芽生え始めていた。
しかし、現実は容赦なく私たちを引き裂こうとする。
ある日の夕方、5時のチャイムが学校中に鳴り響いた。
「あ、やばい。もう帰らなきゃ」
図書室で蓮くんと話していた私は、弾かれたように立ち上がった。あと20分で施設に帰らなければ、門限遅刻で園長先生に何を言われるかわからない。
「葵ちゃん、待って! 送っていくよ」
「ダメ! 一人で帰れるから!」
施設の場所を知られるわけにはいかない。あんな暗くて不気味な建物を見られたら、私の本当の姿がバレてしまう。
「でも、もう外暗いし……」
蓮くんが心配そうに私の腕を掴もうとした。
その瞬間、パッと彼の差し伸べた手が、私の制服の袖に触れた。
「あっ……」
熱かった。冬の冷たい空気の中で、蓮くんの手のひらは驚くほど暖かかった。
触れられた腕の皮膚から、電撃のような衝撃が全身を駆け巡る。私は息を呑み、思わず彼の手を振り払ってしまった。
「……ごめんなさい! 私、もう行かなきゃ!」
蓮くんの傷ついたような、驚いた顔が見えた。けれど、私は背を向けて走り出した。
走っても、走っても、胸の動悸が収まらない。
蓮くんの手の温もりが、肌に残っている。
(触れたい。もっと触れたい。抱きしめてほしい。私だけを愛してほしい)
施設に到着し、暗い門をくぐった瞬間、私は冷たい現実に引き戻された。
玄関では、園長先生が腕を組んで仁王立ちしていた。
「橘さん。遅かったわね。3分遅刻です」
「すみません、図書室で本を探していて……」
「言い訳は不要です。あなたたちのような子は、人一倍きちんとしていなければ世間に出てから笑われるのですよ。今夜は反省として、廊下の掃除をしなさい」
「……はい」
冷たい床に膝をつき、雑巾がけをしながら、私はボロボロと涙をこぼした。
どうして私はここにいるんだろう。どうして蓮くんのように、普通に恋をして、普通に放課後を過ごすことができないんだろう。
スマホもない。自由もない。私には何もない。
蓮くんとの間にあるのは、決して越えられない透明で分厚い「境界線」だった。
私は冷たい雑巾を強く握りしめながら、暗い廊下で一人、狂おしいほどの愛に乾き、飢えていた。
コメント
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第3話、めちゃくちゃ沁みた…。「触れた瞬間の熱さ」と「施設の冷たさ」の温度差が本当に生々しくて、胸が締め付けられたよ。蓮くんの「自由になれる場所に連れて行く」っていう言葉に、葵ちゃんが一瞬で救世主を見る目になるのもすごくわかる。でも現実は門限3分で廊下掃除…あのシーンで「私には何もない」っていう台詞が刺さりすぎた。この透明な境界線、どうにか破ってほしいな。続きが気になるわ🔥