画面の向こうには、無数のコメントと、興奮を隠しきれないファンの声。
若井と大森は2人でインスタライブをしていた。
 最初は、最近のミセスの近況、各個人の活動などを報告。
その後、ファンからの質問を読み上げるのは大森の役割。
 
 
 
 「えーっと……『お2人は付き合ってるんですか?』だって」
 
 
 
 大森が口にした瞬間、コメント欄はざわつく。
心なしか、若井の視界がぐらついた。
一瞬の間のあと、大森は唇の端を上げて、あっさりと答えた。
 
 
 
 「あ……はい。」
 
 
 
 ――その言葉は、爆弾のように若井の胸に落ちた。
 
 
 
 「っ……え、ちょっと! いやいやいや! ファンのみんなが勘違いするからさ……!」
 
 
 
 慌てて両手を振る若井。
必死に否定しようとしているのに、内心では心臓が暴れ回っている。
頬も赤いのを自覚していた。
 
 
 
 「……」
 
 
 
 大森は涼しい顔でカメラを見つめ続ける。
視聴者のコメントは「え!?」「キャー!!」「ガチ!?」と大騒ぎだ。
 
 
 
 「はは……ごめんごめん、冗談だよ。ね、若井?」
 
 
 
 にっこりと微笑む大森に、若井は曖昧に頷くしかない。
 
 
 
 「そうそう! 冗談、冗談!……はは……」
 
 
 
 声が震えていたのは隠しようもない。
 インライはそのまま続き、最近の活動報告や次の企画の話題に移っていった。
笑顔を作って大森とやり取りを交わすが、頭の片隅ではずっと“はい”の一言がリフレインしていた。
 
 ――もし、本当に付き合っていたら。
――もし、あの言葉が冗談じゃなかったら。
 
 そんな妄想が心を占めて離れない。
 
 
 
 
 やがて1時間近くのインライが終わる。
 
 
 
 「みんな、ありがとうね〜」
 「またねー!」
 
 
 
 大森と同時に手を振り、配信を切った。画面が真っ暗になった瞬間、若井は大きく息を吐いた。
 
 
 
 「……はぁぁ……」
 
 
 
 胸の奥でドクドクと音を立てる鼓動。
配信中に溢れそうだった気持ちが、一気に押し寄せてくる。
 落ち着け。
ファン向けのジョークだ。
ただのサービス。
そう分かっている。
けれど――。
 
 
 
 「……やっぱり、気になるだろ……」
 
 
 
 スマホを見つめたまま、若井は小さく呟いた。
気づけば指が、勝手に大森のアイコンをタップしていた。
 
 
 
 「……っ」
 
 
 
 コール音が鳴る間も、胸の鼓動は止まらない。額にはじんわりと汗がにじむ。
数秒後、画面に大森の顔が映った。
 
 
 
 「ん? 若井?」
 
 
 
 ラフな声が聞こえる。さっきの配信の緊張をどこかに置いてきたような、余裕の笑みを浮かべている。
 
 
 
 「あ、あのさ……さっきの……」
 
 
 
 言葉が喉に詰まる。
 
 
 
 「ん?」
 
 
 
 頬杖をついて画面を覗き込む大森。
挑発的な瞳がこちらを射抜く。
 
 
 
 「……『はい』って……あれ、なんで……」
 
 
 
 若井の声は、まるで秘密を打ち明ける子供のように震えていた。
 大森の口角が、ゆっくりと吊り上がる。
 
 
 
 「嫌だった?」
 「……嫌じゃないけど……」
 
 
 
 カメラ越しに目を逸らし、俯く若井。
赤くなった頬が映っているのを見て、大森は小さく吹き出した。
 
 
 
 「あは。顔真っ赤じゃん。かわよ」
 「……っ、言うなよっ!」
 
 
 
 思わず声を荒げる若井に、大森はさらに楽しそうに目を細める。
 
 
 
 「じゃあ、言わないほうが良かった?」
 「……」
 「ふふ。素直に喜べばいいのに」
 
 
 
 軽口を叩く大森に、若井は言葉を失った。
画面の中で笑うその姿が、どうしようもなく眩しくて、愛おしくて。
 ――やっぱり、あの“はい”は冗談なんかじゃなかったんじゃないか。
 心の奥でそう思わずにはいられなかった。
 
 
 
 
 
 
 
コメント
4件
アウフヘーベン終わってからのくすぐったい2人は癒される〜( ˶'ᵕ'˶) ほっこりする感じでいい!! そういえば明日友達と映画観るんだー楽しみ〜 カラダ探しみるんだって〜 カラダ探しってどんな話なんだろ?
あぁ、あのインライの話かぁ…。(とか言っとりますが、私はリアタイしてないんだよなぁ…) すごく微笑ましい気持ちになりました! 次のお話も楽しみにしてます!