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哭恋の日々を共に

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哭恋の日々を共に

4 - 枯れた花

♥

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2024年03月27日

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「今日は何する?」

毎朝8時に彼は僕の家にやって来る。連絡手段がなく、直接会いに来るしかないのだろう。1度、スマホを持っているのか聞いたことがあったが普段は全く使わないと言っていた。

「映画でもみます?」

「いいね」

並んでソファに座り、彼と一緒にみるために入れたサブスクを選択した。

「ファンタジー好きなの?」

「え?」

「履歴、ファンタジー作品ばかりだから」

「あぁ、好きですよ。現実逃避したい時に観るんです」

「現実逃避、か」

彼と出会って僕は駄目な人間になったと思う。大学にも行っていないしバイトもしていない。勉強だってもちろんしていない。

寝て、起きて、彼と遊んで、また寝て、、

思えば食事もろくにしていない気がする。どうしてもお腹がすいた時にパンを少し食べるくらいだ。そのせいか筋肉質だった身体はどんどんやせ細っていった。

「ジョングガの身体って、綺麗だよね」

「えっ、、そう、ですか?」

「うん。出会った頃からどんどん綺麗になっていってるよ。この細い二の腕とか、好きだなぁ」

”好き”

彼の言葉が脳内に響く。

あぁ、ヒョンはこの細い身体が好きなんだ。もっと痩せれば、もっと好きになってくれるかな。

「ヒョン、僕、頑張りますね」









彼と映画を観終わって、散歩をするため二人で外に出た。幾つか観ていたため時間が過ぎて空は暗くなりつつある。

「雨降りそうだね」

空を見上げながら彼が言う。

「ですね。どこか屋根のある場所に行きますか」

「ううん、もし降ってきたら二人で雨に打たれよう」

そんな修行みたいな、、

「風邪引きますよ」

「おれは大丈夫。確かにジョングガは引いちゃうかもね。そしたらおれが付きっきりで看病してあげる」

そう言って微笑む彼を見て、またこうして堕ちていくのだろうと思ってしまう僕は病気だ。

少しすると、彼の言った通り雨が降り始めた。雨水が僕たちの身体を容赦なく濡らしていく。

白いシャツを着ている彼の身体が透けていた。シャツ越しに見えるその体には、無数の傷跡があった。痛々しいがどこか美しさを覚える。そんな傷跡だった。

「これ、綺麗でしょ」

「全部、自分で付けた傷なんだ」

「え、」

自分で、?

「おれはずっと人の痛みを知りたかった。苦しみ、怒り、悲しみ。そういう負の感情がおれには分からなくて」

「分かろうとしている内に、自分が何者なのかも分からなくなった。おれは何を目的に生きているのか、どうして生まれてきたのか」

「分からないんだ、」

彼はそう言って顔を伏せた。

「分かるために、何をしていたんですか」

彼が僕を見る。輝く瞳が僕を捕らえた。

「”栽培”だよ」

「栽培、、植物のですか、?」

「うん、、花を育てていた」

出会った時、彼が言っていた。

大切にしていた花が枯れてしまった、と。

「ジョングガ、家に連れて行ってあげる」











彼の家は、聞いた通り一軒家だった。

「入って」

「お邪魔します」

白で統一されたシンプルなデザインの玄関を通り、リビングに続くであろう扉を彼が開けた。

白い壁には真っ赤な血が。木のフローリングの上には数人の死体。

「、、っこれ、何ですか、、」

「何って、、”花”だよ」

「、、っ!」



『花が枯れちゃったんだ』

『すっごく綺麗な花だったんだ。濁りのない綺麗な赤色。、、もう見れないなんて残念だよ』




綺麗な赤色、人間の血液。花が枯れた、、死んでしまった。

「殺したんですか、」

「殺したんじゃない。育てたんだ」

「最初は皆、おれに尽くして何でも言う事を聞いてくれたんだ。でもおれの目的が分かった途端に逃げようとした。あんなに素晴らしい日々を過ごしていたのに。あんなに幸せを与えていたのに。おれから離れていく」

彼が笑う。

「あぁもしかして、これが負の感情なのかな」

込み上げてくる吐き気を必死に抑えながら僕は床にうずくまった。

「おれは大切に育てていたのに、、またジョングガも離れていくのかな」

彼に好意を寄せられるなんて最初から有り得なかった。彼は僕のことを、人間として見ていなかったのだから。

「ジョングガは筋肉質で力が強そうだったから、ここまで細くなってくれて助かるよ。抵抗されると怪我しちゃうからね」

全て彼の想定内だった。彼は全てを分かっていた。何者なのか、そんな事を考える余裕なんて今はない。

自分が分からないと言っていた。負の感情が感じられない、と。誰かを傷つけて、自分を傷つけてその先に得られたものは彼が欲しかった”理解”ではなく、”依存”だったのだ。

「ジョングガ、ドライフラワーにすればいいって言ってたから、やってみたんだ。あれ見て」

彼が指さした方向を見る。胃の中の物が逆流して床に吐き出す。

そこには干からびた死体があった。

「やっぱり場所取るんだよね、笑」

「でも一体くらいならインテリアにいいかな」

「あぁ、大丈夫?吐いちゃった?そうだよね。見慣れないもんね」

彼の手が僕の肩に触れた。

冷たい。

「そういえばおれが何でこんなに冷たいか分かる?」

「おれは重度の自律神経失調症なんだ」

「体が冷たいだけじゃない。不眠もあってね、これが結構しんどいんだよね」

体が勝手に彼から距離を取っていた。

「おれが怖い?」

頬に触れた冷たい手。輝く瞳。

「怖く、ないです」

気付けばそう言っていた。僕は、彼を知りたい。この気持ちは恐怖などではなく、好奇心だ。

彼が不思議そうに首を傾げた。

「そんな応えを出したのはジョングガが初めてだよ」

彼が近付いて、僕に口付けをした。

「一緒に堕ちよう」










……To be continued

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