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コメント
3件
夏の影!!いいですよねー!✨ 体調不良の曲パロにこの曲使う発想なかったです…! すごすぎて感動…
すごくいいです!やっぱり短編集大好きです!いつも見ています!毎回楽しみにしています!
「 発熱 」
もとぱ ( 夏の影 イメージ
若井side
夏の昼下がり 縁側に差し込む日差しはまるで溶けた飴みたいにねっとりとしていた。
裏の山からは、じぃじぃと蝉の声が降ってくる。風鈴が一度鳴ってすぐに黙った。
「 ほら、スイカ切ったから 」
俺が台所から持ってきた皿を元貴の前に置く。
今日は朝から元貴が遊びに来ていて、二人で古い将棋盤を挟んで遊んでいた。駒を動かすたびに縁側の木目が軋む音がする。
それが、なぜかやけに心地よかった。
元貴はいつもより静かだった。
最初はただ、集中しているのかと思ったけれど、なんとなく違う。
唇の色が、昼間の明るさの中でも妙に薄い。
「 ……元貴? 食べないのか? 」
差し出したスイカに、彼は視線を落としたまま「 うん 」とだけ首を振った。 その動きも少し遅い。
「 どうした、?腹でも痛いの? 」
「 …ううん、平気 」
平気――そう言うときの元貴はだいたい平気じゃない。
この数年で、俺はそのことを嫌というほど学んだ。
将棋盤の上に置かれた彼の手の甲はいつもより白く、薄い血管が透けて見える。
額に汗が滲んでいて縁側の風が通っても涼しそうには見えなかった。
「 元貴、横になれよ 」
「 …やだ、せっかく来たんだし… 」
彼は笑おうとした。でもその笑顔はすぐに崩れた。
まるで 夏の影 に飲み込まれるみたいに。
俺はため息をついて将棋盤を片付け、元貴の手を取った。
その手は、氷のように冷たいのに 汗でじっとりしていた。
縁側の障子を開け放った先 奥の畳部屋に彼を寝転ばせる。
扇風機がゆっくり首を振っていてカーテンの向こうで蝉の声が遠のく。
さっきまでの夏の鮮やかさが部屋の中ではやけに薄まって感じられた。
「 ……ここで少し休め。水 取ってくる 」
「 ……ありがと 」
弱々しい声が返ってきた。
俺は急いで冷やした麦茶と、冷たいタオルを持って戻る。
元貴は畳に寝転んだまま、ぼんやりと縁側の向こうを見つめていた。
遠くで子どもたちの笑い声がする。夕方が近い。
俺がタオルを彼の額に当てると びくっと小さく肩を揺らした。
「 …ごめん、また迷惑かけて 」
「 迷惑とかじゃねぇよ。来たとき元気だったのに急にどうした? 」
「 ……わかんない。ただ……ちょっと、くらくらして… 」
そう言うと彼は目を閉じた。
夏の陽射しが縁側の木に反射して揺れる光が畳に落ちる。
それが彼の顔にまで届き、うっすらと睫毛を照らした。
俺はただその姿を見ていた。
このまま眠ってくれればいい。
でも、胸の奥がざわざわする。
この夏の影のような不安が消えることはないんだろう。
――だから、せめて今は、そばにいよう。
#7.「 夏の影 」
夏の影 めっちゃ曲調好きです…、いつか曲パロでも作ろうかな…