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「それじゃ君はまだ梅毒に感染したままなのに
伊藤アリスと結婚すると言うのかい?」
成宮北斗35歳は、琥珀色のウィスキーが入ったロックグラスの淵に、ライムを塗り付けて相手を見つめた
北斗の視線の相手鬼龍院忠彦の笑みが弱々しくなった
「ええ・・・まぁ・・、かかり付けの泌尿器科の薬を今飲んでますからね、結婚初夜までには余裕で治りますよ、何の問題もありません 」
鬼龍院はそのハンサムな顔をゆがめて股間を掻いた、牧場に馬を届けに来たと言うのに、コイツはいつも上等のスーツを着込んでいる、北斗から言わせれば伊達男だ
「しかし岬埠頭のSMクラブに通い続ける限り君は、梅毒に罹っては治っての繰り返しじゃないか」
鬼龍院とうってかわって、黒のTシャツに襟にボアが付いた革ジャン、そして色あせたジーンズにブーツという、いかにもカウボーイの風貌の北斗が言う
「あのSMクラブは、とてもクオリティが高いサービスをするのですが、病気持ちの女王と奴隷役の女だけは、どうにかしてほしいもんですよ 」
鬼龍院が色男がするように頭を振って、前髪をファサッとなびかせて言った
どういう神経でその発想になるのかと、北斗は思ったがアラブの特製土産、幻のウィスキーを持ってきた鬼龍院に免じて、もう少し話を聞くことにした
北斗は苦笑いをしながらでも、彼のウィスキーグラスにもライムを垂らした
「行かなきゃいいだろ 」
北斗は言った
鬼龍院は不意をつかれた風に、その整い過ぎている顔をゆがめて笑った、イケメンでも笑うと本性が出るなと北斗は思った
「そういうわけにはいかないんですよ、世の中には少しの嗜好趣味を広くは、理解してはくれませんからね。だから金を払って己の欲求を満たしているんですよ。それに梅毒は今の時代風邪と同じようなもんですからね、薬で治ります 」
「婚約者に移したらどうするんだ?難攻不落のお嬢様をやっと落としたんだろ?日本一の宝石商「ITOMOTOジュエリー」の会長は、俺のカントリークラブのお得意様だ。もしそこのお孫さんに何かあったら、お前と付き合いのある俺も会長に顔が立たない 」
飲めと言う前に鬼龍院が北斗のテーブルからウィスキーを取った
「そんなもの結婚してしまえばこっちのものですよ、夫が我儘な妻を躾けるのはごく当たり前のことですからね」
鬼龍院が躾という所を特に語気強く言う
「最低だな お前」
フンと北斗が不愉快な訪問者を一瞥し、牛皮の茶色いソファーにドスンと座った
「実はその会長がもうあまり長くはないみたいでしてね」
鬼龍院が窓を見つめて言う
「なんだと?」
北斗が驚いて鬼龍院を見た
こいつのおしゃべりにはいつも呆れる。自分の弟たちにもSMクラブの女の話や街の人のうわさ話が好きでよく話している。教育上あまり良い影響を与えていない
しかし今まで生真面目な自分だけではなく、他の人と触れ合うのは社会勉強だと弟達と仲良くする鬼龍院を不満を持ちながらも、見て見ぬフリをしていた
それに貿易商の鬼龍院は北斗にアラブ産の良い馬を持ってきてくれる、女にはサド気質の最悪の性格をしているがビジネス相手と割り切ればよい仕事をする男だった
北斗は右手で顔を擦った
それにしてもあの会長が・・・・すぐにお見舞いの電報を打とう
長い間うちのカントリークラブを接待に使っていただいていた・・・北斗は伊藤会長がとても好きだった
とてもお元気で80歳を超えても、うちのナインホール中をカートもあまり使わずに豪快に回られていたのに・・・
もっともその我儘で有名な孫の令嬢は、一度もお目にかかったことはなかったが
鬼龍院はどこか嬉しそうに振り向き話し出した
「彼女の祖父にはあまり気に入られなかったんですが、彼女のお母様がいたく私を気に入って下さいましてね、先日令嬢から正式に結婚の同意をいただきましたから(ITOMOTOジュエリー)の資産は、もう私のものと言ってもいいでしょうね」
そう笑って股間をボリッと掻きながら、ウィスキーを煽る鬼龍院をじっと見る
「少しは令嬢を大事にしようって気持ちはないのか?」
その婚約破棄をしまくる我儘令嬢の、伊藤アリスがなんでこの鬼龍院と結婚するのか、北斗は謎だった
まぁ・・・確かに顔は整っているが根性は腐っているし、馬を扱うように人間(特に女性)を扱うのを何度も北斗は見ている
(私もあなたと同様欲望には逆らえない男でして)とほざいて、SMクラブに足しげく通って、年中梅毒を移されているろくでなしなのは、自分達仕事仲間の中では有名だ
しかし本人はそんなことこれっぽっちも気にしていない、北斗の兄弟たちに酒の席でいつも自慢していた
北斗はいくら鬼龍院の婚約者の令嬢が我儘で男を手玉に取り、何度も婚約破棄をしているようなくだらない女でも
コイツに新婚初夜で鞭で打たれて、梅毒まで移されるなんていささか可哀そうになり同情した