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鍵を手に入れた翌日の早朝。
折西の部屋のドアをバンバンと
叩く音が聞こえる。
折西が寝ぼけ眼を擦りながら
ドアを開けると目の前には青ざめた
昴が息を切らしていた。
「す、昴さん!?どうしたんですか!?」
「緊急事態だ…組長が人質に取られた。」
「く、組長が!?」
突然の報告にすっかり眠気が吹き飛んだ
折西はパニックになる。
「クソが!落ち着け!!!
俊みたいに指示なしに外に出ようとしたら
殺すからな…お前はチビガリと一緒に
人質にとられてる組長のいる組織に潜り込め!!」
そう言うと胸ぐらを掴まれた紅釈を
投げるようにして渡す。
「いってぇなこのガリノッポ!!!!!!
…わりぃな折西。そういう事だ!
一緒に行くぞ!!!!!」
紅釈は緊急であることは理解していた
からなのか昴との喧嘩を諦め、折西の手を引く。
「俺と東尾はここを守る。さっさと行ってこい。」
「は、はい!」
折西と紅釈は駆け足でアジトへ向かって
いったのだった…
・・・
「なぁ組長サン、さっさと部下の居場所
吐いてくんねぇかなぁ〜?」
3人の男のうちの1人が手に持っている
ナイフをチラつかせている。
「…」
組長は椅子に縄で固定されていた。
組長のファージは昏睡状態にさせられており、
能力すら使えない。
「黙ってねぇでさっさと言えや!!!」
男が腹部を蹴ると組長は血を口から吐いた。
「…チッ、クソが…」
それでもすました顔の組長はじっと
3人の顔を見ていた。
「アンタらの所の昴と東尾みたいな良い人材、
こっちで働いた方がもっと活躍できるってのに。」
ナイフの男は舌鳴らしをし、組長を睨む。
「人材、か。いかにも他力本願な上司が
使ってそうな言葉だな。」
組長が鼻で笑ったのに腹を立てたのだろうか、
ナイフの男は組長の胸ぐら掴む。
「あ?もう1回いえよ。」
「もう一度言おうが変わらなさそうだから
2度は言わん。それにうちの部下で優秀なのは
2人だけじゃない。
…部下を伸ばすことが下手なだけだと
思っていたが、見る目も無さそうだな。」
「ックソが!!!!!!!」
胸ぐらを掴んだ手で組長を地面に叩きつける。
「上司の役目を放棄する人間に、影國会の
部下の居場所を誰一人として教えるつもりは
無い。」
「…そうか、それなら良かったよ。
五月雨(さみだれ)、雹(ひょう)。
さっさとこいつ殺して喋りそうな人間を
探し直すぞ。」
「おう!」
「了解!!」
2人は首や指の骨をポキポキと鳴らし、
組長に近づこうとする。
すると突然、2人の背後に立つ影が
現れ、その影は2人の頭を鷲掴みにし
地面に思いっきり叩きつけた。
「…なーに簡単に捕まってくれてんの、垓。」
俊は呆れたようにして気絶した雹と五月雨から
手を離し、汚いものに触れたかのように
手をはたく。
「悪い、俺は弱い人間でな。
…やっぱり俊に護衛を頼んだのは正解だ。」
組長はどこか嬉しそうにニッと笑った。
「馬鹿な!?この建物の地図を持っていない
人間が最上階にたどり着けるはずなど…!」
「しかもここの地図って厳重セキュリティで
原本が見れることなんて無いはずなのに…」
3人は目に見えた冷や汗をかきはじめる。
「ああ!あの迷路みたいなやつ?
昔ここの構造図を一度見たことあるから
ラクショーだったよ!」
Vサインする俊に3人はがたがたと震え始めた。
「…なぁ、親分。お、俺さ…言ってなかった
ことが…さ…」
雹は唇の色を失い、震えた声で話を続けた。
「一瞬だけ、1秒も経たないくらいの
一瞬だけなんすよ!?!?!?
…セキュリティに警告の画面が出てきて…」
「…まさか。」
ボスの1人がゆっくりと俊を見る。
俊はニヤリと笑っていた。
「一瞬しか見れないーってうちの
パソコン堅物に言われてさ〜!記憶して
書け!って無茶ぶりで書かされた事が
あるんだよね!ここの構造図!」
俊は手に持っていた手描きの
地図をチラつかせる。
「そんな馬鹿な…」
親分は手に持っていたナイフを落とす。
カラン、という音が部屋中に反響した。
「…な、なあ親分。コイツもしかして…
アモ族の身体の弱い奴じゃ…」
「…もしかして、ママを蹴った3人?」
俊の真顔に3人は凍りつく。
「へー!変わらないねぇ!めちゃくちゃ
老けたくらいじゃない!?」
俊はニコニコとしている。
しかしなにか裏がありそうな表情に
3人はブルブルとしながら抱き合っていた。
凍りついた3人を見て俊は地面に落ちた
ナイフを拾い、組長の縄を解いた。
「どーせ僕や組長を紅釈と折西が追ってくる
だろうし、先に会ってて!
…僕はこいつら殺してから組長の
ファージを助けるからさ。」
俊は部屋から無理やり追い出し、
コソッと手描きの地図を渡したのだった。
・・・
その頃折西と紅釈は罠にかかりに
かかりまくっていた。
「このクソ建物がよ!!!!!」
水多めのスライム状の何かが全身に
まとわりついた紅釈はキレながら
必死になって取り除いていた。
「わ、罠が多すぎます…!」
最早罠にかかりすぎて存在がスライムに
なりかけている折西はスライムの圧で
流せない涙を流した。
「クソが!!!ここは建物を鉤火華でッ!!!」
突然真契約しようとする紅釈を
折西は必死に止めようとする。
「ダメですダメです!!!!!
組長と俊さんまで死んでしまいますよ!?」
「だったらどうすりゃいいんだ!?
…てか折西はスライム受け付けすぎだ!」
紅釈が折西のスライムを剥いでいると
何やら足音が聞こえてくる。
「やべっ、ここの奴らか!?」
カッ、カッ…
足音的に走っているような感じだ。
2人は焦って剥いだスライムの中に
飛び込む。
最悪なことに顔だけ突っ込んでおり、
足は丸見えだ。
そして足音は近くで止まり、
ゆっくりと足を持ち上げられる。
「僕達終わりですね…」
折西の悲しい声に紅釈は
「そだな…昴ガチギレだろうな…」
とため息をついていた。
すると足を持ち上げているであろう人物は
「いや、勝手に終わるな。」
とツッコミを入れていた。
ふたりが声のする足元を見ると組長の顔が見えた。
「や、やったぞ!!!!!組長だ!!!
昴にグチグチ言われなくて済むぜ!!!」
「敵じゃなくて良かった…」
組長は2人を安全な場所に降ろす。
「組長無事でよかったです…あれ?
そういえば俊さんは来ませんでしたか?」
折西が心配そうに聞く。
「…俊は俺を助けて最上階に残っている。
昏睡状態のファージを助け、アジトの
3人を殺すと言っていたが…」
「そ、それってマズいんじゃ…!?
3対1ですよね!?」
「いや、俺のエフォートにかなり警戒している
様子を見る限りは3人ともファージと契約
していないだろうな。」
「おお、そんなら大丈夫そうじゃないっすか?
先に組長の手当とかを昴にしてもらわねぇと…」
「…僕、なんか嫌な予感がします。」
「嫌な予感ってなんだ…?
俊が負けるってことか?」
「いえ、3人に「は」勝つとは思うん
ですけど…恐らく僕の感じている不安と
組長が感じている不安は同じかと。」
「…なんかよく分かんねぇけどさ。
折西が組長を運んで、俺が上の階に
行こうか?」
「いえ、私が上まで行きますので
紅釈さんは組長を影國会に運んで、
昴さんの遠隔でのサポートを要請してください。」
「そ、そうしたら折西死んじまう!!」
「いえ、僕は大丈夫です…道が分かれば…」
次第に自信の無くなる折西に更に
不安になる紅釈。
「それならこれを。」
組長は手描きの地図を渡す。
「あ、ありがとうございます!」
「ほ、本当に1人で行くのか!?」
「紅釈さん、大丈夫です!生きて
帰らなかったら僕の遺骨にビンタして
ください!!!」
そう言うと折西は地図を見ながら
最上階へと向かう。
「お、折西大丈夫なんすかね…
あと遺骨にはビンタする肉なんてねぇだろ
折西!!!!!!!」
紅釈はまったく、とため息をついた。
紅釈は組長をおんぶして道を組長に
教えて貰いながら出口へと向かったのだった…
・・・
最上階には椅子に括り付けられている
3人、それを五体満足で眺める俊の
地獄絵図が完成していた。
俊は冷めた目で3人を見下ろすと
親分の椅子を2人の対面側に移動させた。
そして親分を蹴り始める。
「セキュリティもろくに守れない
使えない人材育ててさぁ、なんか役に
立ってんの?お前。」
「…!…!!」
親分の鼻と口にはガムテープが貼られており、
苦しそうに抵抗している。
「親分!!!!!クソッ…!!!クソッ…!」
3人は椅子から抜け出そうと暴れるが
強く縛った縄は内臓や首を圧迫し、
しばらくして抵抗を弱めた。
やがて親分の顔は青ざめ、
目の焦点が合わなくなっていく。
「…ゆっくり苦しむといいよ。人の気持ちが
わかるようになるからさ。」
「…!!!」
叫ぼうとする親分の頭を俊は強く蹴った。
「馬鹿って道徳の本とかまともに
読めないんでしょ?
君たちが無事成仏できるように僕が
更生してあげてんの。」
「…とはいえ、さすがの僕もちょっと可哀想に
なってきたな。」
そう言うと子分の二人は僅かな希望に
顔が一瞬明るくなるも、親分の胸に
突き立てられたナイフを見て、青ざめた。
「これで…」
勢いをつけ、ナイフで親分の首を
刺そうとしたその瞬間、
親分は壁に吹き飛ばされた。
「な、なんなの!?」
俊が後ろを振り返ると
スライムまみれの折西が立っていた。
「俊さんを助けに来ました!」
折西はそう言い、親分の口のガムテープを
勢いよく外した。
「ッガハッ!!!!!!!」
ヒューヒューと細い呼吸をする
親分は徐々に顔色を戻していった。
「ちょっと!融くん!?何邪魔して
くれてんの!?」
「いえ、協力です!」
「勘弁して!何助けちゃってんの!?
こっちは復讐してるのに!!」
「復讐なら、こっちの方がいいんじゃない
ですか?」
折西は自分の体についていたスライムを
手に取り、親分に投げつけた。
「なんだテメェ!?助けた癖に裏切りか!?」
親分がキレると子分もそうだそうだと
言い始める。
「そして写真を撮ります。この時は
背景は1色…ちょうど無地の壁ですね!
ラッキー!」
そんな3人の声は聞こえてないと
言わんばかりに折西はスマホを取りだし、
カシャリと写真を撮った。
「そして、ここは僕と紅釈さんが
見事に引っかかった罠のスライム部屋です!
その背景とこの方のお写真を合体
させます!そう、クロマキー合成でね!
壁を消してやるのさ!!!」
その後の展開にようやく気がついた俊は
ぷっ、と吹き出す。
「ま、まさか貴様!!!!!」
「そう、ネット掲示板に載せます!
えっと、タイトルは…」
「【悲報】複雑構造の家を作ったワイ、
自分の仕掛けた罠に引っかかる!!!」
「やめろおおおお!!!!!!!」
折西が送信ボタンを押す。
最初は無反応だった掲示板のコメントに
コメントが1つ、また1つとつきはじめる。
あっという間にスレは大反響だ。
「草」
「これ合成じゃね?」
「合成でもスライムはガチで被ってて草」
「絶対上司嫌いな部下の仕業だろ、
ヘイト溜まりすぎwww」
3人は青ざめたり恥ずかしさに顔が赤く
なったりしている。まるで信号機のようだった。
そして折西は俊の方を向く。
「…俊さん。貴方がやろうとしていた
復讐は、この大嫌いな3人と同じことを
やろうとしていたんですよ。」
「…違う!コイツらがママにやった事は
これよりずっと苦しかった!!!
ママは言い返しもしなかった!!!」
「僕が3人のことを知っていることに
違和感を持てなくなるくらい混乱
しているのでしょうね。」
俊はハッとした。
「そ、そうだよ!なんで知ってんの!?」
「うーんと、い、色々調べたんです!
…3人が大切な人を蹴ったんでしょう?」
「…けれど。この3人と同じように人を迫害し、
攻撃する人間になって欲しくないんです。
見てください!このスライムに濡れた
汚い顔!!!!!コレになるんですよ!?」
「僕は、俊さんの可愛い顔を取り戻しに
来ました。もっと言えば組長が気に入った
俊さんを取り戻しに!」
折西は俊の鍵穴に思いっきり鍵を差し込む。
すると2人は白い光に包まれ、2人きりの
世界になった。
「嫌いな人になる復讐じゃなくて、
大好きな自分のまま復讐しましょう!
それで、よそ者を嫌うのではなく、
あの3人を嫌いましょ!」
「…意外。融くんって復讐なんて
誰も幸せになれないとか言うかと思ってた。」
「辛い思い沢山してきたでしょうから!
やれることは沢山しましょ!けれど、
なりたくなかったはずの嫌いな人に
なっちゃうのだけは悲しいと思うんです。」
折西がそう言うと俊はふふっと笑った。
「本当に、融くんは面白い子。
…そうだね!思いっきりありのままの
自分で復讐しなきゃ!」
折西が鍵を捻ると白い世界は2人の姿を
白く染め、ゆっくりと元の場所へと
視界が変わる。
「なんだなんだ!?さっきの眩しいのは!?」
「馬鹿には見えない神聖な世界だよ〜!」
俊が小馬鹿にすると3人は顔を真っ赤にする。
そして出入口からパラパラと
ヘリコプターのような羽音がした。
「俺も復讐しに来た。」
羽のついたモニターに昴が映し出される。
と、横から東尾が割り込んでくる。
「折西くんと俊いる〜?いるね〜!」
呑気に手を振る東尾に釣られて
折西と俊はブンブンと手を振る。
「な、なんだ!?復讐…!?」
「自分のやったこと覚えてないのか?
…よくも、うちの組長によくも傷をつけたな…」
「折西くん!100チャンネルみたよ!!」
キレる昴、楽しそうな東尾の温度差に
折西は風邪をひきそうになっていた。
「いいか俊!!」
そう言って昴は写真と動画を見せる。
にやけながら親分が小さいアモ族の
少女を誘拐する写真。
子分がキャバクラや食事処で酔って
暴れた写真など様々な写真があった。
中には転がる哺乳瓶のある部屋の中、
3人でおしゃぶりをくわえて
オギャオギャ言っている動画まであった。
「ヒェッ!!!」
3人は椅子に縛られたままカタカタと
震え始める。
「復讐ってのはな!
ネット上でやるのが1番効果が
あるんだよ!!!!!!」
昴はモニターを切り替える。
そこには多くのSNSの画面があり、
昴は送信ボタンを一斉に押す。
「生き地獄は、簡単に作れる!」
モニターが昴に切り替わると
すごく楽しそうな悪い顔をしていた。
隣にいた紅釈や東尾の大笑いする声が
聞こえる。
「うわああああああ!!!!!!!」
瞬く間に拡散される情報に騒いでいた
3人はやがて、声を奪われたかのように
一言も言葉を発せず口をぽかんと開けていた。
「す、すごい!生き地獄って簡単に
作れるんですね!!!」
折西が隣の俊を見る。
「うわ…オーバーキルじゃん…」
俊はドン引きして引き攣る顔を
最初はしていたものの、
次第に笑いが堪えられなくなり折西と
一緒に笑っていたのだった…