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アホライダーは指定された裏通りの重厚な扉を叩き、トーナメントの運営から説明を受けた。
「……招待選手は特別だ。身分は保証され、大会が用意した最高級ホテルのスイートルームが無料で提供される。食事も酒も、望むなら女も思いのままだ」
アホライダーは感情を動かすことなく、「……そうか。ならば連れも泊めてもらう」とだけ答え、招待者専用のパスを受け取った。
三人が向かったのは、ストリップ通りから少し離れた場所にそびえ立つ、黄金に輝く高層ホテルだった。
「無料!? マジかよ! 効率的すぎるだろ、この大会!」
葉弐は豪華なロビーに大はしゃぎし、火野は無言でバーカウンターから高級なウイスキーを一本掠め取って自分の部屋へ向かった。
アホライダーの部屋には豪華なキングサイズベッドがあるが、彼はやはり窓際で夜景を見つめ、微動だにせず朝を待った。
火野はウイスキーをラッパ飲みしながら、バスタブで煙草を吹かし、贅沢な静寂を楽しんでいた。
葉弐は冷蔵庫のミニバーを片っ端から開け、「これ全部タダか!?」と騒ぎながら、結局は大好きなピーマンの肉詰めに似たハンバーグをルームサービスで頼み、ベッドで跳ね回った。
翌日。ラスベガス郊外の地下倉庫に設置された予選会場。
そこには世界中から集まった、筋肉の塊のようなファイターが百人以上もひしめき合っていた。この中から本戦へ進めるのは、わずか十三人。
「むさ苦しいところだぜ…」
葉弐が待機室の片隅でタバコを吸っていると、三人の巨漢ファイターが影を落とした。
「おい、小僧。ここはガキの遊び場じゃねえんだよ。その妙なスカジャン脱いで、とっとと失せな」
リーダー格の男が葉弐の肩を突く。葉弐はタバコの煙を男の顔に吹きかけ、口角を上げた。
「……悪いけど、僕にはお前らみたいな脳みそまで筋肉で詰まった非効率な肉塊に付き合ってる暇はないんだ。その安い筋肉ステーキにでもして売ったらどうだ? 数セントの価値もなさそうだけどな」
「……あァ!?」
激昂した男たちが葉弐の胸ぐらを掴み、拳を振り上げた。一触即発。だが、葉弐はニヤリと笑うと、突然喉が裂けんばかりの大声を出した。
「助けてくれぇぇ!! 暴力だ! 運営さん、ここで選手が私闘を演じてるぞ!!」
慌てて駆け寄ってきた屈強な警備スタッフたちが、葉弐を掴んでいた三人のファイターを取り押さえた。
「予選会場内での私闘は厳禁だ! 貴様ら三人は強制失格、即刻退場しろ!」
「待ちやがれ! こいつが先に煽って――」
抗弁も虚しく、男たちは引きずり出されていった。葉弐は去りゆく彼らの背中に、満面の笑みで中指を立てて見送った。
「……ふぅ。一歩も動かずに三体排除。効率的すぎる不戦勝だぜ」
そして、葉弐の出番がやってきた。
特設リングの観客席では、アホライダーと火野が並んで座っていた。周囲の熱狂をよそに、二人はひどく退屈そうにタバコを吹かしている。
『――Ladies and Gentlemen! 予選最終ブロック、赤コーナー!』
レフェリーの絶叫と共に、爆音の入場曲が流れる。
『全米が恋する鋼の肉体! イケメンレスラー、マイケル・トリガー!!』
現れたのは、彫刻のような顔立ちに眩いブロンド、完璧にビルドアップされた肉体を持つ男だった。
会場中の女性客から、鼓膜を破らんばかりの黄色い悲鳴が上がる。マイケルは白い歯を見せてウィンクを振りまいた。
『対するは青コーナー……日本から来た謎のスカジャン小僧! 弥助・バニ!!』
葉弐がリングに飛び乗った瞬間、会場を包んだのは嵐のようなBooingだった。
「帰れガキ!」
「マイケルを汚すな!」
「汚い手でマイケル様に触んじゃないわよ!」
浴びせられる罵声の嵐に、葉弐は耳をほじりながら鼻で笑った。
「……人気者は辛いねぇ。でも、最後に立ってるのが誰か、教えてあげるよ」
レフェリーが両者の間に入り、右手を振り下ろした。
――ゴングの音が、血に飢えたベガスの空気に響き渡った。