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まふゆをセカイに呼んだ。何故ならしたいことがあったから。
「で、どうしたの?」
「まーまー。そこ座りなさいな」
「……」
まふゆは私が手に持っているポーチや、不自然に置かれた鞄に目を向けつつも座った。
「これから何するの?」
「すぐ分かるから、安心して。はいじゃあこっち向いてね」
そう言うと私に顔を向けてくれるまふゆ。私はポーチからまつげを上げる道具であるビューラーを取り出す。
「…………絵名」
「止まっててよ」
「待って、どこに挟むの?」
私の肩に手を置いて否定の体を取るまふゆ。あ、なんか楽しくなってきたかも。
「まつげだけど」
「大丈夫?」
「え、何怖がってるの〜?」
「だって絵名だし」
「大丈夫そうね。はい、動かないでね〜」
私の肩をぎゅっと握り、目もぎゅっと瞑るまふゆ。
「目開けて、目!」
「ええ……」
「巻けないでしょ、死なないんだから大丈夫だって」
「極端過ぎない? 瞼挟まないでよ」
「いやいや、そんなことならないから。……あ、他人のって意外とやりにくいわね」
そういうと直ぐにぎゅっと目を閉じるまふゆ。
「ちょっと、急に目を閉じるほうが危険なんだからね!」
「じゃあ変なこと言わないでよ」
「てか、まつげ上げるだけなんだから、怖がることないでしょ。これじゃ時間掛かって仕方ないじゃない」
「…………ええ……」
「うん。そんな怖がらなくていいから」
不安そうな目で私を見つめるまふゆ。確かに人のはやりにくいけど、まさか怪我なんてしないから怖がる必要ないんだけどな。
漸くビューラーが目元に近づく感覚には慣れたようで、少し震えていたがもうまふゆは動かずにいてくれた。瞼に添えて、ゴムの部分でまつ毛を挟み、上へと向ける。そうして、じっとしてくれていたお陰で右目のまつ毛はバッチリと上がった。
「ねえこれ、右目と左目の違い分かる? ほら目の大きさちょっと違うでしょ」
鏡を取り出し、自身の姿を見せながらまふゆにそう聞く。
「あんまり変わらないけど、確かに違うね」
「一言余計よ。じゃあ、左目もやっていくからね──」
***
そうしてビューラーという予想外の最難関を突破した後のまふゆは、何も言うことなくじっとしてくれていた。
私も楽しくて、持っているメイク道具を総動員してまふゆにオシャレさせた。
最後の仕上げに口紅を唇に塗ればメイク完全だ。
「じゃあ、口紅塗るから」
「別にそれくらい出来るけど」
「じっとしてて」
「はい……」
それなりに時間を掛けてやってきたからか、まふゆはもう言うことを聞くようになっていた。話が早くなって助かる。
下唇に塗っていく。唇の感触が何となく伝わってきて、少し気恥ずかしい。メイクに夢中になっていて分からなかったが、意外とまふゆとの距離が近かったのだと、実感する。
「はい、じゃあ唇こうやって塗り合わせて」
「ん……」
私の真似をし、下唇のものを上唇に伸ばす形で擦り合わせる。それを少し繰り返して、目線で私に次の合図を仰ぐ。
「うん、もうよし。完全!」
まるでモデルのような容姿をしたまふゆ。いや、もとから顔は良かったのだ。垢が抜けて、顔が整っているという状態に磨きがかかり、美しいと誰もが口を溢すような姿になった。元から美しくはあったが。我ながら上手に出来たと思う。
「ほらまふゆ。見てみて」
まふゆに鏡で自分の姿を見させると、少し驚きの声を上げた。
「凄い、印象が違って見える」
「でっしょ〜。メイク得意だから」
「高校生でそれって、褒められることなの?」
「褒められるでしょ。あんた失礼ね」
まふゆも自分の姿には少し驚いているみたいだ。暫く鏡を見つめ続け、それから私の顔を見る。
「絵名に私もやりたい」
「え、私もうしてるけど」
「ここまではしてないでしょ。いい?」
「いや、初心者のまふゆがそんなパッパとできるわけないでしょ。まあ教えてあげるけど」
「もう覚えたけど。うん、教えて」
不吉な言葉が聞こえたが気の所為だろう。
まあまふゆがメイクに興味を持ってくれたなら嬉しい。教えながら、下手っぷりを笑ってやろう。
──完璧にこなすまふゆに嫉妬するのは、また別のお話。