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〜65日目〜


まふゆをセカイに呼んだ。何故ならしたいことがあったから。


「で、どうしたの?」

「まーまー。そこ座りなさいな」

「……」


まふゆは私が手に持っているポーチや、不自然に置かれた鞄に目を向けつつも座った。


「これから何するの?」

「すぐ分かるから、安心して。はいじゃあこっち向いてね」


そう言うと私に顔を向けてくれるまふゆ。私はポーチからまつげを上げる道具であるビューラーを取り出す。


「…………絵名」

「止まっててよ」

「待って、どこに挟むの?」


私の肩に手を置いて否定の体を取るまふゆ。あ、なんか楽しくなってきたかも。


「まつげだけど」

「大丈夫?」

「え、何怖がってるの〜?」

「だって絵名だし」

「大丈夫そうね。はい、動かないでね〜」


私の肩をぎゅっと握り、目もぎゅっと瞑るまふゆ。


「目開けて、目!」

「ええ……」

「巻けないでしょ、死なないんだから大丈夫だって」

「極端過ぎない? 瞼挟まないでよ」

「いやいや、そんなことならないから。……あ、他人のって意外とやりにくいわね」


そういうと直ぐにぎゅっと目を閉じるまふゆ。


「ちょっと、急に目を閉じるほうが危険なんだからね!」

「じゃあ変なこと言わないでよ」

「てか、まつげ上げるだけなんだから、怖がることないでしょ。これじゃ時間掛かって仕方ないじゃない」

「…………ええ……」

「うん。そんな怖がらなくていいから」


不安そうな目で私を見つめるまふゆ。確かに人のはやりにくいけど、まさか怪我なんてしないから怖がる必要ないんだけどな。

漸くビューラーが目元に近づく感覚には慣れたようで、少し震えていたがもうまふゆは動かずにいてくれた。瞼に添えて、ゴムの部分でまつ毛を挟み、上へと向ける。そうして、じっとしてくれていたお陰で右目のまつ毛はバッチリと上がった。


「ねえこれ、右目と左目の違い分かる? ほら目の大きさちょっと違うでしょ」


鏡を取り出し、自身の姿を見せながらまふゆにそう聞く。


「あんまり変わらないけど、確かに違うね」

「一言余計よ。じゃあ、左目もやっていくからね──」



***



そうしてビューラーという予想外の最難関を突破した後のまふゆは、何も言うことなくじっとしてくれていた。

私も楽しくて、持っているメイク道具を総動員してまふゆにオシャレさせた。

最後の仕上げに口紅を唇に塗ればメイク完全だ。


「じゃあ、口紅塗るから」

「別にそれくらい出来るけど」

「じっとしてて」

「はい……」


それなりに時間を掛けてやってきたからか、まふゆはもう言うことを聞くようになっていた。話が早くなって助かる。

下唇に塗っていく。唇の感触が何となく伝わってきて、少し気恥ずかしい。メイクに夢中になっていて分からなかったが、意外とまふゆとの距離が近かったのだと、実感する。


「はい、じゃあ唇こうやって塗り合わせて」

「ん……」


私の真似をし、下唇のものを上唇に伸ばす形で擦り合わせる。それを少し繰り返して、目線で私に次の合図を仰ぐ。


「うん、もうよし。完全!」


まるでモデルのような容姿をしたまふゆ。いや、もとから顔は良かったのだ。垢が抜けて、顔が整っているという状態に磨きがかかり、美しいと誰もが口を溢すような姿になった。元から美しくはあったが。我ながら上手に出来たと思う。


「ほらまふゆ。見てみて」


まふゆに鏡で自分の姿を見させると、少し驚きの声を上げた。


「凄い、印象が違って見える」

「でっしょ〜。メイク得意だから」

「高校生でそれって、褒められることなの?」

「褒められるでしょ。あんた失礼ね」


まふゆも自分の姿には少し驚いているみたいだ。暫く鏡を見つめ続け、それから私の顔を見る。


「絵名に私もやりたい」

「え、私もうしてるけど」

「ここまではしてないでしょ。いい?」

「いや、初心者のまふゆがそんなパッパとできるわけないでしょ。まあ教えてあげるけど」

「もう覚えたけど。うん、教えて」


不吉な言葉が聞こえたが気の所為だろう。

まあまふゆがメイクに興味を持ってくれたなら嬉しい。教えながら、下手っぷりを笑ってやろう。


──完璧にこなすまふゆに嫉妬するのは、また別のお話。

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