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作業をしていると、まふゆが隣に座ってきて、左手を繋がれた。いつもの恋人繋ぎ。別にそれで困るという訳ではないが、流石に描きにくい。
まふゆは読書をしている。ページをめくる度に左手が掻っ攫われるので、集中が続かない。……やっぱり困るかも。
動かないように私は強くまふゆの手を握って、スケッチブックに描きやすいよう押し付けた。
「ん……絵名?」
「何」
「動かない」
──あ、そう。
返事はしてやらず、私は作業を続ける。
「うわっ」
しかしそうしていると、力強く左手を引っ張られ、まふゆは握った右手で本を支えながらページをめくった。
「ちょっと。何すんのよ」
「ページがめくれないから」
「片手で読めないの?」
「やってみると分かるけど、こうやって本の隙間に手を置いとかないと閉じちゃうんだよね。だから片手でめくろうとすると大変なの。そもそも持てないし」
「ふーん。なら、手を離せばいいでしょ?」
「平等にしようよ。使わない時は手を下に置いておけばいい」
「え、うーん、まあいいけど」
地面に手を置いて、作業を始める。
描きにくいことは確かだが、まふゆも条件が同じだしいい気もした。これなら喧嘩になることもない。
絵の全体図を見てみると、少しバランスが悪い気がした。消しゴムで消そう。右手で消しゴムを持って、消そうとするが、スケッチブックが固定されてないので力がこもらず消しにくい。
──仕方ない、左腕を上げよう。
そう思い左腕を上げた。案外軽く上がったな、と思った。同時に、手が動かないな、とも思った。
「「……」」
お互いに顔を見合わす。パチパチと二、三回瞬きをしたまふゆは、そのままぐいっと右手を引っ張った。
「ちょ、力強!」
「はい、いいよ」
「このシステム不便すぎるんだけど! ていうか、私は作業してるの、私に譲りなさいよ!」
「絵名のほうが時間掛かるし。まあ待っててもいいけど」
「なんでそんなに上からなのよ。そんな立場じゃないからね」
文句を言いつつ、おかしいところを消していく。こういうのはまともに相手をしてはいけないって、私は知っている。
まふゆは私の肩に頭を乗せて、絵を覗く。
「いいね、今回の絵も」
「……も?」
「も……。」
「え、何それ、へぇ、ふーん」
「嬉しそうだね」
「ま、少しだけね~」
まさかそんなことを思ってくれていたとは。
もう少し言葉にしてくれてもいい気がするが。まあ、それだけでも上出来か。私のことが大好きなまふゆの為に、手は離さないでおいてやる。