テラーノベル
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「アレス、話があるんだけど」
「…」
ピッ
インターホンの通話ボタンを押す
「…もう話すことなんて何もない」
「ねぇ これ、どういうこと」
俺の言葉を無視して突きつけられたスマホの画面には、数時間ほど前に俺が送ったメッセージが映っていた
「…そのまま、別れたいってこと」
「なんで」
「…理由なんか聞いても意味ないだろ、お前に飽きただけだよ」
「納得できない」
「しなくていい」
「僕の何がいけなかったの、ねぇ、教えてよ」
「全部直すからさぁ…!お願いだから捨てないで」
「そういうのがダルいんだよ…」
「…は?」
「じゃあもう切るから、もう二度と連絡すんなよ」
「待てよ」
ガンッ
額を打ち付ける痛々しい音に気を取られ画面を見ると
血走った片目だけがこちらを見ていた
「…?!ひっ…」
「…」
ヘルメスは少し画面から離れ、ニコリと笑った
「アレス、鍵開けてよ」
薄く細められた目の奥は、ちっとも笑っていなかった
「なんにもしないから、ね?」
「話したいだけなんだってば」
穏やかな声が逆に恐怖を刺激する
「…ひ…ぃ…」
「…」
何も答えない俺に笑みを消し、
「早く開けろよ!!」
ガンッ!
声を荒げて扉を強く叩かれた
「…ぅ…っ…」
怖い…!
こんなヘルメス、初めて見た
「…ただで済むと思うなよ」
ヘルメスは一向に開かれる様子のない扉を見やり、ぼそっと口にした
「ッ…!」
ブツッ
「っはぁ…!はぁ…!!」
き…きっちゃった…… いや…これでいいはず…!
「はぁ…は…ふぅう…」
大丈夫…大丈夫…
「はやく…ねよう…」
ガタッ
「ひっ…?!…な、なにっ…」
…今夜は風が強いようで、窓が風で揺れた音だったようだ
「…ッふ…ふぅっ…」
…あの目が、ヘルメスのあの目が、頭にこびりついて離れない
「…ちゃんと、寝れるかな…今日…」
コト…
「…ん、」
…なん、だ…?
「んぅ…う…」
…だれか、いる…?
「やぁ」
「……は…」
ガッ
体をベッドに押さえつけられる
「ッッ…?!!」
「何も理解できてませんって顔してるね、…かわい…」
ギュッ…
首にヘルメスの手が這い、力を込められる
「が、ぁ…ッ」
「な…んで…っ、お前…ッが…!」
「そんなの決まってるじゃない?君の恋人だったからだよ」
チャリ…
俺の首を絞める手とは反対の手には、合鍵が、ぶら下がっていた
「…ぁ」
「君がバカで助かったよ、ほんと」
ぐぐっ
「ぅ゛…っ…ほ、んと、に゛っ…ゃ…め゛…」
「君の首、いっつも細くてすぐ折れちゃいそうだなーって思ってたんだぁ」
今、この場に似つかわしくないほど楽し気に語る
「…試してみたかったけど、君を怖がらせちゃうと思って」
「……でも、」
す、と目を細め、
「別れちゃったんだからもう良いよね?」
……何もかも吹っ切れたように、笑った
「ぇ、」
「ほらほら、締まってくよ〜…」
うっとりと、恍惚とした顔をして、首を絞める指に力を込めていく
ぐ…ぐっ…
「ぅ゛…ぁ゛ぁ゛…」
ま ず い ほん とに
これ しん じゃ
「ッ…まっ……で…ッ…ゎ…か……れ…たく…な…」
「…ん〜?」
す…、と少し力を緩まる
「ごべッ…ぉれ…っ…へると…ッ…ほんとはぁっ…わかれた、く、なぃ…!」
「……僕のこと、好き?」
感情の読めない顔で、何かを問いかけてくる
頭に酸素が回らない、何を、言っている…?
「すき…ッだいすきっ…」
「……」
ぱっと手を離される
「ッぶはっっ?!っげほッぇ゛っほッ…はぁ…ッはぁッう…ぅ゛…げほっ……ぁ、ふ、」
酸素を取り込もうと無理に空気を吸いすぎて空気の塊が吐き出される
「…んふ、ごめんね?」
満足そうにそれを見つめてくる
「でも、そうなんだ、僕のこと大好きで、本当は別れたくないんだ」
首を労るかのように手を這わされる
それだけで、息ができないような感覚に陥る
「…ぅ…うん…」
もし…気に障ったら…っ今度こそ…っ
「うれしいなぁ…」
ぎゅ~…
「…ぁ…」
散々嗅いだ匂いだ
…さっきまで殺されかけていたのに、そんな奴の匂いに安心している自分がいた
「……アレス、愛してるよ」
「ひっ…ぅ…?」
とんっ、と横腹に何かが当たる感覚がした
「…だから」
バチィッ
「ぐッぁ゛…ッッ?!」
ぎゅ〜…
がくがくと震える体を抱き締められる
「これからは僕の家に一緒に住もうね」
「君がもう2度と別れたいなんて言わないように」
薄れる意識の中、俺の悲鳴は奴に飲み干された
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