星が見えない夜のことだった。
大切な友人が唇を奪われていたのは。
☆
「いやぁ……思うんよ、俺。」
「…何を?」
「テレビ、見てみて。」
ガッチさんがお酒を買いに出かけてキヨがソファで携帯をいじっている中、一人でトランプで遊んでいた俺。
そんな俺にテレビに真剣だった男が話しかけてきた。
言うことに黙って従うと、テレビの画面では女性の唇に齧りつくようにキスをしている俳優の姿が映されていた。
やっぱり昔の映像は今よりも大分過激だな。
トランプを持っている手を強く握りしめて、その情報を教えてきた男の方を見返す。
「なぁ?」
「なぁ?」とは何だよ。同情求められたって用件伝えられてないから分かるわけないんですけど。
「…凄いよなぁ…食べてるみたいに見えるもん。」
「美味しいわけじゃないと思うんやけどな…」
「………まぁ…そりゃそうだろうね。」
俺は一体何の会話をしているんだろうか。今の状況であれば誰もが考えるであろうこと。
三十路のやつら二人でどろどろとした会話、しかもシラフでだ。
「…ちょっとは気にならない?」
間を置いて気を疑ってくる辺り、適当に相槌を打っていると思われたのだろう。その考えが見事に当たっているんだけどさ。
「正直、考えたことあんまなかった。」
「…そんなんだから思考力鈍っていってゲーム一番下手なんだよ?うっしー。」
「さらっと馬鹿にしてんじゃねぇよ」
一番下手なのはお前だろうとでも言おうと思ったが、これ以上言ったら何をしでかすか分からない。
俺は徐々に冷静になり、手の中のトランプの折れ曲がった形をじんわりと手で直し始めた。
△
ガッチさんが帰ってきてから数時間。
そろそろゲームを開始しようとしたとき、キヨが急に何かおかしなことを呟きやがった。
「キスか…」
俺は一瞬耳を疑った。
一体どうしたのだろう。あの話をしたのは何時間も前のことだ。そんなこんなを考えていると、酔っ払ったおじさんが食いついてきやがった。
「…え?キヨ、キスしたいのぉ?」
「いや別にそういうことじゃないんだけどさ…。」
「なんならおじさんにちゅーしとく?」
「それはマジで無理だわ」
「冗談じゃ~ん」
本当にテンションが高くて呆れてしまう。やってはいけない線のギリギリをこの人は踏みやがる。全く、心配で心配で仕方がない。
「ガッチさん、ちょっと黙ろ。」
そんな時、遮ってきた言葉の元凶の人。
え…?
こんなん面倒くさくていつもほっといているのにどうしたんだよ、レトルトさん。
俺の仲間じゃなくなったのかよ。
「え~…レトルト氏が構ってくれるなら黙ろうかなぁ」
「えー…嫌だな…。うっしーじゃ駄目?」
いつもの行動とはかけ離れていて、疑問符ばかりで整理をしていたら、火の粉が飛んできた。
ばっちぃから俺にかけんなよ…。
「なんで俺なんだよ、なすりつけんな。」
「ちょっとぉ…今おじさん人気者?仕方ないから二人に構ってあげるよ~」
あ、これもうだめだ。一番面倒臭いことになった。
肩の荷が重くなるのを感じると同時に、唯一攻撃を免れたキヨの方へと目を向ける。
すると、携帯ばかり見ていた目がムスッと、ある一人の方へと向けられていることに気がついた。
そのなんともモヤモヤとしてそうな瞳は、また俺達を狂わせる言葉と共に揺らめいた。
「…レトさんたちは?」
「え?」
「キス。したいんじゃないの?」
「えー………え?」
静寂の間、時計の秒針の音だけが鳴り響く。
こういうとき酔っぱらいは便利なのに寝落ちしやがった。
いきなりなんでそんなことになったんだよ、お前の脳味噌。
なんて答えたら正解だなんて俺には分かりやしない。隣にいる奴だってそうだろう。
って思っていたのに、案外冷静に彼は答えを割り出した。
「…好きな人とはね。」
絶対に目を合わせない形で、壁を張るかのようにキッパリと答えていた。
「まぁ、俺もそんなとこ。」
この流れにあやかって俺も自信満々に答えておいたが、興味がなさそうな返事で幕を強制的に閉められた気分だった。
「…ふーん…。」
「じゃあさ…レトさんは好きな人いるの?」
「なっ」
俺には相手がいるから片方の人に尋ねるのは当たり前だとは思うけれど、
なんで、そんなに冷めた目を、声をしているんだろう。
いつもはこんな話はつまんなそうにする癖に今日に限ってキヨの食い付きようが恐ろしい。
突き刺すように、何かが気持ち悪いような雰囲気でじとりと回答者のほうを見つめる。
「…いるって言ったらどうすんの」
…そして思いもよらぬ回答。これには少しだけ瞳を丸くしていた質問者。
「…いるんだ、意外。……どんな人?」
「………キヨ君には関係ないじゃん。」
むっすりと明らかに顔を曇らせるレトルトさん。キヨはほんの少し苛立ったのか、目線が合うように彼の前に座り「関係あります」といったオーラを放った。
そうすると、ポッキリと折れて零れるように言い放った。
「……趣味を黙って聞いてくれて、空気の読めないこ。」
「…ふーん………。」
「………もし…俺がそんなこだったらさ、レトさんは俺とキス、できる?」
「……えっ…なっ、んで…その話になるん?……今は関係ないじゃん。」
「気になるから。俺の好奇心。」
その言葉を真っ直ぐに聞いた瞬間、彼はいつもよりも鼻声で言葉を告げた。
「………ていうかできるもんならしてみろよ。」
キヨの自分勝手が過ぎてしまった行動に少し怒りが表れる。
落ち着いて、なんて聞かないんだろうから「まぁまぁ…」と二人を宥めるようにポーズをとる。
これではレトルトさんの心が可哀想だ。
急に古い友人に質問攻めをされて、キスを出来るかなんて聞かれてるんだから。
そう思っていた矢先、声と同時に髪が靡いた。
「うん。」
柔らかく、怒りを露わにした男の髪の毛を両手で包んで唇をそっと押し当てていた。
可哀想な、大事な友人が動物に喰われてしまっていたのだ。
「おまっ………何して…」
「………何って、キス。」
「……え?……?」
顔を真っ赤にして唇を必死に抑えている。心なしか髪の毛もぼさっとなっている。
そして、キスをしたやつは「ごめん…ごめん…」と上の空で呟いている。
はぁ……どうやら悪夢ではなかったようだ。
キヨは涙目でぐいっとレトルトさんに近づく。
「……レトさん、好きな人がいるのはどうでも…よくはないけど、今はいい。」
「俺、ただただ好き。レトさんのことが恋愛的な意味で。」
「俺、レトさんの好きになったこみたいじゃないし、バリバリの男だけど、大好き。」
「……お…まえ………」
流れ出るような告白に、流石の俺もびっくりしすぎてやっと声が出た。
当の本人、レトルトは何故か俯いてぷっと吹き出した。
「…は???」
「…お前さ…好きなこみたいじゃないって何…w…どう聞いてもお前のことじゃん……w」
クスクスと安堵した表情で笑っているレトルトさんは、「俺も好きだよ、キヨ君のこと。」と半笑いで重たい言葉を投げ出した。
この場で二人が驚いているなか、彼は一人で地味にツボっている。意味分かんねぇんだけど。
「………え…じゃあ………すれ違い…ってこ…と?」
「……ほんまやね。」
星が見えなくて、真っ暗な夜だと思っていた。それはこの二人だって同じことだろう。
だけど、こんなにも幸せそうに自分達の勘違いなんてちっちゃいことを笑っている奴らが目の前にいるとさ
案外星だって見えてきちゃったかもしれないわ。
☆fin.△
何が書きたいのか途中で分からなくなってしまった。
コメント
5件
あはぁ好きです、、、
やべ、めっちゃ誤字った笑笑 キヨがキスしたあと涙目なのだめってわかってるのにやっちゃった感があって最高でした(( うっしーそこ変わって!?!?!?