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[甘さ一粒落とす]
「チョコ、いるでしょ?」
俺が見過ぎていたからか、はたまた意地汚いと思われたのかは知らないが、食べていたアーモンドチョコレートをころりと掌に乗せて差し出してくれる。
「あ、うん。」
ひょいと摘まみ上げて口へ運ぶと、久々に食べたことと、彼に気づいて貰えた喜びが相まって、顔が蕩けるほど美味しく感じた。
美味しい、凄く。
「…ふっ…」
はっと気づき、感情むき出しのにやけ顔が漏れてないかと心配したが、その必要をするには少しだけ遅かったらしい。
小刻みに震えて笑いながらもう一粒を渡される。
そんなにツボらなくたって良いじゃないかと思うが、それと同時に笑わせた自分が少し誇らしげに思えてしまった。
「…もう1個」
「……そりゃどーもありがとうございまーす」
その固まった指先から取ろうと思ったが、手が滑ってしまい床に落としてしまった。
「キヨ君何してんの」
「…今のは持ち方が悪かったと思うんですけど」
「ごめんて。」
…そんな照れ笑い、狡いじゃん。
絶賛片思い中だというのに、まだまだ俺の方だけ落とされる。
恐ろしいお人ですわ、ほんと。
[くだらないごっこ]
「やだ、もういや」
嘘吐き。俺知ってるからね、そんなこと言ってもレトさんはコントローラー握りしめてることなんてさ。
「ほんっと、つまんな…w」
つまんなくったって静かには笑ってくれるじゃん。つまんないからレトさんは笑えてるのかも知れないじゃん。
柔らかくて穏やかな風が吹く頃に、そんなハリボテを置いて口を開く。
その言葉とは真反対の行動をよく取るので、一つ一つのくだらないワンクッションがとても愛らしい言葉なのだ。
そう心に留めて、彼の手を優しく握った
そんな春はどこへ行ったのか。
「…俺、キヨ君からちょっと離れるね。」
それが物理的な意味だったのか、精神的にだったのか、その答えは九割は後者であった。
「なん…で」
彼にも聞こえない声でしか話せなくなった動揺を隠せない声は震えていて、気が抜けると嗚咽が止まらなくなってしまいそうで言葉を飲み込んだ。
寂しげに背を向ける姿に、その言葉の意味がハリボテだったかどうかなんて聞けなかった。
手を伸ばそうと差し出した指は思うように動かなくて、そのまま握り締めてしまった。
あの時何か言えば、止めることが出来ていたのかも知れないのに。
くだらない、ハリボテの好きごっこじゃなかったのに。
[埋めて、枯らしてちょうだいな]
「俺の気持ち、ぜーんぶあげるからさ」
唐突に口を開くキヨ君。その言葉を放った後、全部あげるまでに時間めっちゃかかるけどと苦笑する。
「ちゃんと埋めて、恋いっぱい咲かそ?」
意味が分からなかった。恋って咲くものなの?とかの疑問は勿論のこと、種のように簡単に埋めることが出来るのかも心配になる。
「何で埋めるの?」
「埋める係がレトさんだから」
「いや…そういうことじゃ…」
届いているが届いてないふりをしているのかは定かではないが上手く話がかみ合わない。
「…俺はね、さっき言ったとおり全部あげるよ、恋の種。それをレトさんに植えて欲しいの。ゆっくり、ゆっーくり俺のことを大好きでいれるようにさ。」
「まぁ、人間誰しも飽きることなんて多々あるけど。」
しょうがない、と一区切りつけたような顔をするキヨ君に自分の思いを告げる。
「じゃあ…キヨ君が水、あげてね。」
「え?」
「俺が植えた種に枯れるぐらい、愛を注いでみてよ。」
「…狡いわ……それ。」
二人とも本気でこの話をしているっていう事実が大分恥ずかしい。
そんな日に限って、いつもよりも優しく素直に真っ直ぐと風が吹いていた。
[水の外側]
コップの中を覗くと、反対側にはものが見える。いつもと違う景色にたまにぼーっと見入ってしまう。
「…それ、楽しい?」
今まで此方には興味がまるでない、みたいな顔をして携帯を見ていたのに急な疑問の吹っかけ。
「…どっちでもないかなぁ…」
正直言って、楽しくない。
だが、うっしーたちが来るまでまだ時間を持て余している。普段からそんなに喋らない一人を加えたところで暇なことは変わりない。
そこで発見した遊びがこのなんとも言えない眺める作業。
「…ふーん」
形だけの返事を言うと、キヨ君はソファからのそりと立ち上がって俺の前に座った。机を挟んで距離は遠いが、彼の長い足がちょんとあたる。
「なんで場所移動したんだよ」
「んー…いいこと思いついたから、試しにね。」
その後、机にべたぁっと顔を押しつけて、さっきの俺の遊びをし始める。レトさんもしてみて、と言われたので言われたとおりに動いてみる。
「あ」
ぱちりとキヨ君と俺の目が合う。
「やっぱり」
俺のこの気持ちなんて知りもしない癖に、ころころと楽しそうに笑っている。
…水に沈めてしまいたい。この笑顔をただの友達の笑顔という認識に戻したい。
不純な欲求が捨てきれないまま、目を逸らす。
「けどさ」
キヨ君がコップに手をかけて、横へとスライドさせる。ぱしゃりと水飛沫が少しだけキヨ君の方へとかかった。
「こっちの方がやっぱり落ち着く。」
目はその瞬間に伏せられたが、さっきの位置のまま机に頬をついていた。
「……そうね」
いつもと変わらない返答をして、コップの水を口に一気に流し込む。
一瞬でも勘違いしてしまいそうだった自分が恥ずかしい。
淡い期待は水とともに喉元の奥へと流し込んでしまうことにした。
「……美味しくないなぁ…」
ーーー
短編詰めてみました。
たまにはこういうのも楽しいかもです。