テラーノベル
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「名前お姉さん!」ポアロに入った瞬間歩実に抱きつかれ、「ひっ…!」スミスは固まる。ふっ、と後ろで降谷が吹いた音がした。
「大丈夫?みんな心配してたんだよ!」
歩実は目を潤ませる。「名前さん」蘭と園子も立ち上がる。
「あのもうひとりの…」
「あぁ」と降谷は笑って頷く。全員はほっとしたような表情になる。
「彼は大丈夫。もうぴんぴんしてる」
「よかった!」
「でも名前さぁん」ゆら、と梓が出てくる。「安室さんもだけど…」「げっ」
降谷は梓が持っていたごみを持って裏口へ出ていく。というか逃げる。
「あなたたちがいない間……シフトずっとワンオペ……」
「ごっ、ごめんなさーー」と言いかけると、歩実が目の前で手を広げる。
「梓さん!怒らないで!」
「でもね、歩実ちゃ…」
「1番悲しいのは、名前お姉さんなのよ!」
スミスは目を見開いた。
「だからっ」歩実は首を振る。「悲しい気持ちなのに、怒っちゃだめーー!」
梓はずい、とスミスを見る。「可愛い味方に免じて許すわよ。でも日本は無断欠勤に厳しいんだからねっ!わかってるのーー」
カラン、と入ってきたコナンに、スミスはすぐカウンターに入る。
「終わった?」とじと目でサッカーボールを抱くコナン。
「はははは!」園子はコナンの頭をがしがしとやる。「き、今日はだめっ」歩実は赤くなって蘭を見る。
「ふふ。今日は女同士の内緒話だもん」
ねーっ!と3人は笑う。
「じゃ僕の小腹はどこで満たすのさ」
「ほらっ」降谷がカウンターにサンドイッチを出す。「食べたら帰る!わあったよ…」ちっ、と舌打ちするコナンの目の前に、ゆら、とスミスが立った。
「【名前】さん」
「…!」スミスはまな板を見たまま目をまた見開く。
「よかった。無事で」
「コナン…あ」スミスは小さな女性を見た。
「歩実…」
「え?あっ!」
スミスは彼女をかき抱く。「え?」降谷が素直に目を瞬かせた。
「……ありが、と……う……」
なんで?という顔の歩実に、皆も首を振っていた。
「わたしが泣いていたとき…叫んでいたとき……誰も…わたしの気持ちを守ってくれた人は……いなかったのよ……あなたと風見と……透以外は……」
「名前お姉さん?」と言う歩実をさらに強く抱く。
コナンにはその囁きは聞こえていた。
「ありがとう……」
「名前お姉さんっ」と言われ、はっとする。
「お、お胸でっ…苦しいよ……」
ぶっ、とコナンはサンドイッチを吹いた。
「はははは!」園子が笑う。「いーねぇ?安室さんはぁ?」「えっ!や、やめてください…」降谷はちらちらいろんなところを見ながら手を洗う。
「や、やだ!赤くならないでよ安室さん!」
「なってませんよ!」降谷は叫ぶ。「ふっ」と聞こえ、皆がスミスを見た。
「ふっ…ふふふっ…あは、あははっ!」
「名前…」
「笑い事じゃないよっ!歩実、息できなかっーー」
「あははははは!あははははっ……」
スミスは声をあげ、腹を抱えて笑った。
やがて皆も、つられて笑い出す。
コナンは見ていた。降谷の、彼女を見つめる、切なそうな、苦しそうなーーいとおしそうにする笑みを……。
「あっ大丈夫?よかったー」蘭はスマホを1度離す。「世良ちゃんがまた部長に聞いてくれたって!」ぐっ!と親指を立てる。
「そういえば文化祭どうだったんだい?」皿を洗う降谷が聞く。「大成功すぎた!」と園子が言い、自分で拍手する。「みーんなわたしに目を奪われて、あ」と電話する蘭を見る園子。
「でも1番人気だったのはわたしでも蘭でもなく、昴さんだったけどねー」
カウンターにいるコナンが、揺らしていた足を止めた。
「へぇ」にこり。と降谷は笑って、また泡に手を突っ込んだ。
「歩実も見たかったなー」
「学校だし仕方ないよ。それに子供にはまだはや……」
「ん?」と皆に見られてコナンは笑った。
「よしっ!」と降谷はエプロンを外す。
「う…」とスミスがお札を数えにくそうにめくる。
「日本のお札は…大きくて数えにくい」
「ああほら、名前」と降谷が後ろに立つ。「ここに指入れてさ、こうめくるんだよ……」
「なにこのイチャイチャ」園子は小さな声で言う。「しっ」と蘭。
こて、とスミスは頭を後ろの降谷に預けて見上げる。
碧い目に捉えられ、降谷は手を止めた。
「随分と……セクシーな銀行員さんね」
「っ…」さっ、と赤くなったのがわかり、降谷はスミスから離れる。
「は…早く数えてくれ!」
「安室さん顔あかぁい」歩実に指差され「今動き回ってたからだよっーーさぁみんな!車乗って!」
バタバタ出ていく降谷に、歩実は高校生2人を見てぺろ、と舌を出した。
「やぁ!」と世良が手をあげる。
「いつも思うけどさ」と園子。「なんであんた、いつも放課後残ってるの?」
「ん?調べ事さ」
「なにを?」と首をかしげる蘭にコナンは手を引いた。
「早く行こ……ん?」駐車場に止まる見知らぬ車からーー「あ!あの人…」出てきた風見に、皆がざわつく。
当たり前だ、と降谷は思う。「ポメラニアンの」「ポリアモリだよ園子…」「え?」と世良。コナンはこそっと言う。「名前さんポリアモリなんだ」
「まじでぇ?はー」世良はやれやれと首を振った。
「今日はね…」ふふ。と名前は風見を見て笑う。皆ぎこちなく首を動かす。
「だんな様が主役」
「え…安室さんはじゃなんなの?」と園子が言う。またあの笑みに、園子は赤くなった。
「もちろん。わたしの……男、よ」
う…と降谷が少し下がったのがコナンには見えた。
「無理です!」風見はぶんぶん首を振った。「人前でう……しかも英語!?できませんっ!」スミスはからだごと寄る。「セクシーに」「いっ」「目を奪うように」と降谷も寄る。
「や……!」とまだなにもしてないのに赤くなる風見に、はあ。とスミスは腕を組んだ。
「大丈夫よ、だんな様。あなた…」と人差し指で顎をあげる。「…っ」「十分セクシーだから…」わあっ!と風見は手を払う。
「は、恥ずかしい…!」
「あなたを見てるわたしのほうが恥ずかしいわよ、風見…」
「僕もだ」
きっ!と風見は降谷を睨み付ける。
「降谷さんとわたしは違うんですよーー女性経験もあまりないし!そんな……」とスミスをちらと見てまた降谷に戻す。
「誰かを誘惑するように、とか!性的に魅力的に振る舞えとかーー色んなこといっぺんに!できませんっ」
「や、る、の」とスミスが横から言う。
「日本人は伝統が好きだからな」
さらに横から降谷が言う。
「でもそれじゃあな、向こうは夜にもてなされてるのに…何も面白くない」
「それじゃ女は喋らないわ。ただお腹いっぱいで帰宅しちゃうわよ」
ひらひら、と指を遠くにやるスミス。
「英語の発音はわたしが見てあげるから、これ。まずは読むことから。歌うのはそのあと。歌い方は彼に」
「…」黙りこむ風見に、肩をすくめる降谷。ほれ、と言わんばかりだ。
すとん、と座るスミスがカム、と手を招く。
「…っ最悪だ」
その隣に座る風見が、歌詞を見るので、降谷も後ろから覗いた。
「スミス」と目だけで彼女を見る。「お前…これを。風見に、歌わせるのか…」
「へっ」と風見は後ろとスミスを交互に見る。
「なに?」スミスは髪を揺らす。
「なにか問題かしら…」はら、と前髪かかる碧い目が笑う。「見たい。風見がこれ、歌うの…」ふふ。と彼女は椅子を風見に寄せた。
「はあっ…」と降谷は腕をくみ、肩がつくほど近くで話し出す2人を見て思う。
ほんとに怖いな、女って……。
「あと」とスミスはす、と風見から眼鏡を引き抜く。「これはなし。色男さん。目が……ちゃんと見たい」
「こんばんはー」と高校生たちは挨拶する。頭を下げる風見。「よかったですね、無事退院できて…」「お騒がせしました」皆頭を下げ合う。なんだこれ、とコナンが聞こえないように言った。
「行こう!」
部室で1本立っているマイクを、かなり下げる風見に園子が聞く。「それだとかなり前にのめりませんか?」風見は首を振る。
「あれでいいんだ…」
「あ」と世良がにやにやするので、蘭が「なに?」と尋ねる。
「見ればわかるよ」コナンに目をやる。
「ふふっ」と爪を噛む名前を見て、降谷は2度見した。
赤くなっ……「わ」と降谷は腕をさする。「寒いんですか?安室さん」「違う違う!」怖いんだ!と言う降谷に、皆首をかしげる。
証明が落ちる。ふ、とついたライトにす、と彼はマイクを撫でるように手であがってくる。
「おぉ」目を閉じていた風見が開くと、園子は頷いた。「眼鏡じゃないほうがイケてるじゃん。ポメラニアン」「だから…」
傷つくのはわかってたんだ
それは僕がいけないよね
気づかないふりをしてたから……
「英語上手だね」と蘭。「でもこれさ」
「失恋の曲じゃない?」3人はスミスを見た。
酔っぱらって記憶をなくしてもーー
ふ、と上を向き顔を撫で下ろしていく。
君を忘れられない…………
君は僕の目を覚ましーー
手を伸ばし、ゆっくりひとつずつ指を畳む。
目を奪っていったんだ……
ああ、頭がおかしくなってたよーー
心臓を掴み、彼は苦しそうにする。
君にすべてを捧げたんだーー
力強くなる声に、高校生は後ろにからだを引いた。
だから……なにも僕には残ってない…
がっ、とマイクを両手で掴むと、少し膝を折る。
「愛していたよーー!自分が脅かされるくらいな……!」
「わぁ」と園子。「安室さんとは違う意味でなんか…」「爽やかにエロいな」
空気より君が必要だったんだーー!
半分顔を隠し、風見は顔をしかめる。
まるで泣いているように。
衝突するなんてわかってた…
でもその爆発で死んでもいいって!
両手を前に、スミスに伸ばし、ぐうっと拳を握る。
「おかしくなるくらいーー君を愛していたよーー……!」
「マイクが低いから」世良が囁く。「あの人背が高いだろ?歌うとき膝を曲げて左右に揺らされたりさ、前にのめってくると」「くるものが…あるわねぇ……」とスミスは満足そうに腕を組む。
「あなたの案」とスミスは降谷は彼を見た。「気に入るわよ【彼女】」コナンは聞き逃さなかった。
君は僕をーー掴んでーー振り回して…
ゆら、と1歩下がり、彼は頭を抱えて、天井を喉元が見えるほど見上げる。
キスして消えてしまったーー
また顔を撫で下ろしていく。
今は…今はもう……
マイクに寄るのではなく、マイクを寄せる。
僕には終わりが見えてるよーー
君も僕もわかってる……
僕らが行きつく先はわかって……
ふ、と正面を真顔で見つめる彼に、蘭が息を飲んだ。
「君は火でーー」ばっ!と手を伸ばし、自身の胸元がぐしゃぐしゃになるくらいに戻す。「僕はガソリンだーー!」
あぁ愛してる…
愛してる!
愛してる……!
懇願するような声で頭をまわす。
「愛してたよーー頭が変になるくらい……!」
叫んで彼はもう、マイクにしがみついているように見える。
「空気よりっ……」はあっ、と彼は肩を落とす。「必要だった……」
でもわかってる…
このままだと衝突してしまうって…
でもそれで自分の所有権がなくて
君にとりあげられて
死んでもいいって思ったんだよ
「気が狂うくらい愛してた…自分が危険なほど……」
す、と手を伸ばした先には何もない。降ろすのと同時に照明が落ちた。
拍手がして風見はふっ、と頬をふくらましてから吐く。
「うん!ポメラニアンいいよ!」
「だから園子…」
「安室さんと違っていやらしさはないけど、セクシーだったな」
「いやら…」と降谷は眉をひそめる。
「風見、よかったわ。だけど気になるのはーー」
「お兄さん。ブリーズ、の発音」とコナンが言うのでスミスは黙る。
「難しいよね。RとTHが入ってるから…そこだけ練習したら、もっと…」ちら、とスミスを見る。「みんなドキドキする、よね?」
階段を降りる園子が、「あ!部員だ!待ってて」と廊下を行くので蘭も続く。
「安室さん」とコナン。「近々、ドイツの首相と外務事務次官が来日するけど…」
「風見」とスミスは彼にすり寄る。「隣、いい?車」風見は降谷を見る。小さく頷くのがわかり「…行こう」と呟いてそのまま肩を抱き階段を降りていく。
「…潜入する、の?彼女も…」
安室は黙ったまま、きゃっきゃと喋っている女子高生に目をやる。たまに目が合うので手を振ると、さらに騒ぐ声は大きくなる。
「今までも…それの何か、なんでしょ。あの風見って人、公安部の人なんじゃないの?それから……【レディ】さん」
はっ!と降谷はコナンを見た。
「どこで……」と言ったとき、職員室から出てきた金髪の女性に人物に降谷は目を細めた。
「FBIーー……」
彼女の首の跡……と降谷は思い、頷く。言わないわけか。と呟き、ぐり、と拳を握りしめる。
何をしたんだ?大体想像はつくが…。
「わかってるよ。彼女は正体不明で、国にとっては敵か味方かわからない。今のところは…でも」
「僕はコナンくん。決められない」歩いてくるジョディに、くる、と背を向ける。
「彼女が人間でも兵器でも……どちらでも構わない」
降谷は歩き出した。
「彼女と僕の命を天秤にかければ、彼女のほうが重い」
もちろん…と肩越しに言う。「国にとってもそうだ……」
「安室さんーー」コナンは降谷の目の前に立つ。「国が彼女をテロリストだと判断したら、安室さんは?あなたは…」
「シュレディンガーの猫だよ」
駐車場にいるね。と降谷は階段を降りて行く。
頭がおかしくなりそうだよな、風見。あの歌を歌うお前は本当にそう見えた。
コツ。コツ。と踵を鳴らす。
毒薬を充満させた箱に入れた猫は、生きているのか?いないのか?
箱を開けるまでは2つの世界が存在する…。
猫が生きている世界と、死んでいる世界が……。
「平等など……」欄干から飛び降りた風見が見えた。手をすりぬけたスーツの裾が。
この世界にはないんだ。必ず何かを何かが……追っている……。
「……渡すものか…絶対にな……」
降谷は1度、踊り場からジョディを目だけで見てーーそのまま2人の視界から消えた。
#風見裕也
すいらん
6,560
花梨
64,851
コメント
2件
ありがとうございます!
第22話、読了しました!スミスさんが歩美ちゃんをぎゅっと抱きしめて「ありがとう」って囁く場面、彼女の過去を思うと胸がぎゅっとなりました。風見さんの熱唱シーンは圧巻で、あの苦しそうな表情と歌声に引き込まれました。降谷さんの「彼女のほうが重い」という台詞、彼の覚悟と切なさが滲んでいて印象的です。笑い声が伝染する温かさも素敵で、ほっとした気持ちになれるエピソードでした🌷