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Kai
#読み切り
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朝方、古びた白いコンクリのマンションの真ん中で、木製の扉がギィと開く。男は不用心にも鍵をかけず、だるんと垂れた裾に掌を通しその場を後にした。行く先に宛はあるしかし未来や将来といった先の々に宛があるかと言われれば無いと答える。
足を止める。せいきなどまるでかんじられない、死んだ熊の様な瞳が、彼の脳みそにその文字を晒しだ出す。黄ばんだ白地に滲んだ赤で”ハローワーク”。
男は無職だった。
数秒立ち止まって看板を眺めていると、中から「どうぞお入りください」と声がかかった。無論、男にだ。男はボサボサの髪をまた乱れるように掻きむしり、足を前に突き出す。
無職。独身。住居はある。浮浪じゃない、不労だ。
人形のような手足が座席にぺとりとひっつき腰を下ろす。同じようにして目の前に腰掛けた若い男は笑顔だ。両脇に抱える程の大量の書類を半ば乱暴に机上に置く。
「愛葉さん。ようやっと起きんしたか。風呂は?」
「昨日、銭湯に。」
「金は?」
「払いましたよ、お釣りも来ました。」
「その釣りは?」
「帰路にコンビニエンスストアに立ち寄りましてね。」
「何を?」
「チューインガムというやつを購入しました。ええ、美味しくはなかったですが。」
すると若い男はどっと吹きだし、机の端をだんだん叩いて大笑いした。冗談も何も言っていない。とすると、可笑しいのはこの男だろうか?
「それで、それで、有り金を全部使ってしまいましたか。」
「えぇ。」
「ええ、ああ、面白い。して、次は何をします?短期バイト?」
ここで男は思い出す。
今着ている、この和服。一体最後の洗濯したのはいつだったろうか。昨日か、いや昨日は銭湯に行っただけだ。他は何もしていない。となると問題はそこじゃない。臭うか?
男はしばらく黙想し目を瞑っていたが、すぐさま亜光速で、次いで蟹の様に鈍く、瞼を押し上げる。
「洗濯屋さんとかないですかねぇ?」
「コインランドリーというやつがありまして。」
男は決して、■■では無い。