テラーノベル
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4月の初め。
カーテンからの隙間から風が吹く度に譜面が揺れる。春らしい心地よい風が頬を撫で、次第に眠くなる。5限の教室にはまだ授業前のざわめきが残っている。響き渡るロングトーン、金管楽器の音出し、別の場所から上がる笑い声。どれもが聞き覚えのある音だ。
懐かしい、というほどでもない。
吹奏楽部をやめて一ヶ月しか経っていないのだから当たり前だろう。かと言って少し恋しさもあるが。ただ知っている音。それだけだ。
後ろの窓際。頬杖をついて目を閉じる。履修登録の時、楽単と聞いてなんとなく入れた授業。まあ楽器も触れるしいいななんて理由で選んだ。
ふと目を開け前を見る。二段下くらいの席に黒髪の学生がいる。胸に僅かな違和感を抱いた。
黒い管を組み立てながらリードを湿らせる口、細い指、そして慣れた手つき。
どこで見たことがあるような。
記憶の底を探る。去年の部室。定期演奏会。本番前の合奏。断片ばかりが浮かんでは消え、肝心の名前が出てこない。
そのうちその女子学生が辺りを見回す。
一瞬だけ目が合う。
すると相手は弾かれたように視線を逸らした。
その反応で思い出す。吹奏楽部の後輩だった子だ。学年は一つ下だったはずだ。
窓の外で風が鳴った。続いて教室の扉が開き、担当教員が入ってくる。ざわめきが少しずつ収まり、譜面が配られていく。
「じゃあ今日は初日だし近くの人と合わせてみようか」
教員の声を聞きながら、もう一度その後輩を見た。
困り顔が見える。少し様子を見てみたが、この授業は友達ととっていないのだろうか。周りは徐々に2人1組や3人1組になり座り始めている。
知らない人と組むよりはマシか。そう思い、少し前に体を乗り出して声をかけた。
「一緒に組んでやる?」
彼女はビクッと肩を震わせこちらを見た。驚いたようにこちらを見て緊張した声で答えた。
コメント
1件
第1話、読ませていただきました! 春の教室の空気感と、懐かしさと違和感の間を行き来する主人公の心情がとても丁寧に描かれていて、ぐっと引き込まれました。特に「一緒に組んでやる?」の声かけ、サラッと言ってるようで、実はちゃんと気にかけてる感じが伝わってきて、そこがすごく好きです。後輩の反応もリアルで、続きがすごく気になります!岩さんの描く距離感の変化、楽しみにしています🌷
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