コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
家では、話しかけられることがあまりない。正確に言うと、話しかけても返事が返ってこない。
「後でね」
それが両親の口癖だった。
テレビを見ながら、スマホを見ながら、台所に背を向けたまま。
学校でも似たようなものだった。
誰かに嫌われている訳でもない。ただいないみたいに扱われる。
だから放課後はだいたい図書室に行く。
静かだし、本は話しかけてこない。
それがよかった。いつもは特に読むものを決めず本取るが、その日は何故か引かれる一冊の本を見つけ抜き取った。
ページを開いた瞬間一枚の小さな紙がひらりと落ちた。そこには黒いペンで一行だけ書いてあった。
『お話しませんか』
誰かのイタズラだろう、と思った。紙を戻そうとして、少し迷う。
断る理由も続ける理由もなかった。俺はペンを取り出して、紙に書いた。
『いいですよ』
それだけ書いて本に挟んで棚に戻した。
次の日
同じ場所に行って、同じ本を開くと、紙はまだ挟まっていた。しかも文字が増えている。
『ありがとう、君、図書室よく来る人? 』
少しだけ面白いと思った。
『うん』
家にいても学校にいても、静かすぎるのは嫌なのに。図書室の静けさは、不思議と落ち着いた。返事はすぐには来なかった。
それでも数日後にはちゃんとあった。
『やっぱりか!!』
その一文を見て、何故か笑いそうになった。話しかけてこない場所で、俺は誰かと話し始めた。
相手が誰かは、わからないまま。