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ダリアの手が離れても、私の指はポカポカと温かかった。
部屋で一人になってから、ホッと吐息をこぼして天井を見上げ、今日起きたことをふと振り返る。
幻惑の魔女に覚醒の魔女。私には魔力があるらしいこと。何もかもが青天の霹靂すぎるわ。
私にたくさん協力者がいることは分かったけど……本当に、急な展開すぎて気持ちが追い付けていない。胸の奥がざわつき、拭えない不安が渦巻いている。
ダリアはよかったって言ってたけど、このままじゃダメよね。
魔法が使えないんだもの。例えヴィンセント様たちが受け入れてくれたとしても、私は守られるだけの存在になってしまう。
役目があるというなら、私だって、皆のためになにかを成さなければ。
「でも、火すら灯せない……」
ポツリと呟き、空中に火を灯す魔法の印を描いてみた。
魔法が使えないとわかっていても、諦めずに学んだ教本を思い出しながら、火の言葉を刻む。
体内に魔力があるなら、その印に引き出された火が具現するはず。だけど、魔法陣が現れるどころか、魔力の熱すら感じられなかった。
ぽすっと音を立ててベッドに体を横たえ、小さくため息をつく。
さらさらのシーツから優しく甘い香りが立ち上がった。これはラベンダーの香油だろうか。とても心地が良く、身体がベッドに沈んでいくようだわ。
眠りに誘われるようにして目蓋を下ろし、このまま寝てしまおうかと思ったとき、はたと気付いた。
ちょっと待って!
すっかり忘れてたけど、ヴィンセント様とすごす今夜をどう乗りきったらいいかの、答えが出ていないわ。
全身からどっと汗が噴き出すのを感じ、飛び起きて辺りを見渡した。
男性と夜をすごすなんて、もちろん、初めてのことよ。
ベッドは一つしかない。
汗が滝のように溢れ、背中が濡れていく。口元と頬が、わなわなと引きつるのが自分でもわかった。
落ち着いて、ヴェルヘルミーナ。
そもそも、ヴィンセント様が私に懸想することがないかもしれないじゃない。そうよ、女嫌いって噂だってあったわ。女性と歩いている姿だって見たことがないって話よ。
だけど……。いくら考えても、ヴィンセント様の微笑みを脳裏に浮かべると、全身が熱くなるのを感じてしまう。私のことを嫌ってるなら、あんなお顔をされないのではないか、少しくらい好意を抱いてくれているのではないか。
愛されたいなんて望める立場じゃないけど、何も考えずに夜を共にするのは難しい。だって、ヴィンセント様は、初恋の人よ。
何も起きないだろうと思っても、冷静でなんていられない。考えれば考えるほど全身が熱くなり、汗が滴り落ちていく。
待って、待って。
こんなに汗をかいてしまって、匂いは大丈夫かしら。ヴィンセント様が不快に思わないかしら。汗を流した方がいいかしら。でも、そんな二度も湯浴ゆあみをしたら、それこそ「夜を楽しみにしていました」といってるようじゃない?
せめて、タオルで汗を拭うくらいは──おろおろするばかりだった私は、はたと気付く。
これでは、期待しているみたいだわ。
よく考えなさい、ヴェルヘルミーナ。
ヴィンセント様と初めて出会ったのは、私が十歳に満たない頃よ。彼が私に恋心を抱くわけなんてないわ。妹とか身内の子ども程度にしか思っていなかったでしょう。
それに、どんなに遠い恋心を蘇らせたって、これが政略結婚であることに変わりはないのよ。
早鐘を打つ胸の前で手を握りしめて、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせ続けた。
ああ、トキメキが苦しいものだなんて、どの本にも書いていなかったわ。
俯いたその時、ドアがノックされた。
ダリアが戻ってきたのだと思ってほっと胸を撫で下ろし、「どうぞ」と声をかけたのは、失敗だったかもしれない。そう思ったのは、迎え入れてしまった彼の顔を見た瞬間だった。
「ヴェルヘルミーナ、まだ起きていてよかった」
「は、はひぃ!?」
現れたヴィンセント様に思いっきり動揺してしまい、声がひっくり返った。
部屋に入ってきたヴィンセント様は、手に持っているトレーをベッド横のナイトテーブルに下ろした。
「そこで侍女殿に会ってな。ハーブ水を預かった」
「えぇ!? そ、そんな、ヴィンセント様自らだなんて」
「ははっ、侍女殿にも言われたよ」
グラスにハーブ水を注いだヴィンセント様は、私の横に腰を下ろすと、それを差し出して微笑んだ。
「二人でゆっくり話したかったんだ。起きていてくれて良かった。眠くはないかい?」
「えっ、あ、あ、はい……」
そう言われて、寝たふりをしていれば良かったのかと気づいた。だけど、もうどうすることも出来ない。
グラスを受け取り、もじもじと俯いていると「ハーブ水は苦手か?」と尋ねられた。
「いいえっ。いただきます」
慌ててグラスを傾けたけど、香りなんてちっとも分からないわ。
ドキドキと緊張していると、ヴィンセント様が「今日は驚いただろう?」と静かに問いかけてきた。
横を見ると、優しい眼差しを向ける綺麗なお顔がある。きっと、いくら見つめても飽きることがないだろう。
昨日、亡きお父様を重ねて緊張していたのが嘘みたいだわ。今は彼の表情を追ってしまう。
何をお考えなのかしら。私を見つめて、何を思っているのかしら。
コメント
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みぅです🤍🥀 うわぁ……もうヴェルヘルミーナの戸惑い方が可愛すぎてにやにやが止まらなかったよ…! 「はひぃ!?」って声ひっくり返るところとか、読んでるこっちまで照れちゃう。 魔力の覚醒とか魔女の話とか、重めな設定が動いてるのに、ヴィンセント様との距離が近づくトキメキが甘くて苦しい…! 「二人でゆっくり話したかったんだ」って、そんなのずるいよ…!これからどうなっちゃうんだろう、続きが気になりすぎる🌙