テラーノベル
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番条さんの奴隷となり、一ヶ月が経過した。長年勤めていたバイトはキッパリと辞め、奴隷業に専念することを決めた。
今は、一日の大半を主(彼女)と過ごしている。
一番驚いたのは、奴隷となった次の日。担任から、彼女と同じクラス、しかも隣の席へ強制的に移動させられたことだ。
俺だけ転校生扱いみたいな感じで、周りからは嘲笑されるし、かなり恥ずかしい思いをした。
放課後は、なかなか帰ろうとしない番条さんと一緒に勉強したり、マンガを読んだりして時間を潰した。家よりも学校の方が落ち着くと彼女が言うから、そこは仕方なく我慢した。
「………………」
「………………」
「んんっ!………ぅ…………はぁ…」
「…………?」
「…………………ふぅ」
いつも二人だし、番条さんは物静かで話す方ではないから、消しゴムを転がす音が聞こえるほど俺達がいる空間は静かだった。
あの奴隷選抜で、結局合格した奴隷は俺一人だし………。
ほんと、一人ってなんだよ………。
「…ふふぅ…………」
「……………??」
番条さんは、副会長という高ポジションにも関わらず、学校側から専用の部屋を与えられていない。その時点で、生徒だけでなく先生達からも相当なめられていることが分かった。
奴隷として、主がぞんざいな扱いを受けていることに抗議した方が良いのか?
まぁ…………いいか。面倒くさいし。
確か、会長や二川さんは教室三個分ほどある豪華な専用部屋を持っていて、好き勝手やっているとか。
「はぁ…………」
「………はぁ……」
「はぁ~~」
「…………はぁ~~~」
「真似するなっ!」
「真似するよっ! フフ…………」
最近、番条さんは笑うことが多くなった……気がする。まぁ相変わらず、理解に苦しむ行動も多いけど。
「トイレ……行きたい……」
「うん」
「青井くんも……私の個室まで…入るの?」
「入るかっ!! アホ」
「……良かった……聞かれるの……恥ずかしい……」
「早く行けよ。俺は、廊下で待ってるから」
「うん………」
早足で女子トイレに駆け込む番条。まさか、我慢してたのか?
頭をかきながら、ふと気になった窓の外。広い校庭で部活に精を出す運動部員。今までバイトばかりで部活をする余裕などなかった俺は、青春を現在進行形で謳歌している彼等を羨ましく思っていた。
帰り支度をして、いつものように番条さんと一緒に下校。しばらく歩き、二人が別れる目印の小さなオモチャ神社が見えてきた。
珍しく、番条さんが自分から話しかけてきた。
「青井くんは、とっても良い人……。会長が好きになる気持ちも分かる。………昔ね、会長と約束したの。あなたを守るって。あなたを守る為に私は副会長になった。青井くんを私の奴隷にしたのも会長の筋書きなんだよ? スゴいよね……。あの人には、未来が見えてる」
「守る為にって……。一体、何から俺を守るんだ?」
「会長はね………神華の悪魔達から青井くんを守ろうとしてる。二人の関係が、親族にバレたみたいだよ……。好きだから、これ以上そばにいられない。死ぬほどツラい決断だけど……これは、彼女の意思だから……」
番条さんは、俺の少し前で振り返ると前髪を『両手』で上げた。初めて見る彼女の素顔。目が大きく、童顔で愛くるしい顔だった。
でも、色の違う左右の目は悪魔的でーーーー。金縛りにあった時のように指一本動かせない。
「ごめんね………青井くん。本当に……」
番条、やめてくれ!
頼むからーーー。
声が全く出ない。
『 彼女の記憶を消します。すべて 』
俺に死刑宣告をした番条は、いつまでも幼児のように泣きじゃくっていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
誰かが泣いていたーーー。
寝ている僕の隣で。
『あんなにいっぱい苦しめたのに……。どうして、私を助けてくれたの? そのせいで死ぬかもしれない………。バカ過ぎて……泣けて…くる………』
自分でもバカなことをしたと思ってるよ。気づいたら、車の前に飛び出していたんだから。
『しばらくね……アナタには会えない。………もしかしたら、もう二度と会えないかもしれないの……だから……』
オデコとオデコ。重なる想い。甘い香りと微熱。
温かい何かが、ゆっ……くりと体の中に流れ込んできた。不思議な感覚。言葉に出来ない。
『この瞬間から、私はアナタだけのものになった。もし、この誓いを破ってあなた以外の男性とエッチなことしたら、すぐに死が訪れる。あっ……ちなみにだけど、アナタも私以外の糞女とエッチすると死ぬから。そこは、お互い様ってことで許してくれるよね? 私、とっても独占欲強いの』
今度は、オデコと唇。柔らかい感触と小さな彼女の声が、いつまでも僕の心をくすぐっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「おーーーーい!」
「……………」
「もう放課後だよーーーー!!」
「…………ん?」
「ん? じゃないよぉ。いつまで寝てんのぉ」
目の前、数センチ。ニコニコしながら俺の顔を覗いている派手な女がいた。
確かこの女は、最近話すようになった五十嵐だ。最初は、ただのビッチかと思っていたが、話すと意外と真面目で、自然と俺の苦手意識も消えていた。
「五十嵐……。どうした?」
「どうしたじゃないよぉ。一緒に帰る約束したじゃん」
「あっ……あぁ……そうだったな。ごめん。なんだか、頭がボケてたわ」
「タマっちが、ボケてるのはいつものことじゃん。早く、帰ろ。またカラオケ行こうよ」
左手を握られ、引き摺られるようにして教室を出た。そんな俺達の前から、奴隷を従えて会長様が廊下を歩いてきた。
俺達は壁に退いて、お辞儀をする。
「………………」
「………………………」
無言。
ほんの数秒ーーー。
それなのに、とても長く感じられた。胸を締め付ける何かに戸惑う。
「どうしたのぉ?」
「いや……なんでもない」
少し歩いて振り返ったが、もう会長の姿は消えていた。
「……………会長ってさ……あんな感じだっけ?」
「会長は、会長でしょ。イケメンで完璧。この学園の王様。いつもと一緒じゃん。……なんか、今日のタマっち変だよ?」
「ごめん。なんかさ……」
すごく、小さく感じたんだよな。
その存在がーーー。
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