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彼が泣いていたーーー。
寝ている私の隣で。
『ごめん………七美……許してくれ……最低な俺を………』
下着を乱暴に脱がし、有無を言わさず、何度も何度も体を突っつかれた。私の初エッチだった。だから少しだけ、痛かった……。股から流れる赤い涙。
青井 魂日。今、彼を支配しているのが私に対する強い憎しみだと分かった。
私を犯して、彼が少しでも楽になるなら私は喜んでこの体を捧げる。
だって、彼のこと大好きだからーーー。
『お前を好きって嘘ついた。……本当は好きって気持ちが分からない………好きって気持ちが……。お前に気に入られてるのが分かったから………それを利用して……。俺はただ……お前が初めてを奪われて苦しむ姿を見たかっただけ……』
そんなこと最初から分かってたよ。私のことを何とも思っていないこと。キミが父親と共に受けた苦痛。神華に対する憎しみ。そんな簡単に消えるわけない。
だって、それが人間でしょ?
だからね、もう泣かないで。
温かい何かが、体の中に流れ込んできた。不思議な感覚。言葉に出来ない。
『……ごめん』
彼から流れるモノ。指ですくって全て飲み込んだ。柔らかい感触と小さな彼の声。いつまでも私の心を黒い優しさが満たしていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
一人になりたかった俺は、午後の授業をサボり、屋上で黄昏ていた。
鉄の扉が開くと、二川さんが姿を現した。生徒会役員が、こんな場所になんのようだ? 奴隷もいないようだし。
「…………」
「待てっ! 行くな」
無言で去ろうとした俺を引き留める。
「何ですか?」
「…チッ……番条の奴……私の記憶まで消したな……。後で殺す」
「は?」
微妙な空気に耐えられなくなった俺は、この場を去ることを本気で考えた。
「お前には、この世界がどう見えている?」
「……………何かのテストですか? 俺は、バカなんで役員様の期待するような答え言えませんよ」
「いいから答えろっ! 青井 魂日。お前には、この世界がどう見えてる?」
「はぁ……………。まぁ……この世界は……。ここには……何もない。ただの無だ………。糞つまらねぇ世界だよ…………」
こちらを見た二川が、鼻で笑った。
「フッ……。記憶を無くしても、お前はお前ってわけだな」
「ちょっと意味が分からないです……。二川さん。俺、そろそろ戻るんで」
「待て! すぐ終わる。私はな、わざわざお前に良い情報を持ってきてやったんだぞ」
「情報?」
「あぁ……。うちの会長な、近々結婚するみたいだ」
「会長が、結婚?」
「まぁ、今のお前には関係ない話だったかもな」
「会長が結婚……………」
「前に誰かが言ってたよ。この世界は、何もない砂漠。孤独と絶望しかないって。でも隣に大切な誰かがいれば、砂漠もそんなに悪くないって……。青井 魂日。ただ、そうやって突っ立ってるだけじゃなくて、動け! 今、動かないと一生後悔することに……なる……から…………」
二川さんは前を向き、何もない紅い空を見つめ、俺にそう言った。
それは、初めて見る彼女の泣き顔だったーーー。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
怒声と銃声。血の香り。飛び散る肉片。あっちでもこっちでも死体が転がってる。
本当に、ここって日本かよ………。
「どうして、来たの?」
「今週、暇でさぁ~」
「結婚式に招待した覚えないけど?」
「………酷いよな、お前。元カレでもさぁ、せめて結婚することくらいは教えてくれよ。二川さんがいなかったら……。番条さんが記憶を戻してくれなかったら、俺は死ぬまでお前のこと忘れてた」
「今すぐ帰って。お願い……。ここにいたら、死ぬから」
「帰る時は、お前と一緒だ」
「この状況見ても、まだ分からないの? 無理だよ。無理に決まってるじゃん。このホテルは今、世界で一番危険な場所になってる。これ以上、彼………夢神さんを怒らせないで。今ならまだ、私が彼に頼んで、アナタだけでも助けてもらうから」
「俺は、お前とここを出るんだよ! 必ず。その為に今、卯月さん達にも協力してもらってる。二川や番条の危ないお仲間にもこの戦争に参加してもらってる。今さら、後戻りなんか出来ない」
「殺されるよ。みんな……。みんな……全員…殺される……」
「かもな。でも、みんな俺とお前の為に命をかけてここに来た。集まった。覚悟は出来てるよ」
「アナタは、誰よりも神華の恐ろしさを知ってるはず。奇跡的にここから出れても死ぬまで彼らに追われる身になる。いくらバカでも、それくらい分かるでしょ」
「………………前に座ってるのが、結婚相手か? ハハ……すげぇ、イケメン……。その隣が、七美の両親?」
「これ以上、バカなことしないでよっ! お願いだから……」
俺は、七美を無視して歩く。目の前に座っている悪魔までーーー。俺の命を全方位から狙っているのが分かった。
「この度のご無礼、大変申し訳ありません。えっと……さらに無礼を重ね、恐縮なんですが、今から娘さんを誘拐します」
『青井君。キミは、ここから生きて出られないよ。娘の言う通り、大馬鹿者だ。私達とあちらの夢神さんを敵に回して、無事で済むわけないだろう』
黄金のマスクを被っていて、父親の素顔が分からない。
「バカは、どっちだよ…………。なんで……。アナタ達は、まだ座ったままなんですか? 今、大事な娘さんがワケ分からない、こーーんなバカ男に拉致られそうになっているのに」
『……………』
「どうして、さっさと動かないっ!! 何でだよ………助けようとしろよ……。大事な娘なんだろ? 男の格好させるくらいに……。なんで……。アンタ等の……そういう所が昔から………死ぬほど嫌いなんだよ……」
七美の父親は、ようやく立ち上がると俺に装飾銃を向けた。
『愚かな賊よ。最後に言い残したことはあるか?』
「パパっ! やめて!! この人を殺さないで」
神華の屈強なボディーガードに拘束された七美。
ごめん。
卯月さん。二川……番条……。
みんな、ごめん。
こんなに俺達の為に動いてくれた。今も血を流して戦ってくれてるのにーー。
「七美………。彼女の心の声をもっと聞いてあげてください………。苦しみを一緒に共有してください。お願いします。俺が言いたいのは、それだけです……。大事な式をメチャクチャにしてしまい、すみませんでした……」
俺は頭を前に出し、両親の前で土下座した。昔、親父と屋敷の門前でした土下座を思い出した。
なぁ………親父。
やっぱり、親父は間違ってたよ。
「タマちゃん……」
七美はさ。
少なくとも俺が愛した女は、悪魔なんかじゃなかったよーーー。
『さようなら。青井君』
ダァンっ!!