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コメント
1件
うわあ…今回もすごく心に響きました。 特にリサが「おにいがいなくなるんじゃないか」って泣くところ、そしてアデルが両親の記憶と重ねて「同じだ」って気づくところが胸に刺さりました。 正しいことをしていても、残された側の不安って消えないですよね。でもアデルはその不安をちゃんと受け止めて、「大丈夫ですよ」って抱きしめたんだなあと。 リサの「おにいはひとりしかいない」って言葉が、すごく重くて温かかったです🥀🤍
Episode 59
三上が眠れるようになってから、数日が経った。
ある夜、村は静まり返っていた。
だが、その静寂は突然破られた。
「火だ!」
誰かの叫びが夜気を裂く。
次の瞬間、村の一角が赤く染まり始める。木造の建物が軋みながら炎を上げ、夜の闇を押し返すように燃え広がっていった。
「また敵襲か……!」
三上が即座に声を上げる。
だが黒瀬は周囲を見渡し、すぐに違和感を口にする。
「……違います。人の気配が感じられません」
「中にまだ人がいます!」
誰かの叫びが重なる。
その瞬間、空気が一変した。
「アデルさん、待ってください!」
黒瀬の制止より早く、アデルは駆け出していた。
迷いはない。
炎の熱が肌を焼く距離でも、その足は止まらない。
「……行きます」
そのまま燃える建物の中へ飛び込んだ。
中は煙と熱で満ちていた。
視界は悪く、呼吸もまともにできない。
それでもアデルは進む。
「どこですか!」
崩れかけた梁の奥から、かすかな声が返る。
「こっち……!」
アデルは瓦礫を押しのけ、肩で木材を支えながら中へ踏み込んだ。
「もう少し……!」
火が背後で弾ける。熱が背中を焼く。
それでも手は離さなかった。
やがて村人を外へ引きずり出し、ようやく空気が戻る。
咳き込みながらも、生きている。
「間に合いましたね」
小さくそう言って、アデルは息を吐いた。
外では黒瀬達が待っていた。
「アデルさん、無茶しないでください」
黒瀬の声はいつもより少し強い。
水瀬も奈央も、言葉こそないが表情は固い。
「でも、間に合いましたから」
アデルは少し困ったように笑った。
それ以上は何も言えなかった。
火は徐々に鎮まり、村はどうにか持ち直していく。
安堵と疲労が入り混じる中で、夜はさらに深く沈んでいった。
夜明け前。
アデルは家に戻る。
扉を開けると、リサがそこにいた。
小さな体が、静かに立っている。
「……おにい」
その声は震えていた。
すでに火事も、アデルが飛び込んだことも知っている顔だった。
アデルは一瞬だけ言葉を探し、困ったように目を細める。
「心配かけましたね」
「当たり前でしょ……!」
次の瞬間、リサの表情が崩れた。
「本当に……いなくなっちゃうんじゃないかって思ったんだよ……!」
涙が溢れる。
必死に堪えていたものが決壊するように、言葉が続く。
「でも……助けてて……すごくて……おにい、ほんとにすごくて……」
震える声のまま、リサは続ける。
「怖かった……」
「おにいがいなくなるんじゃないかって思って……すごく嫌だった……」
言葉が途切れる。
「でも……助けたのは分かってる……それが正しいってことも……」
それでも感情は整理できないままだった。
「ただ……もしまた同じことがあったら……嫌だって思っちゃう……」
矛盾した気持ちのまま、リサは俯く。
それでもアデルの服を離さなかった。
アデルは何も言わず、ゆっくりと膝をつく。
そして、そのままリサを抱きしめた。
少しだけ間があく。
アデルは目を伏せる。
胸の奥に、遠い記憶が重なる。
両親が村人を助けに行った日。
正しいと分かっていた。
誇らしいことだとも教えられていた。
それでも止められなかった。
行かないでほしいと言うことすらできなかった。
そして、帰ってこなかった現実。
その全てが一つの形になって残っている。
どうしようもない不安として。
今、目の前のリサも同じ場所に立っている。
(同じだ)
アデルは静かに息を吐いた。
そして短く言う。
「……大丈夫ですよ」
しばらくの沈黙のあと。
リサは涙のままアデルの服を握った。
「……一人にしないでね」
少し間があって。
「もう、おにい……ひとりしかいないんだから」
アデルは小さく息を吐き、静かに頷いた。
「はい」
夜明け前の淡い光が、二人を静かに包んでいた。