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若井side
「ふ〜〜〜〜〜っ……」
ソファに沈んだ元貴が、深々とため息をついた。
けれどそれは、どこかスッキリしたような息だった。
「何、その“やりきった感”」
「え、出てた? やば」
「出まくってたよ。写真撮っただけで主役ヅラすんなって」
「いや、主役ってか、満足っていうか……うん、幸せって感じ?」
そう言って笑った元貴の顔は、どこか子どもみたいで。
俺はその笑顔を、きっと一生忘れないと思った。
(これが、元貴の見たかった景色だったんだ)
(ずっと心の奥でしまってた“撮りたかった最後の1枚”が、今日やっと撮れた)
「ありがとな、若井」
また、その言葉。
「お前が言ってくれなきゃ、俺たぶん、言えなかったと思う」
「…………」
「ねぇ、ちょっと散歩行かない?」
「は?」
「だって、ちょっと感傷的じゃん。こういうときって、歩きたくなるんだよね〜〜〜」
「お前、やっぱ変なやつ」
「そう? じゃ、行こ」
⸻
夜の住宅街は、夏の匂いがしていた。
コンクリートの熱が、少しずつ冷めていくその温度が、胸の奥にやさしかった。
「若井さ」
「ん」
「なんか、最近ちょっと違うよね」
「は?」
「いい意味で。前より落ち着いたっていうか、大人っぽいっていうか。なんかね、“覚悟”が見える感じ」
(覚悟、か)
(たぶん、してるんだよ、俺なりに)
元貴の前髪が、夜風にふわっと揺れる。
「未来のこととか、考えてる?」
「……考えてないやついる?」
「ううん、でもさ、“考えてる”と“決めてる”って違うじゃん」
「……」
その言葉が、妙に刺さった。
(そうだな。俺は今、“決めてる”)
(未来に戻ったら、この経験をちゃんと持ち帰るって)
(あの“空白のアルバム”を、埋めたままにするんだって)
「……俺、未来の話はあんまり得意じゃないけどさ」
「うん」
「今日のことは、絶対忘れたくない」
「うん、俺も」
そう言って、元貴はスマホを取り出す。
アルバムの画面を開いて、今日撮った写真を見せてきた。
「ほら、これ。ちょっと高野が半目だけど、奇跡的に5人全員写ってる!」
「これ、ちゃんと……アルバムに貼れよ?」
「うん。絶対、貼る」
そのやりとりの中で、俺の胸がギュッと締め付けられた。
(そろそろだ)
(夢の時間は、終わる)
でも、もう未練はない。
ちゃんと、言えた。行動できた。
写真も、想いも、全部、未来へ繋げた。
「……ありがとう、元貴」
「え?なに急に」
「いや、なんでもない」
(全部、夢でもいい)
(でも、俺の中では確かに存在してた)
⸻
その夜、眠りに落ちる瞬間。
ぼんやりとした光の中で、また誰かの声が聞こえた。
「……わ_ぃ」
「おはよ、若井」
⸻
📸 to be continued…
コメント
7件
うわああああああ
高野ぉぉおおお!!www 半目なんかいwwwwwwwww 切なくて暖かい、、泣きそうになりました。半目高野に全部持ってかれたけど。
夢じゃないといいな…