テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ぷりっつ視点
目が覚めると、頭が重くてぼんやりしていた。
昨夜のアルコールがまだ体に残っているのか、まぶたを開けるのもひと苦労だし、体を起こそうとすると鈍いだるさが肩や腕にのしかかる。
「うう、頭痛てぇ……」
こめかみを押さえながら小さく呻く。頭はまだ完全に目覚めていなくて、 記憶をたどろうとしても、昨日の夜のことは霧の中のようにかすんでいる。
だめだ。思い出せない。
アンプタックでの飲み会後にまぜ太の家で二人だけで二次会をしていたところまでは覚えている。
……!そうだ、まぜ太!
はっとして辺りを見渡すと、隣で気持ちよさそうに寝ているまぜ太がいた。
そこで初めて、同じベッドで寝ていたことに気が付く。
……なんで?
俺たちに何があったらこんなことになるんだよ。
まぜ太は俺よりも酒に強いし、昨日だってそこまで酔っていなかったような気がするのに。
ぼんやりとした違和感が胸の奥に引っかかる。
そのまま無意識に手を自分の胸元へと伸ばした。
「……ん?」
触れた瞬間、指先に伝わる妙な感触。
いつもと違う、わずかな熱とざらつき。
思わず指を止めてそっとなぞる。
「……え、なにこれ……?」
ゆっくりと視線を落とすと、肌のあちこちに赤い跡が残っていた。
一気に目が覚める。
「は?」
慌てて腕も確認するとそこにも同じような赤い跡や、はっきりとした歯型のようなものがいくつもついている。
なぞると、じん、と鈍い痛みが返ってきて、反射的に手を離した。
「……は、ちょ、待って……」
嫌な予感が背筋をなぞる。
首元にも触れてみる。
見えはしないけど確かにそこにも違和感がある。
軽く押すと、じわっと熱がこもっているみたいで。
これ、一体どういうことだ?
さっきまでぼやけていた意識が一気に現実に引き戻される。 頭はもうだいぶ冴えてきているのに、状況だけが理解できない。
そこで、少しだけ嫌な予感がした。
ゆっくりと肩を回してみる。
だるさはあるけどそれは完全に酒のせいだ。
頭も重いし、体も鈍い。
でも、それ以外は。
「……別に、痛いとかは……ない」
ぼそっと呟きながら腰や脚にも意識を向ける。
違和感はない。
動かしてみても、変な痛みも引っかかりもない。
一瞬思考が止まる。
「……一線は、越えてないよな……?」
自分で口に出してから、じわっと現実味を帯びてくる。
さすがに。
さすがにそれは、ない……はず。
「……いや、うん」
小さく頷く。 たぶん、大丈夫。
それよりも目の前の現状のほうが問題だ。
まず、なんでまぜ太と同じベッドで寝ているのか。
……まあ、それはいい。酔ってて人肌が恋しくなったとかそういうことかもしれない。
そういうことにしておこう。
本題はそこじゃない。
俺の身体に残っている、この跡。
いつ?
誰に?
なんで?
喉の奥がひくりと鳴る。
もしかして──。
視線が、ゆっくりと隣へ向く。
「……まぜ太、おまえがやったんか……?」
寝息を立てているその顔は、いつも通りで。
何も知らないみたいに無防備で。
……いや、ないか。さすがに。
こんなことこいつが勝手にやるわけがない。
ましてや相手が俺で。
…………。
……………………ほんまに?
視線が離せなくなる。
昨日のこいつの様子を思い出そうとしても、うまく思い出せない。
「……いやいや、え?わ、え、ちょ待ってぇ?」
でもさ、これこいつしかおらんもんな。
居酒屋にいたときは絶対にこんな跡なかったし、この家に他に誰か来るとも思えない。
心臓がどくん、と大きく鳴る。
え?
ど、ドッキリよな?
「……ドッキリやろ、そうやろ?」
寝たふりして、あとで笑いながら出てくるやつやろ?でも、まぜ太は寝たままで起きる気配はない。
ふぅ、と小さく息を吐く。
一度落ち着こうとするみたいに目を閉じてから、もう一度ゆっくりと隣を見る。
「……ほんま、何もなかったんやろな?」
ぽつりと呟く。
そのときだった。
「……ん”ん”、……」
小さな声が、すぐ隣から聞こえた。
「……?」
視線を向けると、まぜ太の眉間にうっすらと皺が寄っている。
苦しそう、というほどじゃないけどどこか落ち着かないような寝顔。
「……なんや、それ」
思わず小さく笑いが漏れる。
無意識のまま手を伸ばしていた。 そっと、その眉間に触れて指先で軽くなぞる。 ゆっくり皺を伸ばすように。
「……そんな顔せんでもええやろ」
小さく呟きながら何度か同じように撫でる。
すると、ほんの少しだけ表情が緩んだ気がして指先の力を抜いた。
そのまま手を引こうとして、 ふと思う。
……なんで、俺こんな普通なんやろ。
あんな跡見て普通もっと引くやろ。
気持ち悪いとか、怖いとか、そういうの。
なのに、
「……別に、嫌やないしな」
ぽつりと漏れた言葉に、自分で少し驚く。
むしろ、 どこか妙に落ち着いてる自分がいる。
「……意味わからん」
小さく眉を寄せて、視線を落とす。
「はっ……?」
それまで他に気を取られていたが、自分の左手の薬指に噛み跡があることに気が付いた。
手を目線の高さに上げて眺めてみる。
それはまるで赤い指輪のようで、俺はすぐに目が離せなかった。
こいつはわざわざ薬指を選んだのか、それともたまたまなのか──。
視線をずらすと、そこにあるまぜ太の手。
無防備に置かれているそれになぜか目が離せなくなる。
……なんとなく。
本当に、なんとなく。
その手を取った。
指先が触れた瞬間少しだけ体温が伝わってきて、無意識に息が浅くなる。
そのままゆっくりと持ち上げて。
気づけば、薬指に視線が吸い寄せられていた。
「……」
一瞬だけ、迷う。
ほんの軽い衝動みたいなものでその指先を口元へと引き寄せていた。
そっと、唇を開いて。
薬指を口に含む。
「……っ」
触れた瞬間、妙に生々しい感覚に思わず息が詰まる。
あたたかくて少しだけ乾いた皮膚の感触。
舌に触れるそれを、無意識に転がしてしまう。
「……は、バカらし……」
自分でも意味が分からなくて、小さく笑いが漏れる。
そのままほんの少しだけ歯を当てる。
かち、と軽く触れる感触。
──噛もうとして。
「……いや、何やってんだ俺」
はっとして、動きを止めた。
さすがに意味わからんやろ、これは。一瞬だけでも、これで俺もこいつの薬指を噛んだらお揃いだなんて考えた自分が馬鹿馬鹿しい。
ゆっくりと口を離そうとしたその瞬間。
「……噛まねーの?」
すぐ目の前から、低く掠れた声が落ちた。
「は、いつから起きて……っ」
動揺で声が震えたのが自分でもわかった 。
さっきまで閉じられていた瞳はすでに開いていて、寝ぼけているわけでもなさそうだ。慌ててまぜ太の薬指を口から出したけど遅い。バッチリ見られてしまった。
「ん〜さっき?……ねぇ、ぷーのすけ。何が嫌じゃないの?」
「……聞き間違いじゃねぇの」
「いーや。俺は聞いた」
俺だって言いたいことがたくさんある。一緒に寝てたこととか、俺の体にある跡とか。
でも、言葉は咄嗟に出てこない。
なんでこいつこんなに強気やねん。
「それに、何しようとしてたの。俺の指口に含んでさ……もしかして、お揃いにしようとしてた?」
まぜ太は俺の手を取って薬指を愛おしそうに眺めた。そして 何も言わない俺に対して、畳みかけるように質問してくる。
さっきまで魘されていたくせになんやこいつ。めちゃくちゃ元気やん。
しかも、なんかニヤニヤしてるし。
「……べつに。そんなんじゃねぇし」
「ふーん」
言葉では興味なさそうなのに、その瞳は獲物を逃さないとでも言いたげにギラギラしている。
それでも、どこか苦しそうに見えるのは気の所為なのだろうか。
俺とまぜ太は仕事仲間である以前に友達で。
今のこの状態だって時間が経てばきっと笑い話になるだろう。
だからさっさと話を切り上げていつも通りに戻ればいいのに。
わかってるのに、なぜかそれができない。
俺、どうしたらいいんだろう。
……どうしたいんだろう。
まぜ太は、俺をどうしたかったんだろうか。
「……まぜ太」
「なぁに、ぷーのすけ」
「……俺のこと……すき、なん?」
「うん。だいすき」
自然と視線は自分の体に向かっていた。
まぜ太がたくさんつけた跡に目が行く。いつのまにか離された左手に残る跡が1番目立って見えた。
胸がドキ、と音を立てたけどその理由は自分でもよくわからなかった。
「ごめんな。勝手に跡つけて」
「……なんで付けたん?」
「あっきぃにぷーのすけのこと取られたのが悔しくて、つい……」
「あっきぃ?」
「だっておまえら付き合ってんだろ?」
「付き合ってないけど」
「とぼけなくていいって」
「いや、とぼけるもなにもほんまに付き合ってないわ」
「え……」
まぜ太は目をぱちりと瞬いて、驚いた表情を浮かべる。
……こいつ、俺とあっきぃが付き合ってると勘違いした上で勝手に跡をつけたってこと?
やべぇ奴やん。
「でもそっか、付き合ってなかったんだ。……良かったぁ」
心底嬉しそうに微笑むまぜ太にまた胸が高鳴る。
俺、変になったんかな。
次でこの話は完結の予定です。
こんなに長くなるはずではなかったんですけどね……。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!