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雅美の逮捕から数日後、由美の意識は戻った。
「麻衣……」
由美が弱々しく微笑んだ。
「由美! 良かった……」
麻衣は泣きながら由美の手を握った。
「ごめんね、麻衣。心配かけて」
「謝るのは私よ。私のせいで……」
「違うよ」
由美が首を振った。
「悪いのはあの犯罪者たちよ。麻衣は正しいことをしただけ」
由美の言葉に、麻衣は救われた。
しかし、健太との関係は修復されなかった。
健太は既に新しい職を見つけて、他県に引っ越してしまっていた。連絡も取れない。
「結局、健太は戻ってこないんだ……」
麻衣は複雑な心境だった。玲香と雅美という敵は打ち破ったが、最愛の人を失ってしまった。
そんなある日、麻衣の元に意外な訪問者があった。
「初めまして、佐倉さん」
やってきたのは、中年の男性だった。スーツを着て、如何にも真面目そうな人物だった。
「私、探偵の早瀬と申します。実は、氷室玲香について、あなたに伝えなければならないことがあります」
麻衣は警戒した。
「もう氷室さんの件は終わりました」
「いえ、実はそうではないのです」
早瀬は深刻な表情で言った。
「氷室玲香には、姉以外に、もう一人の協力者がいたのです」
「協力者?」
「はい。あなたに最も身近な人物です」
早瀬は一枚の写真を取り出した。それは由美と玲香が親しそうに話している写真だった。
「これは……」
「佐々木由美さん、彼女はあなたの親友ですね」
早瀬が続けた。
「実は、彼女は最初から氷室玲香の仲間だったのです」
麻衣は信じられなかった。
「嘘でしょう? 由美が私を裏切るはずない」
「残念ですが、証拠があります」
早瀬は封筒を差し出した。
中には、由美と玲香の密会の記録、金銭のやり取りの証拠、そして由美が麻衣について報告していたメールの内容が入っていた。
「由美さんは、氷室玲香から金銭を受け取って、あなたの行動を監視し、報告していました。あなたが玲香を追い詰めることができたのも、実は由美さんが玲香にあなたの計画を事前に報告していたからです」
麻衣の世界が再び崩れた。
「では、なぜ玲香は逮捕されたの?」
「それも由美さんの計画の一部でした。玲香を逮捕させることで、あなたの信頼を完全に獲得し、より深い情報を得ようとしていたのです」
「そんな……」
「由美さんの交通事故も、医師を巻き込んだ偽装でした。同情を誘うためです」
早瀬は続けた。
「そして、今も由美さんは次の計画を練っています」
麻衣は絶望した。最も信頼していた親友が、実は最大の敵だったというのか。
その夜、麻衣は由美の病室を訪れた。由美は一人で本を読んでいた。
「麻衣、来てくれたの?」
由美がいつものような優しい笑顔を見せた。
しかし、麻衣にはもうその笑顔が偽物に見えた。
「由美、聞きたいことがあるの」
「何?」
麻衣は早瀬から受け取った証拠を取り出した。
「これについて説明してもらえる?」
由美の表情が変わった。
しかし、すぐにいつもの困惑した表情に戻った。
「これは何? こんな写真に心当たりないけど」
「嘘をつかないで」
麻衣の声は冷たかった。
「あなたが玲香と協力していたこと、全部分かってるの」
由美は長い沈黙の後、ついに本性を現した。
「バレちゃったのなら、仕方ないわね」
由美の表情が一変した。今まで見たことのない、冷酷で計算高い顔だった。
「いつからなの?」
麻衣が尋ねた。
「大学時代からよ」
由美が笑った。
「あなた、本当に純粋で騙しやすかった。私と玲香は最初から仲間だったの」
「なぜ?」
「お金、そして、あなたを支配する快感」
由美の声は残酷だった。
「あなたが私を信頼して、何でも相談してくれるのが気持ちよかった。まるでペットを飼ってるような感覚ね」
麻衣は涙を堪えた。
「私たちの友情は……」
「友情?」
由美は大笑いした。
「そんなもの、最初から存在しない。私は、あなたを利用していただけ」
「事故も……」
「演技よ。大変だったのよ。でも、この病院には、ちょっとしたコネがあるの。あなたの同情を買うには効果的だった」
由美は病院のベッドから起き上がった。
包帯を取ると、傷一つない健康な体が現れた。
「驚いた? 怪我なんてしてないの。私の演技、完璧だったでしょ?」
麻衣は完全に裏切られた気分だった。
人生で最も信頼していた人間が、実は最悪の敵だったとは……
「さて、お芝居はもう終わりね」
由美はナイフを取り出した。
「麻衣には、ご退場願おうかしら」
由美がナイフを振り上げる。
麻衣は必死に抵抗した。しかし、由美の方が身体能力は上だった。
ナイフが麻衣の胸に刺さる。
「さようなら、親愛なるオトモダチ……」
麻衣の意識は再び暗闇に沈んでいった。