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23話
あらすじ
今回の出来事をきっかけに、皮肉にも二人 の距離は近くなった。
若井と大森の関係はどうなっていくのか…
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「この曲、すっごい好き…かっこいい」
若井にそう言われた時、時が止まったように感じた。
大森は昨日まで若井の事が嫌いだった。
顔が整っていて、社交的
これだけで嫌うには十分なのに、若井は気配り上手だった。
若井の事を嫌いな理由はここだった。
いつも笑顔、誰にでも分け隔てなく優しい。
こんな奴が愛されないはずがなかった。
後ろの席にいると、尚更それがよく分かった。
若井の周りにはいつも人がいる。
目障りで仕方なかった。
まるで、聖人君子を見ている気分だった。
だからこそ、俺だけはお前の味方にはならない
大森の心の中には強い反発があった。
そんな気持ちを抱いていた所に、この言葉。
すごい好き かっこいい
若井の事が嫌いから大嫌いに変わった瞬間だった。
嫉妬される方が余程、理解できる。
しかも、若井のこの言葉には妬みも羨ましさも感じなかった。
あるのは素直な尊敬だけだ。
そりゃそうだ
こいつに “この才能” は必要ない
圧倒的に多くを持っている者から褒められると、こんなに惨めな気持ちなるのか
大森はトドメを食らった気分だった。
その日から、 若井に良く話しかけられるようになった。
冷たくあしらっても、全く効かない。
むしろ、炊き付けられたのか頻度が増した。
大森の心に、着々と若井への不信感が募って行った。
あまりにも拒絶が響かないので、舐められているのかと思うほどだった。
そんなある日、前から流れてきたプリントを貰った時
若井から、ふっと笑顔を向けられた。
大森は苛立って、奪い取るようにプリントを取った。
若井が一瞬だけ、眉を顰めた。
大森はその表情に視線を向けたが、若井はすぐに前を向いてしまった。
大森は、その表情に違和感を感じた。
若井らしくない珍しい表情だ。
椅子から身体を浮かすと、後ろから若井の様子を覗き込んだ。
すると、手の甲から血が滲んでいた。
大森は小さく息を飲んだ。
勢いよくプリントを取ったから、それで切ったのだろう。
気配を感じたのか、振り返った若井と目が合った。
若井はその瞬間、傷を隠すように拳を握った。
「…なに?」
若井は取り繕うように笑顔を貼り付けると、大森に問いかける。
「ううん、なんでもない」
大森はそれだけ言うと、再び椅子に腰をかけた。
大森を責めるどころか傷を隠すその姿勢に、少し疑問を抱いた。
なんかこの人、普通じゃないかも
大森はそれがきっかけで、若井に興味を持った。
何をしたら聖人君子の面が崩れるのか、それを確認したくなった。
大森は、それから若井の事を理解する為に様々な事を試してみた。
例えば、若井が話かけてきた時
今までは返事をしていたが、無視をしてみた。
若井は最初の一声で、無視されたと気がついたのだろう。
明らかに戸惑っていたが、諦めずに何回か話しかけてくる。
それでも、徹底して無視を続けると寂しそうな表情をして立ち去った。
それを瞳で追いかけると、若井は自分のグループに戻って行った。
しかも、相変わらず笑顔を振りまいている。
取り繕うのが上手いのか、寂しそうな顔をしたものの意外と気にしてないのか。
大森の脳裏に、さっき若井が見せた引き攣った笑みが浮かんだ。
いや、あれはちゃんと傷ついてる
そう思うと、愉悦感のような不思議な感情が湧き上がった。
それからも大森は若井に対して、小さな嫌がらせを繰り返した。
その度に、大森は若井の反応を探った。
しかし、若井は寂しさを顔に出すことはあっても嫌悪や怒りが顔に出ることは無かった。
大森は、徐々に物足りないと思うことが増えていった。
ある日の昼休み、大森はクラスメイトから話しかけられた。
「大森くん…ちょっと相談あるんだけど」
髪を短く切りそろえた男子が、大森の机に手の平を着くと顔を寄せてきた。
「え…なに?」
大森は、ちょっと緊張してその男子生徒を見つめる。
丁度その時、若井が自分の席に戻ってきた。
大森はチラッと目線を送った。
若井はその視線に気がついたのだろうか。
一瞬、視線が交わったが大森から逸らした。
何故かその男子生徒も少し慌てた様子で、さらに大森に近づく。
大森が耳を寄せると、小声で聞いてきた。
「若井ってさ、曲とか聞くタイプ?」
大森は、なんだそれと思った。
若井に気を使いながら、小声で聞くほどの質問ではない気がする。
それに、自分に聞かれても困る。
大森はもう一度、若井の様子を後ろから見た。
その時、なんとなく若井がこちらの会話を聞いている気がした。
大森は小声のような雰囲気で、しかし耳をすませていれば聞こえる程度の音量で話した。
「あぁ…若井くんの事?」
若井の肩が少し上がった。
大森は、やっぱり聞いていると確信した。
「…俺、全然仲良くないから分かんない 」
「え、でも…たまに話してんじゃん」
短髪のクラスメイトが話を続ける。
「好きな歌手の話とかない?」
大森は笑うと、顔の前で手を振った。
「知らないよ、ただ 席が前後ってだけ」
「あぁ…そうなんだ」
そのクラスメイトは、若井の様子を後ろから伺う。
何やら迷っていたが 結局、本人の元へ向かっていった。
「若井ー」
パッと若井が顔をあげる。
「若井って、好きな歌手とかいる?」
「えぇ…?」
若井は片側だけ口角を上げると、吐き捨てるように言った。
「めんどくせ」
そのクラスメイトと、後ろで聞き耳を立てていた大森は二人して氷のように固まった。
一瞬の沈黙を挟んで若井が口を開く。
「音楽とか…」
そういうと、若井が大森に目線を向けた。
「興味ないから、知らね」
大森の背筋に冷たいものが走った。
多分、若井にはバレてる。
わざと若井に聞こえるように “仲良くない” と言った事も
一件、普通に聞こえる言葉で若井を攻撃した事も
だから、やり返されたんだ。
大森は俯くと、口角が上がるのを必死で抑えた。
今まで誰にもバレたことが無かったのに
やっぱり、若井は普通の人間じゃない
大森の好奇心は、煮えるように湧き上がった。
ただの聖人君子じゃない
意外と弱さもあるし、刃も隠し持ってる。
それからも、大森は思考を凝らして若井の心を揺さぶった。
それでも若井は大抵の事には、動じなかった。
揺さぶる位置を間違えているのだろうか。
しかし何度やっても、お面がズレる雰囲気すらない。
大森は、とうとう我慢を切らして一線を超えた。
若井の友人を奪うための計画を立てた。
大森が、ここまで分かりやすく相手に牽制をかけるのは初めてだった。
大森は基本的にこういう事をする時、ターゲットにも自分の気配を感じさせない。
なので、大体は相手が意味も分からないまま崩れていくのがセオリーだったのだ。
このパターンの場合はどうなるんだろ
全く、想像がつかなった。
自分から未知の領域に踏み込んでいる。
それも含めて、この状況に言い表せない快感を感じた。
大森は細心の注意を払いながら、計画が失敗に終わらないように着実に駒を進めた。
若井の友人、哲也は今までもよく居たタイプだ。
嫉妬深く、短期的な思考の持ち主。
しかし彼も大森と同じく、枯渇した心を埋めようと焦っていた。
だが、その手段が見つからない様だった。
空振りを繰り返しているのに、諦める事が出来ない程の自己愛を持っていた。
大森はその欲望を見抜いて、欲しい所に欲しいだけの蜜を注いだ。
相手がその味を覚えた辺りで、少しずつ蜜の量を減らして行った。
すると哲也は転がるように、大森に引き寄せられた。
大森は更にその関係を、これ見よがしに若井に見せつけた。
哲也の腕を掴んで、引き寄せて 下の名前で呼んだ。
つまらない冗談に大袈裟に笑うと、哲也は嬉しそうに顔を綻ばせた。
若井には踏み込めない、大森と哲也だけの世界があること。
その事実を実感させた時、若井はまるで豆鉄砲でも食らった顔をしていた。
若井の大きく見開かれていた瞳が、翳るように冷めて行く。
そして初めて、大森に軽蔑の目線を向けた。
大森はその目つきで、やっと自分がスタートラインに足をかけたと実感できた。
若井はぎこちなく前に向き直ると、不自然に立ち上がって教室から出ていった。
直感的に後を追いかけたら、駆け込むようにトイレに入っていった。
大森も隣のトイレにこっそりと入って、耳をすませる。
すると、若井のすすり泣く声が聞こえた。
トイレの個室の中に籠っているのに、尚も押し殺したような鳴き声で泣いていた。
しかしそれこそ、若井の鎧の厚さを表しているように感じた。
大森は、そんな若井をとても愛しく思った。
この人は誰にも本当の心を見せられないんだ
僕と同じ
その事実が、若井への執着心を更に加速させた。
大森は、その日の放課後
自宅に帰ってから、どうすれば若井を自分の物にできるか考えた。
大森が抱いている野望は簡単に叶うことじゃなかった。
ただ、普通に仲良くなりたい訳じゃない。
それだと、中学、高校、大学
ここまでは無理やり囲うことができても、 その後は 別の道を歩むことになるだろう。
それだと、多く見積っても10年目で手放さないと行けない。
大森は、それが許せなかった。
そこで目をつけたのが、若井の優しさだ。
彼は厄介な性質の持ち主だった。
大して関係ない所にも、首を突っ込んで優しさを発揮する性質があった。
だが、彼の人気さ故だろうか
むしろ、それが原因で状況が悪い方向に転がる事もあった。
それでも、彼は謝って終わらせたりはしなかった。
自分が勝手に首を突っ込んだからと、最後まで面倒を見るタイプだった。
なので、細かく世話を焼いたり若井自身の特権を差し出す姿を何度も目撃している。
大森はその行動がいつも理解できなかった。
割に合ってないからだ。
いつも若井だけが何かを求められていた。
だが若井が、それを与えても周囲の人間はそれを当たり前に享受する。
大森は彼が恩返しを受けている所を見たことがない。
なのに、若井は何も主張しなかった。
これでは、若井だけが摩耗していく仕組みだと言うのに誰も気にしていない。
いや、たまに気が付いている人もいた。
しかし、それは “彼は優しいから” と言う言葉で片付けられた。
だが、大森はそうは思えなかった。
若井は優しいんじゃない。
じゃあなんだと聞かれても答えられないが、これには確信があった。
恐らく、ここが若井の弱点。
若井の見捨てられない性質をきちんと突ければ、計画はいい方向に進むはずだ。
その手段は意外な方法で思いついた。
それはある朝、通学中の電車内で痴漢被害にあった事から始まった。
軽くお尻を撫でられた程度だったが、生きた心地がしなかった。
本当にこんな事があるんだと言う驚きと恐怖で、抵抗できずに固まってしまった。
しかし、それからも定期的に痴漢に狙われた。
毎回、同じ人だった。
三回目、シャツの中に手を入れられた時に大森は路線を変えようと決心した。
だが、何かを察したのか触れてくる痴漢男が耳元で囁いた。
「明日も1人の方がええよ」
大森は話しかけられるとは思ってなかったので、肩を跳ねらせた。
続けて、男が話す。
「友達にバレたら笑いもんになるで」
大森は、頷く事しか出来なかった。
その日の夜は、不安でなかなか寝付けなかった。
大丈夫、明日から路線を変える。
もう痴漢には遭わない。
それでも、目をつぶると触られた時の感覚が蘇った。
眠れない身体を誤魔化すように寝返りを打った時、ふっと思った。
例えば、大森が痴漢の被害にあっている所に若井が遭遇したとしよう。
彼は大森を笑い者にするだろうか。
いや、絶対しない
むしろ、どうにか大森を助けようと足掻くだろう。
大森はベットから起き上がった。
とても、いい案が浮かんだ。
若井に痴漢の現場を目撃させればいいんだ。
もしも若井が助けたとしたら、その被害を “二人だけの秘密” として扱おう。
クラスメイトが痴漢にあった。
この秘密は、とてつもなくデリケートだ。
相当、強い効力を持つのではないか。
もしも助けられなかったとしたら、若井を徹底的に責めればいい。
若井は簡単に責任を手放せない性質がある。
下手すれば、大森が許すまで手元に置けるかもしれない。
どっちに転んでも関係を深く、複雑に出来る。
名案だ
でも、どうかしてる
これこそ、割に合わない。
やめておけ
それに痴漢を目撃させるなんて、そんな上手く物事が進むだろうか。
いや、それ以上に若井を手に入れる為に自分から痴漢被害に遭うなんて
そんな事、本来やってはいけない事だ。
ラインを超えすぎている。
大森は布団の上で膝を抱えると、足元を見つめた。
だが、思いついたのなら実行したい。
だって、どうしたって叶わない物もこの世の中にはある。
大森は、もうそれを分かっている。
でも、叶える方法を思いついた。
この思い付きは神様からの導きなんじゃないか
そんな気すらして来た。
無駄でもいい
無意味に終わってもいい
いや、駄目で元々なんだ。
やらないより、やって後悔っていうし
大森は、自分で心を焚き付けた。
どこかで、それほどの代償を払えば若井を手に入れらるはずだと
そう思っていたのかもしれない。
大森はそれから、若井の使用している路線を調べた。
若井が学校に到着した時刻から逆算して、大体の乗車時間を割り出す。
その後、最寄りに張り込んで若井の行動パターンを探った。
7時21分発の電車に乗ることが一番、多い。
車両は、毎回4両目。
実際に人を狙う側に立ったからだろうか。
若井の警戒心の薄さが、目に付いた。
確かに大森も同じような時間、同じような車両に乗っていた。
時間をバラしたり、乗る車両を変えるだけでも狙う側を混乱させられるかもしれない。
大森は情報を揃えると、朝から待ち伏せて若井と同じ電車に並んだ。
隣のドアから乗り込むと、電車内での若井の様子を観察した。
大森の計画は、こうだ。
明日も若井と同じ電車に乗る。
そして自然な流れで話しかけて、出来れば 路線を変えたことをアピールする。
その日以外も、何回か同じ列車に乗り込む。
朝よく会うという関係性を構築した後に、 相談を切り出す。
実は痴漢被害にあって路線を変えたこと
でも、痴漢男を捕まえたい気持ちがある事
路線を戻せば、また狙われるかもしれない
現行犯で捕まえたいから、証言者として僕を見てて欲しいと
そして、若井を自分の路線に連れていく。
そこで自分が、痴漢のターゲットになれば若井はそれを見ることになる。
大森はここまで、考えているが実際はどう転ぶか分からない。
若井が、相談をきっぱり断るかもしれない
たまにそういう所があるし
そもそも、痴漢男はもうターゲットを変えているかもしれない。
やっぱり無茶な計画かなと思っていたが、予想外な事が起きた。
若井が大森の姿に気がついて、話しかけて来たのだ。
正直、大森は驚いた。
2年生になってからは、ほぼ関わりが無かった。
なので気がついても、話しかけはしないだろうと思っていた。
すると、若井から心配そうに言われた。
「この後、混んで来るからドア付近だと きついよ」
そういえば、若井はこういう奴だったと思い出した。
本当に、無駄な世話を焼きたがる。
大森は “誰にでも優しいね” という口から出かけた嫌味を飲み込んだ。
若井が重たい沈黙を作らないために、適当な話題を話し始める。
あまりにも、それが適当なので大森は少し心が傷んだ。
若井からしてみれば、前のクラスで一緒だった子。
この程度なんだろうか。
それなら、わざわざ話しかけなければいいのに
「ふふ、無理して喋らなくていいって」
笑いながらも大森が図星を突くと、若井の表情が凍った。
そのまま、俯いてしまう。
予想以上に効いてしまったので、大森は慌ててフォローを入れた。
「でも、ありがとう」
若井が顔を上げる。
「本当は普段、この路線使わないから
それ知ってて教えてくれたんでしょ? 」
そういうと、何故か若井は眉間に皺を寄せた。
なんだ、その顔は
再び沈黙が流れる。
やっぱりクラスが離れると駄目だ。
思考の解像度が落ちてる。
前はもっと分かったのに
大森は悔しい気持ちで足元を見つめた。
でも、若井には俗に言う “良い奴” で居てくれないと俺が困る。
そこが唯一の弱点なのに
「嫌な奴なのか良い奴なのか
わからないよね、若井って」
大森は言葉を使って若井を揺さぶってみた。
若井の眉が下がる。
「ごめん…嫌な事、言って」
大森はパッと若井の表情に目を走らせると、観察した。
これは、どっちだ?
若井は、思ってもないのに謝ることがあった。
それでも誠心誠意に謝るので分かりずらい。
しかし、若井をよく知りたいならこの違いを見抜けないといけない。
「…嫌な奴は普通そんな事、言わないから」
大森がそういうと、若井の顔に期待が滲んだ。
やっぱり良い奴とは思われたいのか?
そもそも、若井を嫌な奴だと評価する人間なんて少ないだろう。
どれだけ自分がお人好しなのか、自覚がないんだろうか。
「変なやつ」
ぽろっと本心が口に出る。
その言葉に 若井は嬉しそうに目を細めた。
大森はつい、その笑みに目線が吸い寄せられた。
こんな可愛らしい表情をする奴だったけ
大森は、その気持ちを誤魔化そうと眼鏡をかけ直そうとした。
しかし、少し前にコンタクトに変えた事を思い出す。
やっぱり、眼鏡あった方がいいな
手持ち無沙汰になった腕を漂わせていると、突然若井が寄りかかってきた。
「わっ」
大森は驚いて、少し大きな声が出た。
見上げると、目の前に若井の顔があった。
大森は、息を飲んだ。
若井の瞳が、表情がいつもと違く見えた。
寂しそうな、愛しそうな顔で大森を見つめてくる。
大森は急激に心拍数が上がると、早く離れて欲しくなった。
「大丈夫?」
出来るだけ平然を装って、問いかけると若井は慌てて距離を取った。
大森はホッとしたような、ちょっと残念なような何とも言えない気持ちになった。
やっぱり、若井の雰囲気が少し変わった。
前までは笑顔でいる事が多いからか、あまり表情が動かない印象だった。
なのに、いつの間にかあんな表情もするようになったみたいだ。
なんで?
新しいクラスで、何か刺激を受けたんだろうか。
大森が思考を回していると、低い声がした。
「このまま、動くな」
大森が声に反応して顔を上げると、若井の顔が恐怖に染まっていた。
大森はその表情で、危機感のスイッチが入った。
何かが起きてる。
目線につられて下を見ると、若井のお腹に刃物が向けられていた。
「静かに、な?」
関西風のイントネーションが聞こえてくる。
大森はぞわりと寒気が走ると、一瞬で状況を理解した。
こいつ、路線を変えても着いてきたんだ
若井の身体がガタガタと震えている。
顔も真っ青だ。
「…若井」
大森が若井を名前を呼んでも、目が合わない。
若井の目線は刃物に、釘付けになっていた。
ある意味、大森の計画は進んでしまった。
痴漢男は現れたし、若井も近くにいる。
でも違う、ここまでしたかった訳じゃない
大森は唇を舐めると、どうにか声を絞り出す。
「他の人には迷惑かけないって」
「お前が路線変えるからや、ボケ」
低い声でそう言われると、大森は泣き出したい様な気分になった。
大森は到底、怒れるような立場にいなかった。
若井が今、巻き込まれているのは偶然じゃない。
この状況を作ったのは紛れもなく、自分自身だ。
こんなこと、やるべきじゃなかった
雪崩のような後悔が押し寄せる。
どうしよう
全部、僕のせいだ
コメント
21件

更新嬉しいですありがとうございます〜!😊 思わず「なるほど〜…」と唸りました。そうかそうなんだ、そうだよね〜って。笑 いやほんとそうなんじゃないかと思っちゃいます。 こちらを読んだあと、前のお話を読み返させてもらうのもまた楽しいです。2人の違った一途さが素晴らしいし、大森さんの思い通りにしつつもしきれないところが可愛いです。 次回のお話また楽しみにしています☺️

大森さん視点こんな感じだったの!?計画通りではないけれど、一応少し成功した感じなんでしょうか?…少しずつ謎が解けていってすごい惹きつけられます! 次も楽しみに待っています!
更新待ってました。ありがとうございます🤗 omrさんの思考がもはや中学生じゃない笑 ひろぱは純粋で傷つきやすいイメージありますね。あわわ、どうなっちゃうんだろ。