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七星そら
423
#嘘告
かは@毎日投稿中
100
__‘‘「18になったら考えてやるよ」”
先生、俺ね?その言葉を信じてここまで頑張ってきたんだよ。
忘れたなんて、言わせないんだから。ちゃんと責任、とってよね?
「先生の嘘つき!ばか!」
高校二年生の冬。寒い廊下で、俺は先生を罵った。
目の前にいる先生の表情は相変わらず変わらない。
俺__暇那津は、目の前にいる体育教師、紫苑いるま先生に恋をしている。
そんな先生をなぜ罵っているかというと、
「終業式で知ったよ!せんせ~、転任するんだってね!嘘ついたじゃんか!」
「別にぎりぎり嘘じゃないだろ。‘‘わからない”って言ったんだから。」
先生は言いながら、手に持っていたバインダーをぎゅっと握りしめていた。
「でも、18になったら考えてやるって!」
「それだって‘‘考えて”やるだけだって。」
「何?もてあそんだの?」
「別にど~だっていいだろ?どうせ俺よりいい他の奴がお前にならすぐできるって」
「俺は先生がいいの!」
「はいはい、ガキは帰んな」
先生はからかうように鼻で笑いながらいう。先生の言葉を聞いて俺の目に涙がたまる。やだ、泣きたくないのに…。
泣かないように目をぎゅっと瞑っていたら、いつの間にか先生は職員室の方向へ歩いていた。
まだ、話し終わってないのに、ばか、ばか、もう先生なんて___。
「じゃーな、暇、元気で。」
先生は振り返らずに言う。
「卒業式、待ってるから!!」
先生はなにも答えることなく、職員室の中に消えていった。
「先生なんて、嫌い…」
ただ扉が閉まる音だけが、冷たい廊下に響いていた。
ただいまも言わず、自分の部屋に入る。
少し散らかっているベットに気にせず飛び込む。
あんな言い方したかったわけじゃないのに。素直になれないから、先生からも好かれないのだろう。
スマホを開くと、先生と初めてあった桜の木の写真が目に入る。
今は冷たい感じだったけど、あの頃は、違ったのにな。
_ _ _ _ _ _ _ _ _
入学式、春。俺はあの桜の木の下で迷子になっていた。
「はぁ…。最悪」
自分の方向音痴さに腹が立ってきたときに、後ろから声をかけられた。
「こんなところで生徒が何やってんだよ」
振り返ると、そこには少し着崩したスーツ姿の男が、桜の花びらを頭に乗せたまま立っていた。
最初の印象が‘‘怖い人”だった。紫色の髪に、金色の三白眼。いかにも‘‘ヤンキー”って感じ。
だから、少し怖じ気ついて、
「べ、別に…」
と、答えてしまった。
「ん~。ま、見た感じ迷子ってことだな?何組か教えて?連れて行ってあげる。」
優しい笑顔で言われ、少し緊張が解けていく。
「一の三」
「ん、三組な、ほら。おいで」
不意に腕を掴まれ、ぐいっと引き寄せられる。
「……っ、」
驚いて見上げると、先生の背中が思ったよりも大きくて。
掴まれた腕から伝わる体温が、春の陽気よりもずっと熱く感じて、俺はただ大人しく、その背中を追いかけた。
なぜが胸がどきどきした。でもこの時はまだ‘‘恋”だなんてわからなかった。
数日後。人見知りな俺は思っていた通りクラスになじめず、独り桜を見ていた。
綺麗、だなんて思っていたら、足音が近づいてきた。
「……お、なんだ。一の三の迷子、また黄昏てんのか?」
聞き覚えのある、少し低い声。
見上げると、そこにはジャージ姿で首にホイッスルをかけた先生がいた。
「……あ、先生」
「入学式の時、泣きそうな顔して俺の袖掴んでたのはどこのどいつだっけ?」
「……っ、そんな顔してないです。……ただ、ここが落ち着くだけ」
先生は俺の隣に、どさっと遠慮なく腰を下ろした。
「ふーん……。ま、最初はそんなもんだ。……あ、そういや。お前、なんてんだ?」
「……暇、那津です」
「暇、か。……おう、よろしくな、暇」
大きな手が、俺の頭をごしごしと少し乱暴に、でも優しく撫でる。
その瞬間、ふわっと先生から石鹸のような清潔な匂いがして。
「……っ、」
頭を撫でられた場所が、じわじわと熱くなっていく。
心臓の音が、耳元まで響いてうるさい。
あぁ。
俺、この人のことが__。
‘‘好き”なんだ。
そこからはアピールするのに必死だった。「子供」なりに頑張って。
「せんせ~、今日はどこが違うでしょう?」
前までは気にしなかった肌のことや、髪型まで気にして。
「あんた、いつまで鏡見てるの~?」
「ちょ、母さん、待って!」
体育の授業の後はたくさん質問して。
積極的にお手伝いして。
なんの用事もないのに、職員室に行って先生を覗いて。
廊下で逢ったら無駄話して。
そじてついに、高校一年生の文化祭で、思いをぶちまけた。
その時言われたのが、
「俺は先生で、お前はまだガキ。18になったら考えてやるよ。」
だった。
_ _ _ _ _ _ _ _ _
__パシャ、とスマホの画面を消す。
画面に映っていたあの日の桜は、今の俺をあざ笑っているみたいだ。
18歳まで、あと数ヶ月だった。
なのに先生は、俺を置いてどこかへ消えようとしている。
あんだけ、頑張ったのに。諦めないといけないのだろうか。
母さんからの「ごはんよ~」の言葉を無視して、俺は布団を頭までかぶり、深い眠りに堕ちていった。
春休み。俺は自分の部屋で、先生がいつか言っていた言葉を思い出していた。
『あそこの大学、俺の母校なんだけどさ。桜がここより綺麗なんだよな』
プリントに書かれた先生の異動先。
そこは、先生が卒業したあの大学から、自転車で通える距離だった。
「……先生の、母校」
画面に映る大学の偏差値は、今の俺には高すぎる。
「ガキ」だと笑われた今のままじゃ、一生届かない場所。
でも、もし俺がそこに入学して、先生と同じバッジを胸につけて現れたら。
先生は、どんな顔をするだろう。
「……ふっ、。待ってろよ、せんせ。」
俺は机に向かい、封印していた分厚い参考書を開いた。
18歳まで、あと少し。
合格通知は、先生への最高の「挑戦状」だ。
高3。春。
「わ~なつくん。今日も勉強頑張ってんね。」
教室で一人、朝早く机に向かっていたら、声をかけられた。
「あ、こさめ。おはよ。」
「ん、おはよ~!元気そうでよかった。」
「ま、頑張らないと志望校には行けないから」
「そっかぁ、もうそんな時期か。早いね」
「うん。」
「頑張って、こさめ、応援してる」
「ん、ありがと。」
高3。夏。
セミの声がうるさい、八月の午後。
エアコンの効いた図書室で、俺のノートはびっしりと数式で埋まっていた。
「……あつい、」
パタン、と参考書を閉じて、冷たいペットボトルを頬に当てる。
去年の今頃は、先生に「ガキは帰れ」って笑われて、泣いてたんだっけ。
でも、今は泣いちゃいられない。
先生、今頃何してる?少しでも俺を思い出していてくれたら、嬉しいな。
高3。秋。
放課後の教室に差し込む夕日が、少しずつ短くなっていく。
連絡先なんて知らない。先生が今、誰に笑いかけているのかもわからない。
手元にあるのは、使い古した参考書と、あの日プリントで見た先生の赴任先の地名だけ。
「……絶対、見つけ出すから」
二月九日。俺が十八歳になるその日は、入試の直前だ。
合格という最高の『手土産』を持って、先生の前に現れてやる。
そう決めなきゃ、やってられなかった。
高3。冬。
俺の誕生日__18になってから一週間後。
ついに大学入試の日になっていた。
俺は先生の写真が入っているネックレスを右手で強く握りしめた。
先生、ついに俺は18にもなったし、入試の日にもなったよ。
絶対合格を勝ち取って見せるから。
緊張している自分にガッツを入れるため、頬を叩く。
震える足で、大学の門をくぐった。
高校三年生。春。卒業式。
席に座りながら、他の先生たちが座っているところを見るけれど、肝心の先生はいない。
きっと入れないだけ。終わったら待っていてくれるはず。
不安でバクバクなっている胸を優しくなでて、深呼吸をする。
先生にあったら言ってやるんだ。もうガキじゃないよ、って。
数時間にわたる卒業式がやっと終わった。友達と泣きながらお別れをし、先生を探す。
いない、いない、どこにも、いない。
おかしい。去年転任した他の先生は何人かいたのに。
「いない。」
どこにもいない。
校門にも、体育館の裏にも。
視界が涙でぼやけて、足元がふらつく。
気がついたら、俺は吸い寄せられるように、あの場所へ向かっていた。
入学式の時、迷子だった俺を先生が見つけてくれた、あの大きな桜の木。
風が吹いて、桜の花びらが舞う。
その向こう側、木の幹に背中を預けて、所在なげに立っている男の人がいた。
見慣れた、でも今は少し懐かしい、広い背中。
やっと出会えたその背中に抱き着きたい衝動を何とか抑え、俺は先生に言う。
「せんせ、俺18歳になったよ。」
ゆっくりとこちらを振り向く、ずっとずっと見たかった顔。
桜が舞うこの木の下で、俺たちはもう一度、恋をする。
~end~
「花水木」↝春(4月中旬)に薄紅色の綺麗な花が咲くミズキ科の落葉高木。
コメント
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ああ、読み終わりました……!もう、最初から最後まで胸がぎゅっとなりっぱなしでしたね。先生との出会いの桜の木のシーン、すごく綺麗で、同時に切なくて。「ガキは帰んな」って言われたあの時の涙も、その後コツコツ勉強して腕時計を重ねて挑む姿も、全部リアルで、応援せずにはいられなかった。 最後の卒業式の桜の木の下で、やっと会えた二人の再会、本当に良かった。この1話で完結してるんですか?それとも続きがあるんですか?どちらにしても、凄く素敵な青春をありがとうございました。先生の「元気で」の一言が、後々効いてきますね…。