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それからというもの、出勤前や帰宅途中に偶然顔を合わせる機会が増えていった私たち。


毎週ではないけど、休みの日には凜の希望を叶えようと出掛ける提案をしてくれたり、ただの隣人同士の関係というには足りないくらい、関わる機会が多くなっていた。


最近では正人も姿を見せないし、凜は毎日楽しそうだし、何だか全てが上手くいっているような気がしてこの平穏が続くといいのに、なんて思っていた矢先のある日の事――。



「鮫島さん!」

「八吹さん、どーも。幕の内弁当二つお願いします」

「あ、はい。幕の内弁当をお二つですね」


私の働いているお弁当屋に鮫島さんが、彼より一回りくらい年上の社員の人と一緒に訪れた。


「何だ、鮫島。この綺麗な人と知り合いなのかよ?」

「ええ、まあ」

「へえ? えっと、八吹さん? コイツ、イケメンっすよね」

「そ、そうですね」

柏木かしわぎさん、変な事言わないでくださいよ」


柏木さんと呼ばれた彼の先輩は私の胸に付いているネームプレートで名字を確認しながら問い掛けてきた。


「別に変な事は言ってないっしょ。つーかもしかして、八吹さんってコイツの彼女だったり?」

「そんな! 違いますよ! 私みたいなオバサン相手じゃ、鮫島さんに申し訳ないです」

「えー? 八吹さん、そんなに歳いってないでしょ?」

「いえ、私はそんなに若くないですから……」

「ちょっと、柏木さん!」

「いいじゃんいいじゃん、ちょっとくらいさぁ」


お客さんが彼ら二人だけという事もあって少しだけ彼らの会話に参加していた私は柏木さんの言葉に苦笑いを浮かべてしまう。


「幕の内弁当二つ、お待たせ致しました」

「ありがとう」

「八吹さん、またね~」

「柏木さんが色々とすみません。それじゃあ、また」

「いえ。あの、お仕事、頑張ってくださいね」

「八吹さんも、頑張って」


お弁当を渡し終えて店を出て行く彼らを見送っていると、


「亜子ちゃん、今の男の子、亜子ちゃんの良い人なの?」


店長の笠間かさま 美子よしこさんが厨房から顔を覗かせてそう聞いてくる。


「違うんです。その、彼は半年くらい前に越して来た同じアパートに住むお隣さんで、凜の事も可愛がってくれる優しい方なんです」

「あらそうなの? 凜くんの事も可愛がってくれるなんて、良い子じゃない」

「そうですよね。困ってる時には助けてくれて、とても助かってるんです。」

「そうなのね。そういえばあの子、一時期よく店の前通ってたわよね」

「え?」

「ああ、通るのはいつもお昼時で亜子ちゃんレジ忙しいから気付かないのね。あの鮫島くんって子、ここ暫く見てなかったけど、それ以前はよく店の前を通ってたのよ~。だからあの子は亜子ちゃんがここで働いてるの前から知ってるんじゃないかしらねぇ」


店長のその言葉に、私はただ驚くばかり。


(知らなかった。鮫島さんは私たちの隣の部屋に越して来る前から私の事、知ってたのかな?)


知っていたからどうという訳ではないけれど、それが何となく気になっていた。


そしてその日の夜、


「あ、おにーちゃん!」

「おー、凜。今帰りか?」

「うん!」

「八吹さん、昼間はどーも」

「こちらこそ」


帰るタイミングが被った私たちは階段下で顔を合わせた。


「ママー、ごはん、おにーちゃんもいっしょがいい!」

「え?」

「おにーちゃん、きょうね、ごはんハンバーグなんだよ! いっしょにたべよ!」

「いや、けどなぁ、いきなりは困るだろうし……」

「えー! ママ、ダメ?」


今日の夕飯は凜のリクエストでハンバーグを作る事になっているのだけど、多めに作って冷凍しておく予定なので材料はあるし、いきなり人数が増えても困る事はない。


それに、昼間の事が気になっていた私は鮫島さんと話がしたくて、


「その……鮫島さんさえ良ければ、是非」


彼さえ良ければ一緒にどうかと誘ってみると、


「本当に? それじゃあお言葉に甘えてご馳走になります」


爽やかな笑みを浮かべながら鮫島さんは夕飯の誘いを受けてくれた。

頼れる年下御曹司からの溺愛~シングルマザーの私は独占欲の強い一途な彼に息子ごと愛されてます~

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