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8 - 第8話 「深海の悪魔」

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2023年02月02日

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1.雨の日

ザァァァァ…

雨が降っている。朝からずっとだ。少し前よりは収まってきた方だが、まだまだ止む気配はない。

「…よし。リヅー、あとは頼んだ」

「ん」

2人の前には、2人からの攻撃を受けて瀕死の状態にになっている悪魔が倒れている。

ザシュ!!

「ヒィ……ヒィィィ……!!」

リヅの刀にトドメを刺された悪魔は、掠れた悲鳴をあげて事切れた。

「錆びんなぁ…」

ふと、リヅが自身の刀を見てぼそりと呟く。

「へー、お前のそれって錆びるんだ」

「そらただの刀やし…」

院瀬見が刀に手を伸ばすと、リヅが触らせまいと素早く庇った。

「触らん方がええで、刀ん中流しとる僕の血ィ、毒やから」

院瀬見は「んだそれ怖」と言いながら、刀に近づく手を引っ込めた。

午後1時半。時間的にもそろそろお腹が空いてきた。気づけば雨も小降りになっていて、2人はそれぞれ傘を閉じた。

「どっかでなんか食うか?」

「お、何にするん?」

「ん〜〜〜…駅前の蕎麦屋とか?」

「え〜〜、だったらこないだの中華がい…い…」

突然、話の途中でリヅが目を逸らした。

「? どした?」

「…いや」

そして、また視線を戻した。


一通り見回りをして来たが、先程倒したものの他には、特に悪魔は見当たらなかった。

「悪魔も雨は嫌いなのか?」

院瀬見が面白おかしく言い、リヅが少しだけ笑った。

また雨がザーッと降ってきた。

「しばらく雨止みそうにねぇな…」

院瀬見が傘の外に手を出して言う。手には大粒の水滴が付いている。

「…」

突然、リヅが黙った。何かあったのかと話しかけようとした時だった。

「…院瀬見先輩。離れててください」

突然、リヅが刀に手を添えて構えた。

院瀬見が耳をすませる。生まれつき聴力は良い方だと自負しているが、雨音が邪魔して何も分からない。

「…敵襲か?」

院瀬見がそれだけ聞く。返事はない。リヅと距離を置こうと傘から一歩出ようとしたその時。

「相変わらずの鋭さだね」

どこからともなく声が聞こえた。変に反響するような響き。嫌な響きだった。

「リヅ!あそこだ!!」

院瀬見が木を指さした。リヅが木を見上げる。そこには一人、少女が枝に座ってこちらを見下ろしていた。

久しぶりだね。華ちゃん

2.海

少女がたん、と軽やかに木から降りた。顎くらいの長さの黒いショートヘアに鼻まで伸びる前髪。左目と口の横にあるホクロ。左目は緑で、右目は深い海のような青。年齢はリヅと同じくらいに見える。

画像 「…海…か?」

リヅが抜刀し答える。

「そう、海だよ。覚えててくれて嬉しいな」

“ウミ”と呼ばれた少女は表情がない。

「何しにここに来たんやお前。お前まだ地獄にいたんとちゃうんか?」

「そうだよ。でもハナちゃんのためにわざわざ来たんだよ」

「お前…リヅのこと知ってんのか?」

院瀬見が離れたところから聞いた。

「リヅ…って呼ばれてるんだ」

海が振り向いた。そのまま話を続ける。

「私とハナちゃんはね、地獄にいたときすっごく仲良しだったの。毎日一緒に遊んで、毎日一緒に過ごして…とっても楽しかったな」

海が下を向いた。

「でもね、ハナちゃんね、私の大事な家族を殺したんだよ」

「…!?」

耳を疑った。リヅがそんなことをするはずがない。

「リヅ!!それマジか!?」

「話は最後まで聞いてほしいな」

院瀬見は黙った。

「…ハナちゃんがそんなことする訳ないって思ってたから信じられなかったけど。大事に飼ってたお魚さんを殺して、その上存在をも消させちゃったから」

「消させ”ちゃった”…?」

院瀬見が引っかかる。リヅは黙ったままだ。海のことは覚えていても、海のように共に過ごしたときの記憶は流石にないらしい。

「その後ハナちゃん、倒れて死んでたからわざわざ自殺して追いかけてきたの。例え転生したとしても華の悪魔であることは変わらないし、自分の手で同じ目に合わさないと気が済まないから。ごめんね」

海が片手をスっとあげた。

3.深海の悪魔

「ゔぉぉぉぁ!?」

院瀬見が避けた。海の背後から二つの顔があるウツボが出てきたのだ。

「この子、今の私の家族。ハナちゃんを殺せって言ってあるからハナちゃんが死ぬまで止まらないよ」

また、海が片手をあげた。すると今度は背後から鋭い歯が生えた無数の深海魚が飛び出してきた。

「だァァァ!!クソ!!」

「見れば分かると思うけど…私、深海の悪魔だから。強いお魚さん沢山使えるよ」

リヅは刀を構え直して海に突進した。その刀を振るも避けられる。

「昔から変わらないよねその武器。それのせいで私の家族が死んじゃったって考えるとますます癪に障るよ」

そう言うと海は右足をダン!と強く踏み込んだ。

ゴゴゴ…と地鳴りが響く。

「なん…ッ!」

院瀬見とリヅが辺りを見回す。すると。

ドゴォ!!!

地面を割って巨大な深海魚が顔を出した。院瀬見とリヅはその魚に下から食われる。

「リヅ!!」

リヅが深海魚の口の中で刀を振った。毒が入り込んだ途端、深海魚が激しく咳き込んで二人を吐き出す。

「きったねぇ〜!」

院瀬見が汚れた上着を脱ぎ捨ててワイシャツ姿になった。黒いネクタイがヒラヒラと風に舞う。

「ハナちゃん…変わっちゃったね。昔のハナちゃんはそうじゃなかったのに」

「オオカミ!!」

院瀬見が叫んだ。遠吠えと共に狼が現れた。

「オオカミ様!」

リヅが刀で攻撃を交わしながら振り向く。オオカミはだっと走り出した。

このままオオカミが海を食い殺すのだと、二人ともそう思っていた、が。

バキ!!と嫌な音が響く。院瀬見が驚いて目を凝視すると、そこには右脚の消えたオオカミと、それを喰うウツボがいた。

「オオカミ!!!」

「スゴいねこの子。あなたの悪魔?」

海が汚れを払いながら喋る。院瀬見が攻撃に出ようとした時だった。

鋭い金属の音が響く。

海の背中が、リヅによって横一文字に切り裂かれた音だった。

4.赤く染まる海水

リヅは仰向けに倒れる海の元へ向かった。

「海」

「…なーに?」

声は明るいが、瀕死状態の海は口から血を流している。

「お前のおかげで思い出したわ。前世のこと」

リヅが海を見下ろして続ける。

「あん時、お前の家族殺したんは僕やない。他ならぬお前自身やったんや」

「…は…?」

海が笑いながら言った。ほとんど息しか発していない。

「他の悪魔と喧嘩して自分のペット殺されたゆうてお前が自暴自棄になって殺したんや。ホンマはこんなん言いづらくってしゃーないけど、勘違いしたまま死んでほしないからな」

「じゃあ…ハナちゃんを殺したのはだれ?」

「それもお前や。お前が暴走して振り回した武器に当たったんや」

真実を知った海は泣き笑いの顔を浮かべた。

「…なーんだ…全部私の骨折り損か…全部私の被害妄想か…」

「最後に言っとくけどな。僕、お前のことが嫌いになった訳ちゃう。また転生でもしたらここに戻ってこい。華の悪魔を死ぬまで探せ」

リヅは血まみれの海をまっすぐと見た。

「…ハナちゃん」

「なんや」

「変わっちゃったねって言ったの…間違ってたね…」

海が震える手を伸ばす。

「変わっちゃったのは…私だったよ…」


その言葉を最期に、海は死んだ。

5.大好きだった

リヅは静かに院瀬見の元へ戻った。院瀬見はちょうどオオカミに自身の血を飲ませて治療しているところだった。

「お、リヅ大丈夫か?」

「海…死にましたわ」

「そっか。んじゃそっち手伝え」

院瀬見は相変わらずの態度だ。もうちょっと労わっても良いだろうに。

「オオカミ様…なんとかなります?」

「大丈夫だよ。ありがとう」

院瀬見に聞いたつもりだったがオオカミが答えた。まぁいい。

「!」

何かの光がリヅの顔を照らす。目を細めて光の方を見る。

「晴れた…」

空には大きな虹がかかっていた。

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