教室の窓から差し込む光が、床を細く照らしている。
リンクは、結局ほとんど眠らなかった。
(……やはり、来なかったな)
夜通し張り詰めていた感覚が、朝の空気とともにわずかに緩む。
エンゲルとバブルは、まだ静かに眠っていた。
その頃――
別の場所では、まったく違う緊張が高まっていた。
職員室ではない。
会議室でもない。
窓をすべて閉め切った、
校内でも特に古い部屋。
円を描くように、教師たちが集まっていた。
サークル。
ブルーミー。
タヴェル。
そして――グレース校長。
他にも、名前を呼ばれることのない教員たちが、
影のように立っている。
「……夜、動かなかったのは誤算ね」
ブルーミーが、爪先で床を軽く叩く。
「ええ」
サークルが頷く。
「彼は、一睡もしていない」
「交代もなし。
見張りも、警戒も、ずっと続いていた」
タヴェルが低い声で続ける。
「このままでは、 “普通の生徒”の目に映り続ける」
グレース校長は、腕を組んだまま黙っていたが、
やがて口を開いた。
「……だからこそ、朝だ」
「教室には入らない」
サークルが言う。
「夜通し起きていたことが知られれば、
不自然すぎる」
「疑われるのは、こちらよ」
ブルーミーが笑う。
「“教育者”でいられなくなる」
一瞬、沈黙。
その沈黙を破ったのは、
名も呼ばれない教師の一人だった。
「……本当に、あれは“生徒”なのか?」
空気が、凍る。
「アリスよりも、危険だ」
別の声。
「アリスは制御不能だった。
そして、リンクも……制御されない」
グレース校長が、静かに告げる。
「彼は、この学校の根幹を壊した。 だから、排除する」
言葉は冷静だった。
だが、そこに迷いはない。
教師たちは立ち上がる。
「集合時間に合わせて、罠を張る。 外だ。
校舎の中では目立つ。 事故に見せる」
誰も、それに異を唱えない。
――彼らは、教師ではなかった。
すでに、殺意を共有する集団だった。
やがて、生徒の集合時間が近づく。
教師たちは、
それぞれの配置へと散っていった。
だが――
外に出た瞬間、
誰もが足を止めた。
「……なに、これ」
空中に、
黒く、細かい紙吹雪のようなものが舞っている。
チリチリと、
空気がかすかに揺れる。
触れても、
実体はない。
害も、感じられない。
だが。
「……空を見て」
誰かが、震える声で言った。
太陽。
その周囲を、
黒い何かが取り巻いている。
完全に覆っているわけではない。
だが、確実に――
包み込み始めている。
例えるなら、
瘴気。
世界そのものが、
何かを拒絶しているかのようだった。
教師たちは、言葉を失う。
「……想定外、ね」
ブルーミーが、唇を噛む。
グレース校長も、
ただ空を見上げていた。
(――もう、動き始めている)
リンクだけではない。
アリスでもない。
何か別のものが、朝とともに蠢き始めていた。
それでも、
教師たちは引き返さない。
罠を張りに行く。
朝は、 確実に始まっていた。
キャンプと陰謀編 ー完ー
退魔の散在編 に続く






