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普通の病院と違い、慌ただしく看護師さんや救急隊の人達が行き交う様子もなく、むしろわざとゆっくり動いているようなそんな時間が流れて行った。これは長くなるぞ、と思い喉が渇いているか君に尋ねる。
「うーん。ありがと、大丈夫…」
家を出る前より顔色は良くなったが、やはりいつもよりどこか寂しげにそう答えた。
「そっか。俺はとりあえず、すぐそこの自販機に行ってくるから呼ばれたら教えてね」
こくりと頷く。その動作が幼く見えて思わず口元が緩む。不思議そうに眺められ、慌ててくるりと涼ちゃんに背を向けた。適当なお茶を買い、椅子に戻れば近くでイヤイヤと抵抗している子供を微笑ましそうに見ていた。俺に気付くと内緒話をする時のように手招きする。隣に座って耳を傾けると、
「あの子なんだか元貴みたいだね」
とにやっと笑って君は言った。何も言わずにペットボトルを首に当てる。痛っ!?あ、いや冷たっ。鈍臭いにも程がある反応に腹を抱えて笑ってしまう。恥ずかしそうな悔しそうな表情だったが、次第に涼ちゃんも笑って二人で大笑いした。やっと落ち着いてきたので、緊張も解れたし気になっていたことを口にしてみる。
「ちなみに、若井は呼ばなかったの?あ、別に意味が無いなら全然良いんだけど…」
「あぁ…それがね、自分でも分からなくて。もうこのままだと死ぬって思って、気が付いたら元貴の連絡先を開いてたんだ。でもちゃんと若井にも話すつもりだよ」
成程。少し俺だけだという優越感と、特段の理由がないという消失感、涼ちゃんが若井を避けていたわけではない安心感でぐちゃぐちゃだった。場違いだと思い、ぶんぶんと頭を振り俺もそばに居るからねと抱きつく。背中が盛りあがっているのに気付いて少し切なくなってしまう。
「ありがとぉ。二人で、ミセスで本当に良かったよ。何を言われても僕ちゃんと受け止めようと思う。元貴と話せて凄く自信がついた」
と言って抱きしめ返される。段々人とくっついていると暑苦しい時期になってきたが、気にならない振りをして肩に顔を埋める。君はふふっと笑って頭を優しく撫でてくれる。その状況に、一瞬これで最期なんだろうかと嫌な予感が走った。
最期、なら。こんな俺の拗らせた思いも伝えていいんじゃないだろうか。悩む前に、俺の口は言葉を発していた。
「あのね、涼ちゃん…。ちょっと一つだけ言いたいことがあって___」
『番号札15番、15番の方。1番診察室にお入り下さい』
その言葉は途中でアナウンスによって遮られる。しかも運悪く、涼ちゃんの番号で。
「あー…タイミング悪かったねえ。ごめん、絶対後で聞くから」
…いや、これで良かったのかも知れない。君に悩みの種を植え付けたままになってしまうかもしれなかったから。まだ決まった訳でもないし。
そう勝手に納得して、思いを誤魔化した。行こうか。君の手を取り、1歩踏み出した。
◻︎◻︎◻︎
読んでくださりありがとうございます!
更新遅くなり申し訳ないです…何話ぐらいか色々考えていたら気付けば5日も過ぎていました…もう少し頻度あげられるよう頑張ります。
次も是非読んで頂けると嬉しいです。