ぬくもりを半分こした。
吐く息が白くなる凍った季節に。僕のポケットの中でつなぎ合った手。半分こして食べたコンビニの肉まん。どんなに冷え込んだ季節でも、君さえいれば体も、心も温められる気がした。
あの日までは。
あの日の夜、君は突然僕に問いかけた。
「愛ってなんだろう。」
僕はなんて答えたんだったかな。たぶん、「人を好きになること。その人といて幸せだと思うこと。」みたいな無難で当たり障りのない一般的な回答をしたと思う。
続けて君が問うたのは、たしか…そうだ、
「人を好きになるってどういうことだと思う?」だった。これにも僕は一般論で答えた。
何度も繰り返される問答に僕は、
「ねえ、急にどうしたの?」と君に問いかけた。
「ごめん、何でもない。」って君は苦く笑って答えたんだったっけ。
その翌日だった。君が学校の屋上から飛び降り、向こう側へと逝ってしまったのは。
君がいなくなって、僕は初めて君の本当の姿を知った。
家に居場所がなく、誰にも愛されていなかったこと。学校でもいじめに遭っていたこと。寂しさをお金で埋めるために何人もの男性と体を重ね、お金を受け取っていたこと。でもそのお金すら両親に取り上げられて苦しみも寂しさも和らぐことはなかったこと。いつも心には隙間があり、埋まらなかったこと。そして、僕との関係。僕との関係を愛を知らない自分が恋人と呼んでいいのかずっと悩んでいたこと。そして、あの日の僕とのやりとりで「普通の幸せ」を知っている僕とは永遠に分かり合えないと悟り絶望したこと。
全部、君がいなくなった後に遺した手紙で知った。
「なんでだよ…知らないなら何度だって教えた、隙間があるなら何度だってそこを埋めてあげたかった!ぼくは…僕は!」
ー君のことを愛していたー
でもきっとその考えすら君の目には傲慢に映るのだろう。「普通の幸せ」を知っている僕が全てを知ったら君に同情することも、隙間を埋めようとすることも、きっと君はわかっていた。そして君は望んでいなかったのだろう。同情されることも隙間を埋めようとされることも。
それは一歩間違えば君を見下し、上から投げつけるように与える愛でしかないから。
そのことを悟った僕はどう頑張っても君を救える結末がないことに絶望した。
それでも、僕は君に生きていて欲しかった。何気ない会話をして肉まんを分けて食べあって、寒い日には一緒のポケットに手を突っ込んでぬくもりを半分こして。そんな日常がとてつもなく、愛おしかったのに。
許されるならもう一度君に会いたい。けれど、それはもう叶わない。その事実に目の奥が暗くなる。呼吸が乱れていく。そんな中僕は自嘲気味に笑った。
「ほら、僕は、君がいないと息もできない。」
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