テラーノベル
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期末テストも無事に終え、終業式の前日。靴箱の隅でうずくまっている半沢洸を見つけた。
あれ? 今日は軽音部の活動日のはずや。今期最後やから、と優人はさっき張り切って部活へ行ったはずやけど。
「半沢くん、どうしたん? 体調悪い?」
思わず声をかけると、彼は顔を少し上げて俺だと確認し、また膝の間に顔を埋めてしまった。
これは……どうしたもんか。上重はもう部活に行ったんやろうか。この子がこんな風になるってことは、原因は間違いなく上重絡みやと思うんやけど。
「澤本先生呼んでくるわ。ここで待ってて」
放っておくわけにもいかず、保健の先生の名前を出してみる。そうすれば何かしらの反応はあるはずや。
「……いい。元のこと、待ってるだけやから」
「上重、まだ部活行ってへんの? さっき『先行っとくで!』って俺に声かけてたけど」
「……今日、部活終わったら一緒に帰ろうって話しててん。……そしたら、女子がいっぱい来て、掻っ攫われた」
え、珍しい。いつもの「小閻魔様」ならもっと強気なはずやのに。
あ、案外、急な奇襲には弱いタイプなんや。いつもはじっくり時間をかけて、周りくどい手で相手を地獄に落としているから。
「……半沢くんはさ。上重のこと、好きなん?」
そんなに落ち込むくらいなら、回りくどいことしてないで、素直に両想いになる努力をしたらいいのに。今は時代も時代だし、案外いい方向に転ぶかもしれへんやん。
「……好き。好きすぎて、もうどうしたらええかわからんくなった」
「……え、……かわい」
意外やった。素直で真っ直ぐに、上重のことだけを考えて生きている。半沢くんて、それだけやったんや。
「……中目くんは?優人のこと、どう思ってるん?」
「……優人? 腐れ縁の幼馴染やけど」
「でも、優人が中目くんのこと好きなのは、知ってるやろ?」
「まあ……でも、あいつも冗談で言うてるだけやから。本当は女の子が大好きなの知ってるし」
俺、実は一年の時に校舎裏で見てしまってんな。優人が三年の女の先輩と密会してるのを。
だから、それ以来、優人の俺に対する「好き」はただの冗談やと確信している。もう、ギャグみたいなもんや。
「……中目くんも元も、鈍感すぎて呆れるわ」
ふふっ、と少し涙目になった半沢くんが、顔を上げて笑った。
話してみたら、案外可愛いところあるやん……。え、ちょっと待って。これ、罠じゃないよな!? 俺が上重と仲がいいからって、捕獲されかけてんのか!?
「……言うたら? 上重に。好きや、って」
「……言うたら、元は優しいから。本当は好きじゃないのに、俺のこと好きって言ってくれる。……そういう人やから」
あかん、もらい泣きしそうや。幼馴染やからわかりすぎてしまう事もあるもんな?俺、どうしたらいい!?
ここでハンカチなんて差し出したら、絶対こっちでロマンスが始まってしまうよな!?
「……これ、使って」
なるべく罠を避けたくて、差し出したのは使いかけのポケットティッシュ。
これで「こいつ、きっしょ」と思われたら、少しは身を引いてくれるはず――。
「……ありがとう。中目くん、優しいな。……俺も、『秀太』って呼んでいい?」
……うわ、やってしまった。思惑とは裏腹に、一気に距離を詰められた。
俺、まんまと蜘蛛の巣に引っかかったんちゃうか。こわいこわい、どうしよう。一応優人の友達やし、邪険に扱うわけにもいかんし。
「……ええよ。じゃあ俺も、『はんちゃん』って呼ぶわ」
「ふふっ。いいよ、秀太」
かっわい……!! いや、これは落ちるって! こんな赤ちゃんみたいな笑顔見せられたら、誰でもガード緩むって!
でも、前までみたいに目の奥に「地獄行き」の文字が見えへんねんな。
これ、本当に友達になれたって思ってええんやろうか。流石に友達の幼馴染を地獄に落とそうとは……せえへんよな?
「……あ! 上重、助けに行こうや。あいつも、その女子たちの中に好きな子なんておらんやろ? じゃあ俺らが行った方が、あいつも喜ぶんじゃない?」
「でも、俺、喧嘩弱いで?秀太もモヤシやん」
「誰がモヤシやねん。不良グループに絡まれてるわけやないんやから。……あ、優人連れていこか?」
「うわ、ナイスアイデア!」
はんちゃんが元気を取り戻して、軽音の部室へと走り出す。
なんや、めちゃくちゃ青春してるわ。ちょっと楽しくなってきた。
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#先生と生徒
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