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星縁陣(せえじ)は想像の世界から現実の世界へと帰ってきた。
手に持っていたスマホの画面には、想像の世界で押した「110」の番号が表示されていた。
「危ない危ない」
すぐに緊急連絡の画面を閉じる。すぐにタブレットで今し方想像していたことを詳細に書き綴る。
星縁陣の悪い癖なのだろうか。星縁陣は小説を書くのに詰まったときは、設定を考え
そのキャラクターになりきり想像する。そして役に入りすぎて先程のように、想像で110番する直前だったら
現実でもスマホに110番の番号を入れてしまっているのだ。
昔も殺人を犯したキャラクターになりきり、その罪を隠すために気合いを入れるため
想像の中でシンクで頭から水を浴びたときも、現実でもシンクで頭から水を浴びており
想像から抜けたとき、床がびしゃびしゃになっていたこともあった。
そんな悪い癖を伴う想像のお陰で1つの事件を書くことができた。しかしミステリー。
事件だけでは成り立たない。このままではただ殺人を犯し、隠蔽工作をしただけの男の物語になってしまう。
事件の概要は書けた。いつもはここから警察が事件を暴くとか
それこそロナンくんじゃないが、探偵が出てきて事件を暴くとかそんな感じなのだが
今回は趣向を少し変えようと思った。今回はシリーズものにしてみようと思った。
そう思ったのは、皮肉にも自分の寿命を知ってしまったためだ。
あと1年の命
別にたぶん、おそらく健康的には問題ないはずである。
死の悪魔、所謂死神のような役割のビガードンに言われた。
今までシリーズものを書こうとしたが尻込んでいた。でも「死」というものに後押しされた。
シリーズものを書くにあたって、キャラクターのこと細かい設定が必要である。
短編には設定が必要ではないのかと問われると、もちろん必要ではある。
しかし読み切り、1話完結だとしたら、そこまでこと細かな設定はいらない。
「熱血刑事」とか「新米刑事」とかそういうワードである程度キャラクターは想像できるかと思う。
そこにさらに「結婚していたが、仕事仕事で家族に構うことができず
離婚し、高校生の娘がいる47歳の」熱血刑事とか
「別に警察に入りたいわけではなかったが、公務員で安定して収入を得ることができるため
なんとなく警察になって、トントン拍子で刑事課に配属された25歳」新米刑事とか
そういう文言を加えるだけで、そのキャラクターの雰囲気
顔の感じ、佇まい、仕事への意欲などがわかりやすくなるかと思う。
短編、読み切り、1話完結の話ならこのくらいでいい。
さらにキャラクターがしっかり話の中で生きている感を出したければ
「先輩。買ってきましたよー。コロッケパンとブラックコーヒー」
「おぉ。さんきゅ」
※熱血刑事※はコロッケパンとブラックコーヒーを受け取る。
「おい。なんだこれ」
「はい?」
「お前缶コーヒーじゃねーじゃねーか」
「いや、ブレンドっすよ?たぶんうまいっすよこっちのほうが」
※熱血刑事※が受け取ったのは※熱血刑事※望んだ缶コーヒーではなく
プラスチックの透明な容器に入った氷入りのブラックコーヒーだった。
「いや、これ慌てたとき溢れんだろ」
「いや、缶コーヒーでも慌てたら溢れますよ」
正論を言われ
「…まあ…」
言い返せずに一口飲む。
「うまっ」
「ほらぁ〜」
と言いながらクリーム色というかブラウンの飲み物を飲む※新米刑事※。
「お、おい。お前なんだそれ」
と※熱血刑事※が※新米刑事※の持っているプラスチックの透明の容器を指指す。
「はい?」
「飲み物。なんだそれ」
「カフェラテっす」
「お前…」
「なんすか」
「ブラックでシャキッっと目覚ますんだよ。眠くなんだろそんなの」
「んなことないっすよ。今日ガムシロ1個しか入れていないんで。まあまあ苦いっすよ」
「ガムシロップ入れてんじゃねーかよ。甘くしてんじゃねーよ」
「自分いっつも3つは入れるっすよ?」
「知らねーよ。とにかく寝んなよ」
「寝ないっすよ」
※で挟まれた部分には名前が入ります。
なんていうキャラクター同士の会話からも
なぜコロッケパンなのかとか甘党なんだなとかそういうことが垣間見え
ちゃんとキャラクターが生きている感が生まれる。
しかしシリーズものとなると後に矛盾、チグハグが生まれないように
キャラクターの年齢、名前はもちろんのこと、見た目、身長、好きなもの、嫌いなもの
得意なこと、苦手なこと、喋り方、学歴など、あらかじめこと細かに決めないといけない。
星縁陣(せえじ)は、今回は探偵ものにすると決めた。
しかも今までのテイストとは少し違うものにしようとも決めた。
今までは読み切り、1話完結ばかり書いてきた星縁陣。
先でも言ったように読み切り、1話完結の話だと
わかりやすい、想像しやすいキャラクターが求められることが多い。
矛盾していると思うが、今までは、決して個性は強くないが、個性があるというキャラクターばかりだったが
今回は個性が強いキャラクターをメインに据えようと思った。
そしてなぜか先程想像の中でなりきったキャラクターの事件をすぐに解決するわけではなく
主役の探偵のキャラクターがなにかを嗅ぎつけて
助手にするとか度々接触してくるとかそんな感じにしようと思った。殺人犯が探偵の助手とか
なかなかおもしろい設定じゃないか?
と自画自賛してしまうほど良い案だと思った。まずは主役の探偵のキャラクターを生み出すことにした。
一般的な探偵のイメージといえば
世界一有名な探偵シャーロック・ホームズのダンディーでシュッっとしたイメージ
そしてそのシャーロック・ホームズと並ぶかもしれない
今や世界的に有名で大人気な名探偵ロナンの主人公、江戸山ロナンの
少し生意気で、でも可愛くてアクショナブルでスマートなイメージ
そしてもう1人、工藤古二(ふるじ)のカッコよく、スマートなイメージ。
ま、眠りのー…という人も探偵だが、いつもは競馬、パチンコ好きで
お酒、綺麗な女性が好きでというロクでもないイメージで「まったく。最近の探偵ときたら」という感じだが
ときにはカッコいい部分も見せるというダンディーさを持ち合わせている。
猫好きで両目が隠れるほどの髪で、部屋全体にマットが敷いてあって
事件を解決した途端に被疑者が自死するように洗脳してしまうような
少し危なっかしい「死ぬ気でやれよ」的な変わった探偵もいたりするが
世間の探偵へのイメージは一様に“カッコよくスマート”というものだろう。
しかし星縁陣は同じような像の探偵を描(えが)いても読者を楽しませられない。
新しい読者の方が付かないと思ったので
今までにない(あるかもしれないが)イメージの探偵にしようと思った。
…
殺人事件が起こった。マル被(被害者)はOLの女性、大林春奈さん27歳。
第一発見者は会社の友人、高木アンナさん27歳。
そして連絡して来てもらった大林さんの恋人、木村隼人(ハヤト)24歳。
「…刑事さん…え。嘘でしょ?春奈…春奈が殺されたって」
隼人さんは取り乱し、膝から崩れ落ち、涙を浮かべ、部屋の前にいる警官にすがりついている。
「隼人さん。混乱されているときに申し訳ないですが、軽くお話聞かせてもらってもいいですか」
刑事課に配属されてから7年の現場にも慣れた戸倉雄一。
現場にも事情聴取も慣れたが、1件1件違く、“殺人”という事実に慣れることはなかった。
「刑事さん。オレを疑ってるんですか」
隼人は怒りを秘めたような、涙を流すその目で雄一を見る。
「形式的なものなので」
このやり取りも何度もしてもう慣れた雄一。雄一が事情聴取したところ
会社の友人、アンナさんにも、恋人、隼人さんにも死亡推定時刻前後2時間にアリバイがないことがわかった。
さらに友人、アンナさんは最近被害者と口論していたことが明らかとなった。
つまりは容疑が濃厚なのは、動機はあるがアリバイはないアンナさんである。
部屋には荒らされた痕跡があり、被害者の財布も散らかされていたことから
外部犯の犯行も視野に入れなければならなかった。雄一は一度現場を離れ、被害者のマンションを見上げる。
「(むしゃむしゃ)現場は…(むしゃむしゃ)このマンションの6階…606号室。
被害者は大林春奈さん。20代半ばから30代前半くらいかな…。恋人は歳下。
(むしゃむしゃ)…で、おそらく恋人にもアリバイはなく
もう1人か2人容疑者がいて、ゆーいっちゃんは迷ってらっしゃって…(むしゃむしゃ)」
視線を上に向けて、舌で上の歯の隙間に挟まったものを取ろうとして
「…取れん。…ってとこですかね?」
と雄一に言う男性。
「相変わらずいい洞察力だこと」
コンビニのものより大きな肉まんを食べる男性。与田愛希(あいき)。24歳。
ダボッっとした、ニッカポッカのようなジーンズを履き
丈の長いシャツを着て、癖っ毛でウェーブのかかった長い黒髪を靡かせる愛希。
「お褒めに預かり」
彼と雄一の付き合いは長い。まだ雄一が警察に成り立ての22歳のとき、愛希は15歳。高校1年生だった。
特に愛希は不良とかではなかったが、人間観察に夢中になりすぎて制服姿で河原に座って
高校をサボっているときに雄一に出会った。
さすがに高校へ行くべき時間帯に制服姿のあからさまな高校生が河原にいたら
警察官として声をかけないわけにはいかず声をかけた。すると焦って謝って学校へ行った。
しかしそんなことがしょっちゅうあった。否が応でも仲良くなった。
愛希は中学生の頃から探偵紛いのことをしており
高校1年生から探偵事務所の手伝いのようなことをし始めたらしい。
高校卒業の頃には卒業祝いに一緒にご飯を食べに行く仲になっていた。
高校を卒業した愛希は探偵事務所の正式な所員になった。そして現在に至る。
人並外れた観察眼、そして驚異的な聴力を駆使して探偵をしている。
「今日はまたなんで現場にいたんだよ」
「いやぁ〜デカ肉まん買いに駅降りたら、駅前で人が会話してんの聞こえてさ?
どこどこで殺人事件だってっていうのが。だから来た」
「肉まん買ってからか」
肉まんにかぶりついて咀嚼しながら頷く愛希。
「容疑者の詳細おせーて(教えて)」
というのでこれまでも度々事件解決に協力してくれた
それに加えて昔のよしみ、それに探偵という守秘義務を守る職業ということで
事件概要、容疑者の勤務先、アリバイの詳細を教えた。
「なるほどねぇ〜…」
と言いながらマンションへ入っていこうとする愛希の襟首を掴み
「おいおいおいおい。どこへ行く?」
と聞く。
「いや、ゆーいっちゃんの情報にさらに詳細を入れるために
現場の状況と被害者、大林春奈さんの状況、あとは容疑者も見ておきたくて」
と言うので「やれやれ。しょーがないな」という顔をして
雄一が「事件の関係者として判断した」という理由で現場へ連れて行った。
部屋の状況、被害者の状況、容疑者とも話して現場を離れた。
そして雄一と愛希は容疑者の勤める職場へと赴いた。
もちろん雄一は刑事として職場での容疑者の普段の振る舞い、言動
そして事件当日に違和感はなかったかどうかなどを尋ねた。
愛希もそれを聞きながらも独自に気になった部分を質問していく。現場へと戻った2人。
「2人とも特に異常な言動は取っていない…。アリバイはなし…」
雄一が呟く。その呟いている雄一を他所に現場へとつかつかと入っていく愛希。
「おいおいおいおい」
と言いながら後を追いかける。すると愛希は一直線に容疑者
被害者の恋人である木村隼人の元へと歩いていき、目の前で止まり
「犯人」
と雄一を振り返り、隼人を指指す。
「は?」
あまりの出来事に隼人は怒りも驚きもなく「は?」しか言えなかったが、徐々に怒りが芽生えて来たのか
「ちょ刑事さん。なんなんすかこの人」
と語気が強くなった。
「あぁ。こいつは」
なんと説明していいか悩んでいると、そんなことお構いなしに推理を始めた。
「まず今回の事件の容疑者は2人。被害者、大林春奈さんの恋人の木村隼人さん
ご友人の高木アンナさん。外部犯でないことは現場と被害者を見たら明らか。
被害者、大林春奈さんは部屋着のまま背中から刺されていた。
テーブルには紅茶のカップが2つ。物取りやストーカーなどの線は限りなくゼロに近い」
淡々と推理をする愛希。
「なんだこいつ。まるで探偵気取りだな」
「はい。探偵なんで」
「は?マジかよ」
「大マジです」
「…じゃあ探偵さんよ。なんでオレが犯人なんだよ?
んなマンガとかじゃねーんだから探偵が事件解決なんてうまいこといくk」
すべて言い終わる前に
「まずはテーブルの上に置かれた紅茶」
推理の続きを披露し始める。
「隼人さんとアンナさんの職場に伺い、いろいろと聞きました。アンナさん」
「はいっ!」
「普段、休憩時よくカフェを利用するようですね」
「はい」
「そこでは度々ミルクティーを頼まれるとか」
「はい」
「職場のご友人や店員さんにいろいろと聞いてみたところ
ミルクティーに砂糖を3杯ほど入れるらしいですね」
「はい」
「隼人さん」
「…」
「あなたのご友人にも伺いました。休憩のときにはよくコーヒーを飲まれるらしいじゃないですか」
「だからなんだよ」
「しかもブラック」
「あぁ」
「現場のテーブルの上には、先程も言った通り、紅茶の入ったティーカップ&ソーサーが2セットあります。
その横には砂糖の入った瓶、砂糖を入れたらかき混ぜますよね?」
雄一が
「そうだな」
と同意する。
「こうやって砂糖を瓶に入れているタイプの人は砂糖を掬うためのスプーンも瓶に入れています。
そして砂糖を掬う用のスプーンなので
そのスプーンを紅茶の入ったティーカップに入れてかき混ぜるなんてことはしないし、させないと思うんです。
その証拠に片方のカップの側、ソーサーの上には小さなスプーンが添えられています。
そう。それが意味すること。それは来客は砂糖やミルクを使わない人。
正確に言えば、砂糖を使うこともあるだろうが、被害者、大林春奈さんの前では使わなかった人です。
アンナさんはカフェで頼むのはミルクティー。砂糖を3杯入れる。
被害者、大林春奈さんの前でだけ砂糖を入れないというのは考えづらい」
とまで言って隼人は焦って
「そんなんが証拠だとでもいうのか?たしかにオレはコーヒーはブラックが好きだ。
だが紅茶に限っては砂糖たっぷりのミルクティーが好きなんだよ」
と弁明した。
「ほお。なるほど。そういう可能性も考えられますね。
そうだ。あなたがブラックコーヒーを飲むのはタバコを吸うからだと聞きました」
「あぁ。タバコは吸う」
「被害者、大林春奈さんはタバコ嫌いだったようですね?」
「…」
「玄関に消臭スプレーが置いてありました。それは恋人であり、頻繁にこの部屋に訪れる喫煙者の隼人さんが
家に訪れた際に服にかけるためだとお見受けしました」
「あぁ。かけられるよ」
「もし犯人が隼人さんで、ここに訪れたなら、普段通り玄関でスプレーをかけられたはず。
消臭スプレーの痕跡は目に見えませんが、かけられた跡の足跡が残っているはず。
その靴底の形状、そもそも何センチの足跡かがわかれば自ずと」
と喋っていると途中で
「そんないつのものかわからない証拠で犯人にされてたまるか!」
と少し焦っている言い方の隼人が入ってきた。
愛希は口を尖らせえ、あからさまに「めんどくせー」という表情をする。頭を掻いて
「それ」
と指指す愛希。
「あ?」
「先程言ってましたね?「あぁ…めんどくせぇ」って。僕耳がいいから聞こえたんですよ。
なんのことかと思ってあなたのことを観察したら、右手の親指にバンドエイドを貼ってらっしゃる。
お怪我されたんですね?」
というと右手を隠すように腕を組む隼人。
「…あぁ。ちょっと紙で切って」
「会社の人に聞いたら午前中会社に来たときには
普通に指紋認証でスマートフォンのロックを解除していたようで。
もし犯行時に凶器の包丁で怪我をしたのなら、きっと凶器についた自分の血は拭き取っているでしょう。
アニメとかドラマで見た知識で。ただ怪我をした方(ほう)。
傷跡にその凶器の成分が残るということは知らないでしょうね。
なのであなたの親指を調べれば、凶器と同じ成分が検出されるはずですよ。
つまり。あなたは一度会社に顔を出し、外回りをしてくると言って
被害者、大林春奈さんの家に行き、警戒されないように普段通りのおもてなしを受け
相手が背中を見せた瞬間犯行に及んだ。そして外部犯の犯行に見せかけるためなのか
部屋を荒らし、財布からお札を抜き取り、財布を目につきやすいように
放り投げたのでしょうが、殺人という常軌を逸した行動をしたんです。
テーブルの上のティーカップを荒らすことにまで気が回らなかった。
あまりにも杜撰(ずさん)でお粗末な隠蔽工作だ。
ま、このマンションへの出入りは非常階段を使ったんでしょう。
エレベーター付近には防犯カメラがありますが、非常階段付近には防犯カメラはありませんでしたから」
と言うと隼人はニヤッっと口角を上げた。
「…あの女、浮気してるなら別れるって」
と呟く隼人。
「当たり前でしょ」
と言う愛希。
「それにあの女、浮気していた期間に費やした金記録してやがって
弁護士に相談してその分は払ってもらうだとかぬかしやがった…。
弁護士のことが会社知られたらどう思われるかわからねぇ…。
しかも金も払わないといけないだ?何度も説得に来た。
その度にクソまずい紅茶淹れやがって。もう取り付く暇もないってわかった。だから殺した」
「言質(げんち)取ったな?」
雄一がその場にいた他の警察に確認を取る。
「木村隼人さん。殺人事件の重要参考人として署までよろしいですね?」
「…はい」
精魂尽き果てたように元気なく雄一の後をついていく。
「取り付く島。です」
「…」
無言で愛希を振り返る隼人。
「取り付く”暇“ではなく取り付く“島”です。この事件と共に、一生忘れないでくださいね」
「…行きましょうか」
と雄一に言われて雄一に連れられてエレベーターへ行く隼人。
愛希の元に鑑識さんが寄ってきて
「あのぉ〜。さすがに消臭スプレーで足跡は取れないかと思いますし
傷跡から仮に凶器の成分が検出されたとしても
あの凶器がオーダーメイドとかじゃない限り、それで犯人だという証拠にはならないですよ」
と言う。
「はい。知ってます」
「え?」
「状況証拠は揃ってたけど、確定的な物的証拠がなかったので
状況証拠を並べ、犯人を追い込むことにより自白を引き出す。これが手っ取り早いかと」
「でも嘘はいけませんよ、嘘は」
「あぁ〜…。でも僕警察じゃないしぃ〜素人だしぃ〜。
嘘じゃないですよぉ〜。知識が間違ってただけです。ペロリーン」
と舌を出す愛希。愛希もマンションを出て帰ろうとした。
すると野次馬の中にやけに目に光がない男が立っていた。愛希はツカツカと寄っていき
「こんにちは」
と声をかけた。
「どうも」
と一言だけ返して背を向けてどこかへ行ってしまった。