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翌日。
オカルトサークルとの気まずい出会いを経ても、みことは変わらずすちのそばにいた。
「……すち、怒ってる?」
登校の道すがら、みことが遠慮がちに問いかけてきた。
「怒ってない。ただ……びっくりしただけ」
すちはみことに目を向ける。ふわりと揺れる髪、透き通るような光の輪郭。近くにいるのに、指先はすり抜ける。
それでも、確かにいると思える。
「俺が、ちゃんとお前のこと“見てる”って、それだけでよかったのに」
「でも……見えてたって人、いたよね?」
みことの声は、小さく震えていた。
「他にも……僕が見える人、いるのかな。なんで今になって、こんなふうに……」
その答えは、まだ誰にもわからなかった。
その日の午後、すちはオカルトサークルのある棟へと足を運んだ。
断るつもりだったのに、胸の奥にひっかかっていた。
――みことを「見える」と言った人間が、この世界に他にもいるかもしれない。
確かめなければならなかった。
「よお、来たか。座れよ、怖くねえって」
ソファでくつろいでいたいるまが、コーヒーを手渡してくる。受け取らずに立ったまま、すちは切り出した。
「ひとつだけ、答えて。……昨日、俺の後ろにいた“誰か”を、本当に見たのか?」
「見たさ。黄色の髪に、学生服。すげえ穏やかな顔してた。あれ、たぶん、……お前が言ってた“みこと”って奴だろ?」
息が止まった。
初めて――誰かの口から、みことの姿が確かに見えたと証明された。
「お前がどう思ってるかは知らねぇけどな。あの子はもう、あっち側の存在だ。ずっと一緒には……いられねぇんだよ」
「黙れ」
声が低く震えた。
「何があっち側だ。関係ない。――みことは、今ここにいる。俺のそばにいる。それだけで、充分だ」
「すち……」
後ろで、みことが切なげに呟いた。
その瞬間、部屋の空気がふっと静まる。
「……すち」
それまで黙っていた、らんがゆっくりと立ち上がった。
「君が言ってることは、俺たちにとっても痛いほどわかる。だけど、ひとつだけ覚えておいて。霊と人間は、時間が進むほどに“境界”が薄れていく。何かが起きる前に……準備をしておくのも、大切だよ」
「忠告、ありがとう。でも、俺は俺のやり方で守るので」
すちは言い切り、部屋を後にした。
その夜、みことと並んで歩く帰り道。
涼しい風が頬を撫でていく。
「……ねぇ、すち」
「ん?」
「俺ね、たぶん、あの人たちの言ってること、間違ってないと思う」
「……」
「でも、それでも……すちがそばにいてくれるなら、俺、怖くないよ」
すちは足を止めて、みことの顔を見つめた。
夜の街灯に照らされた透明な頬。触れられないけど、守りたいと思った。
「みことのこと、絶対に消えさせない。誰が何を言っても、俺が――俺だけは、そう言い切れるから」
みことの瞳が、ふわりと潤んだように見えた。
「ありがとう、すち」
声が震えていた。まるで、その言葉ひとつで命をもらったみたいに。