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同じ船の一人は人魚に食い千切られて死んだ。人の言葉全てを茶化して来る鼻につく奴だったが、誰よりも力仕事を率先して行うような妙に憎めない奴だった。

もう一人は激情に駆られて大湖の底へ沈んでいった。いつもウジウジしてる癖に正義感だけは一丁前で感情に流されやすい奴だったが、俺達はあの真っ直ぐな視線に何度も救われてきた。

誰かは鯨油に浸かって死んだ。原型すら分からない程希釈されたソイツは、きっと底なしに優しい奴だっただろう。

残りは鯨に呑み込まれて死んだらしい。途中で船を降りた俺にはそんな訃報しか知り得なかった。

…俺はアイツらとは違う。

この限りなく広い大湖に、あの恐ろしくて堪らない鯨に、頼りになる仲間たちに、

顕示欲に、名誉に、惰性に…縛られたままで、そんなアイツらが嫌になって逃げ出したんだ。


「………。」


嗅ぎ慣れた潮の匂いが鼻をくすぐる大湖に背を向け、堤防の階段を一段踏み出す。1ミリも揺らぎやしない陸地に気色悪い物足りなさを感じながらただ上がって行く。

…するとその2、3段上に佇むカモメに気付く。そのアホ面に付いているまん丸な瞳は揺らぐこと無く俺の背後をただ見つめていた。が、俺が軽く腕を払えばソイツはようやく気付いたといった風に翼を大きく広げ、しかし必要ないとでも言う様にその身を縮め、トテトテと走り去って行く。


“知ってる?カモメは自由の象徴なんだって。凄い素敵だよね。”


カモメの丸焼きに齧り付きながらそう話す船長に、それに大笑いする船員達を思い出してしまう。

…自由。

それならば。こうして化け物の這い回る大湖に背を向ける俺は、あの中の誰よりも自由なのだろう。

走り去るカモメに視線を向け直す気もなく、俺はもう一歩を踏み出した。




そもそも、何故俺は大湖へ向かったのだったか。21区の居住区で何もせずダラダラと過ごしていたあの日、何を思って大湖に身を捧げようなんて思ったのか。

…俺にだって手に職はあった。机に向かってその時々に対応した文字列を書く作業、それに俺の時間を捧げ続ける形だけの職。勿論俺の代わりなんて幾らでも居た。だから捨てられた。

…でも、不思議と執着は無かった

俺からして見れば、どいつもこいつも何かに縛られてる人形にしか見えなかったから

…そうして職を失って、他の何かを探す気にもなれず、主人公気取って夕焼けに染まる大湖を眺めていた。だだっ広いこの大湖は、ゴチャゴチャと人間の群れる巣と違い、自由そのものだったから。

その先に、たった一隻の船が現れた。

ちっぽけで、ボロボロで、惨めったらしいその姿に。それでも大湖を、俺には届かない自由の中で揺蕩うその姿に、何にも縛られない自由を見い出したんだ。だが、


…結局どいつもこいつも自由とは程遠い、何かに縛られた奴隷だった。

俺は違う。顕示欲でも名誉でも惰性でもない、自由を求めているんだ。


「俺は違う。」


あんな犬死にした奴らなんて知るか

俺は自由だ

俺だけが自由だ

…俺、が─────




目を覚ます。

揺れも波の音もしない空間に安心し切って眠ってしまった様で、窓からは朱色の優しい光が差し込み、既に一日を終えようとする時間な事を知らせてくる。


「…外、出るか。」


何もせずに密室にいるのが落ち着かなく、取り敢えず外へ出ることとした。

21区は漁業に観光業を主軸とした巣の為、他の巣と違いギラギラとした大衆受けの良さそうな装飾で溢れていた。

太陽の傾く良い時間帯だったのか巣の中は繁盛しており、そこら中のネオンライトが巣全体を照らしている。そこでは子連れの親がアイスクリーム屋の店主と何故か楽しそうに話していた。二人の会社員が何故か笑いながら愚痴を言い合っている。他にも沢山の人が、楽しそうに。

…どうして?

誰も、彼も、何かに縛られた奴隷の癖に。自由じゃない癖に。


「……俺は、お前らとは違う。」


そうだ。俺だけは


………俺だけが?




「………あ?」


何かをしていた気がする。何かをしなければいけなかった気もする。

だが気が付けば広大な大湖と、水平線に溶ける夕日を眺めていた。堤防の階段に腰掛け、漂う潮の香りが意識をハッキリとさせる。

そして、俺の腰掛ける数段下にカモメが居た。

俺の事なんて視界にも入れず、俺と同じように大湖を眺めていた。


“知ってる?カモメは自由の象徴なんだって。”


俺の前で背を向けるソイツは、相も変わらずアホ面をしていたのだろう。

……いや。

していたのだ。そうに決まっている。

コイツだって何かに縛られていて、その為だけにこんな巣の中で…

俺が以前のように軽く手を払う。それでもソイツは俺に反応すること無くただ佇んでいた。


「なあ。…おい、……おい!おいって!!」


更に手を振る。声を荒げる。…それでも

自分の存在を主張するかのように動かす体も、発する声も、ソイツの背中が全てを無かった事にする。

痺れを切らし、俺がソイツに手を伸ばした、その時。ソイツは小さな翼を大きく広げ、大湖へ…いや、その先に飛び立っていった。

大湖を…俺にとっての自由を跨ぎ、その身に備わる翼を精一杯広げ、水平線に沈む夕日へ羽ばたいていった。


何にも縛られない、その姿で、


自由に縛られたままの、俺を置いて。

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