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第六話 知り合いがいる君
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——違和感に気づく人間は、いつだって第三者だ。
そんな今の現実を逃避するように今の状況を頭のなかで纏めた。
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「えー、ちょっとすまん!」
体育教師の声が、教室に響いた。
「授業の日程、間違えた! 今日は隣のクラスと、合同で授業やるから!」
そう言って体育教師は嵐のように俺等のクラスを去っていった。
ざわつく空気。
(……珍しい)
スマイルはぼんやりと思う。
隣では、きりやんが「マジかー」と軽く笑っていた。
「まあ、たまにはいいよな」
「……そうだね」
特に困ることもない。
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体育館に移動すると、すでに隣のクラスの生徒たちがちらほら集まって知り合い同士で話し込んでいた。
「あ、きりやん!」
その中から、一人が手を振る。
片目を前髪で隠し、空のような澄んだ瞳を持つ——nakamuだった。
「おー、nakamu」
きりやんも手を上げて応じる。
「ちょうどよかったー、今一人なんだよね」
軽い足取りで近づいてくる。
「友達がさ、運動委員で急に準備行っちゃってさ。みんなの話入るのもなんか気まずかったから暇してたんだよね。」
笑いながら肩をすくめる。
「一緒にいていい?」
「全然いいよ」
きりやんはあっさり頷いた。
「……いいよ」
スマイルも特に拒否はしない。知らない人とはいえきりやんの知り合いだし、悪い人ではなさそうだったからだ。
「ありがと!」
nakamuはにっと明るく笑って、それからスマイルの方を見る。
「初めましてだよね?」
「……たぶん」
「俺、nakamu。きりやんの友達」
「……スマイル」
短い自己紹介。
「へえ、スマイルね」
nakamuは興味深そうに目を細めた。
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三人で、なんとなく雑談が始まる。
きりやんが中心になって話して、スマイルが短く返し、nakamuがそれを面白がる。nakamuとスマイルは初めましてだとは思えないほど、話が続いていた。
「へー、スマイルって結構ズバッと言うタイプ?」
「……普通」
「いや普通じゃないよ今の」
nakamuが笑う。
「おもろいね、スマイル」
——その瞬間。
ぴし、と。
空気が、ほんの一瞬だけ変わった。
(……ん?)
nakamuは、違和感に気づく。
さっきまで柔らかかったきりやんの雰囲気が、ほんのわずかに固くなった。
原因は多分この違和感だろう。
「……」
横目で見る。
きりやんは普通に笑っている。
でも、ほんの少しだけ。
“警戒してる顔”だった。
(あー……なるほどね)
そこで、理解する。
(そういう感じか)
口には出さない。
でも、口元がわずかに緩んだ。
nakamuはこの一瞬でなんとなく理解した。きりやんの感情を。
――――――――――――――――――――――
そのとき。
あっ、とnakamuが言葉を漏らす。
「おーい!」
体育館の端から、nakamuの声が飛ぶ。
nakamuの声に気づいた人物は振り向く。
その人物は手を振りながらこちらへ駆けてくる。
「お、終わったっぽい」
nakamuが大きく手を振り返す。
「きんときー!」
すると。
「……え」
隣で、小さく声が漏れた。
スマイルだった。
「……きんとき?」
目をわずかに見開いている。
そして。
向こうのきんときと呼ばれた人物も、足を止めた。
「……え?」
同じように目を大きく見開いた顔。
向こうもスマイルに気づいたらしい。
「スマイル!?」
そう大きな声で言った。
次の瞬間、一直線に駆け寄ってくる。
「スマイルだよね!? 久しぶり!!」
テンションが明らかに跳ね上がっている。
「……きんとき」
スマイルも、わずかに声のトーンが上がる。
「久しぶり」
表情は大きく変わらない。
でも、確かに嬉しそうだった。
(……へえ)
nakamuは横で観察する。
——その横で。
(は?)
きりやんは、固まっていた。
(なにこれ)
きんときはスマイルの肩を掴み興奮したように話している。しかもスマイルは満更でもなさそうな顔をして。
距離が、近い。
明らかに、近い。
(なんでそんな距離で話してんの??)
さっきまでの自分の距離詰め作戦が、全部バカらしくなるレベルで近い。
(しかもめっちゃ楽しそうじゃん……)
胸の奥が、もやっとする。
(……なんだこれ)
わかっている。
(嫉妬だろ、これ……)
認めたくないが、事実だった。
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「懐かしいなー! 全然変わってないじゃん!」
黒髪ストレートに深海のような蒼い瞳。そして、特徴的な涙ボクロを持った人物―――――きんときは笑いながら言う。
「……そっちも」
スマイルが短く返す。
他人から見ればいつも通りのテンションだが、知っている人から見れば態度が全く違うことなど一瞬で分かるほどスマイルも興奮していた。
「てかさ、スマイルその格好寒くない?」
ひとしきり話し込んだあと、きんときが気づいたように言った。
「……ちょっと」
スマイルの腕を見る。
半袖の体操服。
「上着、忘れた」
最悪だ、という表情をスマイルができるだけの表情筋を動かして表していた。
「マジか」
きんときは迷わず、自分のウィンドブレーカーを脱いだ。
「はい、着てていいよ」
そう言って、スマイルの手にポン、と置く
「……いいの」
「俺、暑いし」
パタパタと手で顔を扇ぐ仕草をする。
「……ありがとう」
自然な流れで、受け取る。
何も特に言わず袖を通すスマイル。
(……は???)
きりやんの思考が停止する。
(いやいやいやいや)
さっきまで、自分の中で“作戦”として考えてたことを。
(なんであいつ、全部自然にやってんの???)
距離を詰める。
気遣いをする。
さらっと上着貸す。
(完璧か???)
しかも。
(俺も気づいてたのに……!)
寒そうだなとは思っていた。
でも、どう声をかけるか、どう行動するか、タイミングを考えていた。
——その間に、全部持っていかれた。
(負けた……)
完全敗北。
何度目かわからない事実を頭のなかで反芻して事実を受け止めようとした。
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一方。
(……あーこれ)
nakamuは、なんとなくではなく完全に理解していた。
きりやんのきんときへ向けられる視線。
きんときへの妙な対抗心。
スマイルへの微妙な距離感。
(めっちゃわかりやすいじゃん)
本人は隠してるつもりかもしれないが、全然隠れていない。
そして何より。
(スマイル、気づいてなさすぎだろ)
これはひどい。
ここまで来ると、もはや芸術。
そして。
そんな状況に振り回されているきりやんが——
(……おもろ)
普通に面白い。
口元が、にやけるのを抑えられない。
「ねえ、きりやん」
ぽん、と肩を叩く。
「……なに」
少し低い声。
だいたい何を思っているのか考えがついて―――
「大変だね」
――その一言を言った。
「は?」
「いろいろ」
意味深に笑う。
「……なんのことだよ」
「いやー? なんでも?」
完全に気づいている顔。
きりやんは一瞬だけ黙って、それから視線を逸らした。
(……バレてるなこれ)
嫌な予感がする。
そして。
(こいつ、絶対面白がるタイプだ……)
確信する。
——この日。
きりやんの恋は。
“スマイルに気づかれていない状態”のまま。
第三者に完全にバレた。
しかも、一番厄介そうなやつに。
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補足
スマイルときんときの関係は幼稚園の頃からの幼馴染です。 きんときは転勤族でスマイルときんときが小学4年生のときに引っ越してしまったのですが、この場で奇跡の再会をしたので二人は喜んでいます。(このことをきりやんはまだ知らない)
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あま