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招待席にいる会社関係者の中には、笑顔を見せている者さえいたのだが、彼らの余裕も時間が経つにつれて薄くなった。肝心の米子氏が、定刻間際になっても現れないのだ。下級生からは、きっと怖くなって逃げたんですよという声が上がってくる。ああいう人達は会社の予定とか適当なことあとでいえそうですねと言う声も上がる。この舞台裏でそんな話がでている、ということは、表にいる反帝国主義家、ロックンロール復権連合、芸電反同盟の勢いがどんななのかは、想像できる。
予定の時間に十分過ぎても、社長はまだ現れない。道路が混雑していて、こちらへ只今向かっているらしいが、実際のところは卓もよくわかってないようだ。司会の英治は夏のサークル合宿で行った飛騨の山奥でもミューズ社のBGMが流れていたエピソードをだらだらと話してきたが、それも限界に来ていた。
三十分が過ぎた。社長とはまだ連絡が取れないという。
そろそろ、このまま米子氏が現れなかった場合も考える必要がある。幹部はこの混乱を、どうおさめるつもりだろう。
四十分が過ぎた。バックバンドと俺は、とりあえずステージに出ていてくれということになった。
「もうすぐ到着の予定です。もうしばらくだけお待ちください」英治は、もうすぐ、もうすぐをここまでに使い過ぎた。客席から怒号が響く。
こういう状況だから、俺の方には余裕がある。確認済みのサウンドエフェクターだったが、データを、ステージ上でもう一度確認してみる。ここは音の跳ね返りがいいため、反響音を電気的に増幅するリバーブ量は少なめにしていたのだが、昨日とは人の数が違う。
ピックで軽く弦を擦ってみると、湿度の関係で反響が甘い。リバーブを少し上げた。ディストーションは音の伸びにも影響する。しかし、強すぎると音が拡散してしまい、バッキングの音ににじんでしまって存在感がなくなる。強すぎずのセッティングは昨日のままでいいだろう。でも、もう少しヌケのよい音圧をつくりたいな。イコライザーの中音域をすこしだけ削ろう。コーラスは音が磨かれて奥行きが出るけれど、入れすぎると上品になりすぎてしまう。
「もうすぐ、もうすぐって、おいオメエら、なめてんじゃねえぞ」
「待ってる間、コントでもやれよ」
「幹事長出せよ」
客席の声が大きくなる。