昔耀さんを傷つけた事を夢で再確認させられた菊が耀さんに慰めてもらう話。
CPではなく、耀と菊って感じで書きました。
⚠史実
その日はいつもより暑かった。
森には緑が広がっていて、地面は赤色に染まっている。
戦争は何回も何十回も出陣した。慣れのようなものだ。なんてことなかったはずだった。
でも、この日は私の頭をから離れようとはしなかった。
目の前には、昔お世話になった中国さんが膝をついていた。
背には大きな刀傷。私の刀も血で染まっていた。
「き、く……」
泣きながら私を見るその目を今でも覚えている。離れてくれない。離そうとしてくれない。私に責任逃れを許さないと言うように、私の頭は私に敵対した。
「なん……で……」
そんなか細い声は大砲音に吸い込まれていった。
「っ、は、!」
目覚めた場所は中国さんの家だった。布団は濡れていた。私の汗なのか涙なのかは分からない。恐らく両方だろう。下を向くと鼻先から汗が滴り落ちた。魘されていたんだ。随分リアルな夢だったから。
隣に寝ている耀さんの方を向く。それと同時にさっきの夢が頭をフラッシュバックした。頭が痛い。怖い。嫌だ。気持ち悪い。最低だ。嫌だ嫌だ嫌だ、
残酷なものだ。戦争のためなら親族同様の人も傷つけてしまった過去の自分に嫌気が差す。あの頃はなんとも思わなかった出来事でも、今思い返したら吐き気を催すに値する記憶になっていた。
「あ、やおさ…やおさん…、!」
「ごめなさ、ごめんなさいごめんなさい、」
「………ん、ぇ…菊、!?どうしたあるか、こっち来るよろし、……」
「すいません、私…あ、私……」
「大丈夫あるよ、怖い夢でも見たあるか?ほら、にーにがそばにいるね」
彼は私の背中を擦ってくれた。子供を泣き止ませるかのように、優しく抱きしめて。
相手からしたらいい迷惑だろう。自業自得の私を気遣わなければいけないのだから。
「耀さん、耀さん…ごめんなさい…、」
「……大丈夫あるよ。菊。大丈夫ある。我怒ってないあるよ」
同じ記憶なだけあって、彼は私に敏感だった。やろうとした事はいつの間にか終わらせてくれていたし、好みも把握している。なにより、傷ついた時には、誰よりも早く察して慰めてくれた。
「ほら、ぎゅってするよろし」
「ゃぉ…さん、……」
言われた通りに彼を抱き返した。腕を背中に回すと、尚更頭が痛くなる。晩御飯が出てきてしまいそうだった。
「ほら、我ちゃんと生きてるあるよ。心配すんなある。お前にやられるようなタマじゃないね」
「やおさん…私……取り返しの……つかないことを……、」
「そんな昔のことなんて気にしてねぇある」
「ごめっ、なさい…ごめんなさい……」
「大丈夫ね。おめぇせいじゃねぇあるよ」
いつの間にか涙が溢れかえっていた。嬉しさより後悔したことに涙を流したのだ。言わせてしまった。耀さんは、私みたいに偽善ではなく、根っから優しい人だから。過去のことなど気にせず許してくれるに決まっていた。
あんな酷いことをしたし、あんな過去があったし。と悲劇のヒロインぶっている私の中で、実は耀さんなら許してくれるかも。と思っていた自分がいたんだ。昔も、今も。
責任から逃げたくて、耀さんから嫌われたくなくて、自分の為に謝罪した。
最低だ。自分からは歩み寄らないくせに許しだけは求めている。自分で自分を殺したくなった。
私が死んだところで、耀さんの傷は癒えることはないのに。
「我は昔も今も、菊のこと大好きあるよ」
頭が真っ白になって、血の気も冷えて。懐かしい感覚だった。いつだったっけ………あぁ…これ、戦後に耀さんと会ったときの。
私はずっと、過去に縛られたままだ。
「やお…さん…」
「ん、どうしたあるか?」
「ぎゅうしてください……」
「もうしてるあるよ?」
「もっとです…」
「哈哈、しょうがねぇ弟あるな」
きっと、私が克服するのはだいぶ先の事でしょう。なら、今この時だけでも。
「……ありがとうございます、」
「特別あるよ?」
耀さんはいつもみたいに優しい笑顔を私に向ける。
真夜中の部屋には2つの心音だけがあった。
コメント
2件
この2人可愛いですねぇ…心が洗浄されるって言うか〜…癒し…