「はい、みんな今から自由行動だから、時間までに必ずここに戻ってくるように」
生徒達が、一斉に散らばっていく。
この修学旅行が、中学3年間の最高の思い出になるように祈るばかりだ。
長野県からの行先、僕は……このテーマパークを推薦した。
しっかり話し合い議論を重ねた結果、他の先生達も賛成大多数で、今年はここに決まった。
そう、僕の忘れられない場所。
受験を考え、うちの学校では毎年春に修学旅行に行く。
ちょうど、雫さんと2人で来た時と同じ季節。
爽やかな風が優しく頬を撫でる、4月。
僕はみんなの行動を見守りながら、テーマパーク内を歩いていた。
あちこちで見かける生徒達は、みんな嬉しそうにはしゃいでいる。
ずっとこの日を楽しみにしていたんだから当たり前だろう。
今、僕は小学校から中学校に移ったばかりで、副担任として化学を教えている。
東英大ではかなり頑張って、小学校、中学校両方の教員免許を取っていた。
光平も同じで、今思えば2人で遅くまで勉強したりして、本当に頑張ったと思う。
あいつも地元に戻って中学校の先生になっているけど、1年前にできた彼女とはまだ結婚していないらしい。
光平から聞いたけど、亜美は……
企業に就職した後、すぐにそこの社長に見初められて結婚したそうだ。
ちょっと……ホッとしたし、嬉しかった。
とにかく今は、中学校での授業をみんなにどうしたら興味を持ってもらえるか、毎日、試行錯誤しながら頭をフル回転させている。
新たな境地で大変だけど、結構やり甲斐があるんだ。
僕の実家の近く、新しく建てた家に帰れば……
そこに、妻と、子どもが1人いる。
まだ2歳の女の子だ。
自分の子って……とても可愛いもんだなと思う。
僕は、29歳で夫になり、32歳で父になった。
本当は、結婚する気はなかったけど……少しだけ年上の同僚の先生から告白され、同時にプロポーズもされてしまって。
全て話して「自分にはずっと忘れられない人がいるから」と何度も断った。
なのに、「そんなことは気にしないから。その人を想ったままでいいから一緒にいてほしい」って言われて……
諦めないその熱意に打たれて、いつしか付き合うようになった。
正直、雫さんを消すことなんてできなかったけど、それでも、だんだんとその彼女のことを大切にしたいと思えるようになったんだ。
そして……ようやく結婚を決めた。
今、34歳の僕は、少しだけ……大人になった。
「希良先生!! 写真撮って下さい!」
あちこちで声をかけられ、女子生徒達と写真を撮る。
自分では言いにくいけど、中学校に来て、女子生徒の間で僕のファンクラブができているらしい。
「先生~俺達とも撮ってよ!」
男子からも言われて、僕はどっちかと言えばそっちの方が嬉しかった。
でも、生徒は全員、1人も残らず僕の大切な教え子だと思って平等に接することにしてる。
というか、それは自然にできてると思う。
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