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それから、花斗の「あれは? あれは?」攻撃に遭いながら、会場をひと周り。
そのまま昼時になり、ラウンジで昼食を取った。
すると、花斗はテンションが上がりすぎ振り切れてしまったらしい。
花斗ご所望の屋内デッキへ向かう途中、壱月に抱っこされたまま、花斗はすやすやと夢の中へ行ってしまった。
仕方がないので、寝てしまった花斗を連れ、そのまま屋内デッキへやってきた。
ここへ来たのは、壱月とぶつかって以来だ。
私はそれほど経っていないにもかかわらず懐かしさを感じながら、壱月と並んで〝花斗の特等席〟に腰掛ける。
久しぶりに、目の前に大きな飛行機の頭が見えた。
「ふう。寝てしまうと、結構重いな……」
苦笑いを浮かべながら、壱月は言う。
「ごめんね。車だし、ベビーカーいらないと思って」
「いや、いいよ。これも愛の重さだ」
そう言って、壱月は前に停まった飛行機に視線を向ける。
その瞳は、心なしかキラキラしているように見えた。
「……好き?」
すると、壱月がきょとんとこちらを見る。
「飛行機。やっぱり、好きなのかなぁって」
「好きというか……〝相棒〟だな」
壱月は窓の外に視線を向けたまま、ふわりと微笑む。
「一緒に空を飛ぶ相棒。仕事仲間。だから、体調確認も大事。特に、飛ぶ前は」
そう言う壱月の瞳が、一瞬、切なげに揺れた気がした。
それで、袴田さんの言葉を思い出す。
『抜かりない安全面への配慮。これは社内イチで、僕も尊敬してるんですよ。まあ、ご両親があんなことになったらそうなりますよね……』
その真相を、知りたい。
壱月のご両親の死は、私との再会のすぐ後だったと、前に聞いたから。
もしそれに、飛行機が絡んでいるのなら。
「ねえ、壱月……」
「なに?」
「……ご両親のこと、聞いてもいい?」
私と会えなくなるほどの、なにか。
私と連絡を絶ってしまったほどの、なにか。
それは、いったいなんだったのか、知りたい。
「あー……」
壱月はふうと息をつき、それから曖昧な笑みを外の飛行機に向けた。
「あの日、うちの親は北海道に行くところだった。で、その飛行機が――」
壱月はそのまま、淡々と話してれた。
ご両親の乗った飛行機が異常を知らせて、飛び立ってからすぐ戻ってきたこと。すると、温度の上がった機内のタービンから出火し、燃料タンクに引火した炎が爆発事故を起こしたこと。
翼のすぐ隣に乗っていた、壱月のご両親だけが、その事故で亡くなったそうだ。壱月の母親は足が悪く、すぐに避難することができなかったらしい。
「ターボエンジンのファンの中に残された、たった一本のボルト。些細な人為的ミスで、死人がでたんだ。……それだけじゃないとは思う。俺の親、すんげえお人好しだからさ」
壱月は自嘲するように、少し鼻を鳴らした。
「俺が渡した、プレゼントだったんだ、北海道旅行。親の死は、俺のせいじゃない。それはわかってるのに、なかなか折り合い付けられなくて。怖くなってさ、パイロット辞めようか悩んだ」
「え……」
壱月は一度、深いため息をこぼす。
もう、顔は笑っていなかった。
「副操縦士として、俺だったらどうしていたか。あの日のことは、今でも考えるんだ。それからの日々は、安全に安心して空を飛べるように、徹底して動いた。そうしたら、いつの間にか機長になってた。……なんてな」
言葉の最後に壱月は悲しい顔のまま笑ってこちらを振り向く。
その顔に胸がキュウっとなって、私は思わず顔を伏せた。
壱月のパイロットとしての想い、責任。
空への憧れと、恐怖。
色々なことが頭に雪崩れ込んできて、ぐちゃぐちゃになっていく。
私が花斗を身籠ったあの時、壱月は壱月で、精一杯生きてたんだ。
――そして、それは今も。
「まあ、そんなこんなで大事なものを手放してるんだから、どうしようもないよな。本当、情けない。ごめん」
「ううん。……私も、ごめん」
私は言いながら、つい顔を伏せた。
自分のことばかりでごめん。
自分だけ可愛くてごめん。
自分だけ可哀想でごめん。
私だけじゃなかった。
苦しかったんだ、壱月も。
「それは、なにに対して? 愛音は、悪いことしてないだろう」
壱月は言いながら、俯いたままの私の髪をくしゃっと撫でる。
だから私は少しだけ顔を上げて、大空から帰ってきたばかりの目の前の飛行機に、視線を移した。
コメント
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壱月の両親の事故の真相が明かされ、彼のパイロットとしての原点が描かれた回でしたね。自分のせいではないと分かっていながらも折り合いをつけられず、それでも空への責任を全うしてきた——その複雑な心情が、飛行機を「相棒」と呼ぶ横顔にじわりと滲んでいて、胸が詰まりました。愛音が「自分だけ可哀想でごめん」と伏せるシーンもまた、お互いの苦しみを初めて重ね合わせた大切な瞬間だと感じます。ふたりだからこそ分かち合えるものが、確かに増えていっているのが美しいです。