テラーノベル
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ファミリーフェスタから帰宅し、今はもう寝る前だ。
風呂上がりに恒例のように大窓にべったりくっついた花斗を尻目に、私はスマホをチェックしていた。
【同期飲み、今回は参加できますか?】
壮馬から、そうメッセージが届いていた。
この飲み会は、定期的に開かれている近隣店舗および本社の同期の飲み会だ。
私は花斗がいるから遅くまでいられないということもあり、参加しないのが定例だが。
「行くのか?」
いつの間にか背後にいたらしい壱月に声をかけられ、ピクリと肩が動いた。
「悪い、画面が見えたんだ」
どうやら、壱月の目に〝飲み会〟の文字が見えたらしい。
「まさか、行かないよ」
振り向き笑顔で答えると、思いの外真面目な顔で「どうして?」と返される。
「花斗がいるからね。仕事復帰しても、こればっかりは仕方ない」
言いながら笑顔が崩れそうになり、私は慌てて口角を引き上げた。
――仕方ない。
母親になる決意をしたあの日、どうしても切り捨てなきゃいけないことのひとつに、人付き合いがあった。
花斗優先の毎日。
でも、親だから仕方ない。
それに、同期との飲み会にいけないくらい、なんでもない。
職場には優秀(?)な水瀬がいるし、スタッフたちもいる。
私はひとりじゃないから、大丈夫だ。
「そう……これ、いつ?」
壱月は自分のスマホを操作しながら聞いてきた。
「三日後。毎月恒例なんだよね。まあ、壮馬もとりあえず連絡くれてるだけで、私が来るなんて思ってないみたいだけど」
ふふっと自嘲気味に笑っていると、壱月に「壮馬って誰?」と聞かれて「一番仲いい同期」と答えた。
壱月は「ふうん」と言いながら、顎を触ってしばらく考え込んだ後、言った。
「行ってみたらどうだ?」
「え?」
顔を上げると、壱月は優しく微笑んでいた。
「三日後だろう? 俺、ブリスベンから帰ってくるの昼過ぎだし、花斗のことは任せてもらってかまわない」
「いや、でも……っていうか、ブリスベンって」
「オーストラリア。流石に知ってるか。明日のフライト、そこだから」
「ああ、うん……」
心配しているのは、そこじゃない。
流石に、壱月に花斗のお迎えに行かせるわけにはいかない。
それに、お風呂も寝かしつけも、壱月に頼るわけにはいかない。
なにより、飛行機を飛ばすなんて神経をすり減らすような仕事をした後だ。
壱月なら、尚更。
そんな仕事の後に、ひとりで花斗のことなんて……。
「ムダな心配してるだろう」
壱月は私の眉間を優しく小突いた。どうやら、皺が寄っていたらしい。
「ヨーロッパほど、時間はかからない。アメリカほど時差もない。この先三日、天気も良好。問題なく戻れると思うけど」
壱月はそう言いながら、私の右肩をポンと叩いた。
「行ってないなら、なおさら行くべきだ。同期なんだろう?」
「でも……」
「俺がパイロットを辞めようと思ったときに止めてくれたのは、同期だった。同期って、大事だと思う」
壱月の言葉に、私は目をスマホに戻した。
壱月の言う通りかもしれない。
私が出産後現場に戻れたのは、同期の働きかけのおかげだ。壮馬に至っては、本社への異動すら手引きしてくれようとした。
しばらく悩んでから壱月を見上げると、彼は〝大丈夫だ〟と言うように、優しく微笑んでくれる。
「うん。……じゃあ、そうさせてもらおうかな」
それで私は、壮馬に飲み会参加の旨のメッセージを送った。
【参加するの!?】
当然参加しないものだと思われていたらしい。壮馬から、すぐさまそんな返信が来る。
それで、私はくすりと笑ってしまった。
コメント
1件
うわあ、この回じんわり沁みたなあ……。壱月が「同期って大事だと思う」って自分の経験から励ますところ、すごく優しくてグッときた。主人公が「仕方ない」って笑顔を作るところも、母としての責任を感じてるのが伝わってきて切なかった。壱月のサポートがあって、久しぶりに自分の時間を持てそうなのが嬉しいよね。最後の壮馬の「参加するの!?」って返信も、ちょっとほっこりした🌙 朝永ゆうりさんの作品、いつも人の心の機微が丁寧で好きです。