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小鳥遊
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す
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「う~む」
白髪の混じった、グレーの短髪の筋肉質の
アラフォーの男が―――
書類を片手にうなる。
ウィンベル王国王都・フォルロワ……
そこの冒険者ギルド本部にて、
『人面樹』に対する新たな実験を
行っていたのだが、
「どうですか?」
私が『人面樹』の魔力感知の能力を無効化させ、
近付いたところ―――
その実は何も反応しないまま私の接近を許し、
触ったところでようやく声を上げた。
この事で、
『魔力感知以外は直接触られでも
しない限り、反応しないのではないか』
という仮説が立てられたのだが、
「やっぱり音にも反応するみたいだねー」
「ほんの少し物音を立てただけでも、
気付かれるぞ」
童顔の妻と、対照的にモデルのような目鼻立ちの
妻がそう語る。
私の後、メルとアルテリーゼも加わり、
『見えない部隊』メンバーも実験を行って
みたところ、
音、もしくは足元の振動にも敏感に反応する
事が判明。
「つまり……
魔力にも反応するが、魔力以外―――
特に音や地形の揺れに対する感度が高いと
いう事か」
ライさんがそう結論付ける。
「目だって完全に見えてないっぽいんだけど。
模様だとはわかっているんだけどね」
黒髪ショートに紅い瞳の娘・ラッチが、
片手で実を持ってその前で片手をひらひら
させる。
ちなみに魔力による感知を元に戻したところ、
比べ物にならないくらいの反応を見せ、
どうも魔力感知は元より、音や振動に対する
反応も強化されるらしい。
「こいつは使える」
『人面樹』の実を手に持って、まじまじと
顔を見合わせるように本部長は見つめる。
「そうですね。
訓練にはもってこいですし」
そう私が話を合わせると、
「それもあるが、警備がより厳重になる。
今の警備用の魔導具は魔力にしか反応
しないが……
これはさらに音や振動、感触まで
見逃さないんだ。
重要拠点や主要施設の警備に持ってこいだぜ」
『見えない部隊』の総司令を務めるだけあって、
その有用性、そして使い道にまで言及し、
「よーしお前ら。
次の訓練からこれを取り入れるぞ。
いくら魔力封じの腕輪で警備の魔導具を
すり抜ける事は出来ても―――
人間の目や耳はごまかせねぇんだ。
だがコイツを突破出来るようになれば、
少なくとも夜間は無敵になる!」
今でも、『見えない部隊』として国内外で
暗躍している彼らだが……
それが出来れば、隠密性は相当上がるだろう。
「何かウチら、どんどんタチが悪くなって
いきますねえ」
「現状でも正体がバレた事は無いし、
敵対した連中、裏で俺らが動いていた事すら
知らないでしょうに」
『見えない部隊』メンバーが口々に苦笑しながら
語ると、
「だから、もっとよりタチが悪くなろうぜって
話だ。
ま、どんなにタチが悪くなっても―――
シン以上にはならないだろうから安心しろ」
「ちょっ!?」
いきなり話を自分に振られて戸惑うが、
「まーそうだよね」
「どんな頑張ってもシンには敵うまいて」
「おとーさんの場合、その気になれば
真正面から潰せるもんねー」
と、妻たちや娘もなぜか向こうに同調し、
味方がいない事に少々複雑になるも、
そんな私の表情を察したのかライさんが、
「いやだってよぉ、お前さんがどこかの建物に
立てこもったとするだろ?
自分の周囲だけのぞいて、建物全体を
魔力無効化なんてされてみろ。
手が付けられないなんてものじゃねーぞ。
しかもその条件は、自分で好き勝手に
切ったり有効化したり出来るってんだから」
確かにその気になれば、ワンサイド・ゲームを
実行出来るからなあ。
私のそばにメルとアルテリーゼを配置して、
無効化のオンオフの切り替えをすれば、
敵が付けこむスキはせいぜい、相手から見ても
いつ解除したかわからない、こちらからの攻撃
タイミングのみ。
もし本当にゲームならクソゲー過ぎて、
後で弱体化調整入りまくりだろう。
「まーまー、シン。
そんな顔しないで」
「そんな力がありながら自制しておる。
だからこそ我らも惚れたのだからな」
「わー、ノロケたー♪」
そう家族にからかうように言われるが、
まんざらでもなく……
私が苦笑で返すと、本部長や『見えない部隊』の
メンバーも、生暖かい笑顔になった。
「つまり警備用に使えるってワケか」
アラフィフの筋肉質の男性が―――
『人面樹』の実をつまんで語る。
翌日、公都『ヤマト』に戻ってきた私は、
冒険者ギルド支部に情報共有のために
やって来ていた。
「そういう使い道があるんスか」
「でも確かに、児童預かり所やガッコウに
欲しいかも?」
短い黒髪に、褐色肌で長身の青年と、
その妻であるライトグリーンのショートヘアに
丸眼鏡の女性がその実に視線を向ける。
それに対し私は片手を立てて水平に振り、
「あ、それは難しいかと。
今のところこの実は極秘事項になって
いまして……
王家の宝物庫や、王宮の奥深くにしか
使われない予定だそうです」
「まあ、それも仕方ねぇか。
現状の警備用の魔導具以上の性能―――
魔力を遮断しても反応しやがるんだろ?
そうおいそれと公表は出来ないよなあ」
ギルド支部長であるジャンさんが実を
ポンポンと、片手で何度か放り投げ、
そしてキャッチするのを繰り返していると、
「そういや、シンさんが魔力無効化させても
反応するって言ったッスよね?」
「普通の魔物でも、視覚や音に反応しますけど、
魔力が無くてもというのは厄介ですね……」
次期ギルド長夫婦である―――
レイド君とミリアさんがしみじみと語る。
「ていうかよ、ただの実なんだろうが……
これ、いつまで生きているんだ?」
ギルド長の言葉に私は首を左右に振り、
「そこまではまだわかっていないようです。
ただ、木からもいでも少なくとも3日以上は
生きている事が確認されていますし、
通常の植物なら、5日から10日くらいは
持つのでは、という話でした」
収穫、と言っていいのかどうかわからないけど、
みかんとかリンゴとかと同じに考えるのなら、
長持ちはしないけどそこそこは持つだろう。
「土精霊様は?
何て言ってたッスか?」
次期ギルド長の青年がそう質問してくると、
その妻がすかさずチョップを彼にかまし―――
「あたっ!」
「土精霊様なら、
メーロー(メロン)やヒルク(コーヒー)、
バサキャ(キャッサバ)を王国内の各地の
農場で栽培するために、遠出しているでしょ!
この公都もギルドの登録人数が増加して、
公都長代理との関係も深くなっているん
だから、主要な人物の出入りくらい把握して
おきなさい」
レイド君がミリアさんに怒られ、しゅんとなる。
ていうかそれで土精霊様、今公都にいないのか。
「……ちょい待ち。
極秘ってんなら、コレどうするんだ?」
『人面樹』の実をつまんでいたジャンさんが、
それをこちらに向けて来て、
「食べる、とか―――」
「いや誰がッスか!?」
「アタシは全力で拒否します!!」
私の提案に若い夫婦が即座に否定し、
「それに極秘ってんなら、この公都でも
パック夫妻が栽培しようとしていたよな?
アレはどうなる?」
(■342話
はじめての きじんぞくのしょこ参照)
続けてのジャンさんの質問に、
「あー……
それは諦めてもらうしか無いかも。
その代わりコレの処分も兼ねて、
それを伝えに行きましょう」
それから、私は冒険者ギルド支部を後にし、
その足でパック夫妻の屋敷兼研究施設兼病院に
向かったのだが、
パックさんもシャンタルさんもレムちゃんも、
私の説明に不満タラタラではあったものの、
『では、提携を持ち掛けてみては?』
という私の提案にいったん納得し、
さらに、『これで他の研究の時間が出来たと
思えば』という私の言葉に同意してくれて、
一応は事無きを得たのであった―――
「……結果は?」
「いくつかの水源を確認しやした。
山の上流、もしくは泉が主なようです。
渡された地図と比較もしましたが―――
ズレているとか、そういうものでは
ありやせんでしたね。
かなり適当に作られていたんじゃ
ねえですか」
アングア大陸・ルガシオン公国……
単眼族の自治区。
そこのとある町の一角にある屋敷で、
20代後半くらいの、中性的な顔立ちをした
赤いミドルショートの髪の人物が、
いかにもなチンピラ風の男を前に報告を
受けていた。
「……全部で六ヶ所ですか。
周囲に人家や、何者かが暮らしていたような
場所は?」
「そんなものはどこもありやせんでしたね。
あそこじゃ単眼族より動物や獣の方が
多いでしょう。
おかげで町に戻ってきた時、部下がちょっと
暴れて大変でしたぜ」
その言葉にバンディーニはピクリと眉を動かす。
「一切の騒動は起こすなと……
そう伝えてあったはずですが?」
「い、いやでも―――
相手は単眼族ですよ?
俺ら『光聖勇者隊』のストレス解消に、
多少は付き合わせても問題は無いでしょう」
言い訳のように彼は言葉を繋げるが、
「……まあ、いいでしょう。
ちょっとギムリを呼んでもらえますか?
あ、出来ればついでに今回の調査に同行した、
あなたの部下も呼んでください。
少し打ち合わせする事がありますので……」
「へ、へいっ!
わかりやした」
男はそそくさと退室し―――
やがて指示通りの人員を連れて戻ってきた。
「バンディーニ様。
お呼びとの事でしたが」
全身をローブのような着物で覆った、
男女とも区別のつかない人物が問うと、
「今後の計画……
その事について彼らとも、情報を共有しておく
べきだと思いまして……」
「はあ―――」
少し気の抜けたような返事をするギムリ。
それには、『どうしてこのような者たちと?』
という疑問も含まれていて、
「水源を押さえて何をしようってんです?」
「川の水を単眼族が使っているなんて、
聞いた事はありやせんけど」
この世界は水魔法で水を用意するのが
主流であり、自然の水を利用するという
発想が薄い。
せいぜいが交通手段、もしくは攻撃魔法の
使い手が魚を獲るくらいで、それ以外で
川に近付く者は皆無と言えた。
するとバンディーニはコトン、と透明なビンを
テーブルの上に置いて、
「……これには、とある虫が入っています。
次々と別の生物に寄生する類の虫でして。
まあ最悪、水さえあればどこにでも
移動するのが特徴です……
お風呂でも、草についている露でも、
それこそどこにでも……」
それを聞いた報告者とその部下の男たちは、
そのビンに注目する。
「何も見えやせんが―――」
「非常に小さいですからね……
ただこの虫は、いったん体に入り込むと、
取り出すのは不可能なのです……
血液の中に入り込み、体中を巡る……
そして入り込まれた生き物はゆっくりと
死に至る……
治療薬は無く、治癒魔法でも治療は
困難と言われています……」
その説明に彼ら、『光聖勇者隊』は
顔を見合わせる。
「治癒魔法でもダメって―――」
「そんな事があり得るんですかい?」
連中が首を傾げていると、
「……ところで、この町に戻って来た時に
単眼族と揉めたと聞いておりますが。
何があったのですか……?」
バンディーニが不意に話の方向を変えると、
「あ、いや、まあ―――」
「山やら森やらで水源を探し回っていて、
ちょっと疲れるのと同時にイライラして
いたんで」
「その、ちょうどどこにいた単眼族の
やつらが目に入ったんでね。
それで因縁つけて」
完全にアウトロー、チンピラ思考のそれに
ギムリもため息をついて、
「バンディーニ様に、くれぐれも揉め事は
起こすなと言われていたはずでは?」
「ま、まあそりゃそうですが。
でも相手は亜人でしょう?
そんなに目くじら立てなくても」
彼らのリーダーらしき報告者は、
頭をかきながらペコペコと謝罪するも、
「……ギムリ」
「はっ」
2人のやりとりがあったかと思うと、
突然、室内の空気が重くなり、
「うぐっ!?」
「はぐぅ!?」
「うえぇっ!?」
と、彼らは胸を押さえてうずくまる。
「な、何、を……?」
リーダーの報告者は2人を見上げるが、
「……殺気を放っただけですよ。
『倍化』を使っていますけどね。
怒っているんですよ、今回の件で」
ギムリの後にバンディーニが、
「ちなみに、治癒魔法をかけても同じ効果が
得られますよ……
身の危険を感じると、どうも一気に心臓
めがけて集まるみたいなんですよね……
この子たちは」
その言葉に『光聖勇者隊』の連中は青ざめて、
「ま、まさか俺たちにその虫を!?」
「な、何で―――」
そこでバンディーニが片手を上げると、
ギムリはうなずいて、
「ぶはっ!!」
「うおっt!?」
「はぁあ……っ!!」
そこでやっと、彼らは解放されたように
呼吸を荒くする。
「どうして、って……?
こうでもしないと頭の悪いあなたたちは、
学習しないからです……」
「コボルト自治区でもあなたたちのような者が、
騒動を起こしましてねえ。
あれで『聖金樹騎士団』に
目をつけられた可能性は否めません。
だから今回はくれぐれも、と念を押して
おきましたのに―――」
上司クラス2人に、実力行使と共に叱責され、
彼らの顔色は青を通り越して真っ白になり、
「普通に治癒魔法を受ければ……
今の痛みさえガマン出来れば、治療は
可能です……
ですが、こういった事が二度と無いように
お願いします……」
「もし次に同じ事があったら、その時は―――」
バンディーニとギムリが静かに、しかし
重い口調でそう言うと、
「はは、はい!!」
「わかりやしたぁああ!!」
警告を受け取った彼らは我先にと部屋から
逃げ出し、後には2人だけが残され、
「しかし、いいのでしょうか?
バンディーニ様。
今すぐ処分した方が、後くされは無いと
思うのですが―――」
「一応、水源の位置は判明しましたし……
後は子供でも出来るような作業だけが
残っています。
そのために、再び人員補充をする手間を
考えますと……」
それを聞くとギムリは苦笑し―――
つられるようにして、バンディーニもまた
微笑みを浮かべた。
「それで引き下がったんだ?」
「まあ、医者という本業もあるしのう。
そちらがおろそかになってもかなわぬしな」
ウィンベル王国公都『ヤマト』……
パック夫妻に『人面樹』の実を届け、さらに
自家栽培が困難になったと告げた私は、
自宅兼屋敷に戻り、家族と夕食を取る中、
情報共有を兼ねて妻たちに説明していた。
「でもそれにしてはおとーさん、何か
疲れてない?
それに帰宅する時間も遅かったような」
娘の、弟たちに構いながらの問いに、
「まあちょっと用事があってね」
「んー?」
「何かあったのか?」
メルとアルテリーゼが首を傾げると、
「後始末というか、何というか。
王都の王家直属の研究所ほどでは
ないけど、あの2人―――
いや今は3人か。
結構やらかしているからなあ」
そこで私は……
パック夫妻の屋敷兼研究施設兼病院であった
出来事を語る事になった。
―――シン回想中―――
「これが、ですか?」
「ええ、はい」
「ちょっといろいろといじくっている
うちに」
私の問いに、共に長い銀髪を持つ夫婦が
答える。
そして私の目の前にあるのは―――
「申し訳ありません、シンさん。
本来ならお母さまがドラゴンの姿になって、
消し飛ばせるものなんですけど」
12・3才に見えるシルバーの長髪をした
女の子が、弟である赤ちゃんを抱きながら
頭を下げる。
私の眼前には、各種様々な容器に入った、
動いたり動かなかったり、または光ったりする
物体がいくつかあって、
「実際、非常に危険ならばこちらで
処理するのですが」
「シン殿に頼めば、たいていは無効化して
頂けるので……
ではいつものようにお願いします」
パックさんとシャンタルさんがそう言って、
レムちゃんと一緒に後ずさるように距離を取る。
実はコレ―――
彼らの研究成果であり、失敗作でもある。
いろいろな実験を繰り返すうちに、
暴走、というほどではないにしろ……
手に余るものが発生し、
ドラゴンであるシャンタルさんなら、
炎で一撃なのだが、
そこまでする必要はない、もしくは
残して研究したいと判断されたものは―――
こうして私が『無効化』する事になっていた。
そうして私は目の前のいろいろな、常識外の
物体を前にして、
「何の媒体もなく、また物理的な動力も無く、
さらに魔法や魔力で動くものなど、
・・・・・
あり得ない」
そう宣言し、ひと仕事終えたのであった。
―――シン回想終了―――
「まあ、何と言うか」
「お疲れ様、としかいえん……」
微妙な表情になるメルとアルテリーゼの次に
ラッチが、
「定期的にやってたの?
初めてじゃなさそうだけど」
「こちらからお願いしているものもあるしね。
薬関係も、『鷹の爪』商会と協力して
もらっている部分もあるし」
(■310話 はじめての ないせん1参照)
それに今後、シンイチやリュウイチの成長に
伴って―――
医療の面でも彼ら夫婦との関係は強化しておくに
越した事はない。
「でもいったいどんなものがあったの?」
「基本、魔力や魔法を無効化すれば、
たいていのものは無力化出来ると
思うが」
「そうだなあ。
自分自身見てもよくわからないものが
多かったけど……」
そこで妻たちや娘への説明で、一家団欒の
時は過ぎていった。
コメント
2件

感想ありがとうございます!(*‘∀‘)
うわ、今回はまた盛りだくさんでしたね。人面樹の実が魔力無効化下でも音や振動に反応するっていう新発見、面白い。警備用途としての可能性が広がるし、「見えない部隊」の訓練にも使うってのが渋い。 それより何より、パック夫妻の実験失敗品をシンが「あり得ない」の一言で無効化して回るお手伝い、思わず笑っちゃいましたよ。彼らの研究がどんどん危険な方向に進んでるのがわかるし、ドラゴンの炎じゃなくて「無効化」で処理するってのがシンらしい。 そしてラストのバンディーニの登場、虫を使った恐ろしい計画がチラ見せされて続きがすごく気になる…。この緩急の付け方、さすがですね!