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7 - 午後七時、沈まぬ修羅場

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2025年06月12日

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日が暮れても、帝都医療センターの救命救急室に夜は訪れなかった。崩落事故の余波でなおも傷病者が搬送され、ICUもオペ室も限界に達していた。



午後7時10分──


「松村先生、搬送車あと3台来ます!」

看護師の声に、北斗は無言で頷いた。


数時間前から、北斗の背中はわずかに丸まっていた。

処置着の袖口は血液と薬剤で汚れている。

だが目だけは鋭く、冷静だった。


「京本、新規ICU入室患者の循環安定させられる?」

「やるよ。昇圧剤、人工呼吸、透析、フルセットで迎え入れる」


京本も声は淡々としていたが、目の奥には疲労の色が濃く浮かんでいた。


彼の頭の中では、全患者のデータが常に高速で回転していた。

人工呼吸器設定、腎機能、出血傾向、感染リスク──

一つの見落としが命取りになる。




午後7時30分──


オペ室──


「ジェシー先生、もう10時間ノンストップですよ?!」


スタッフが叫ぶが、ジェシーは肩で息をしながら次の止血箇所に手を伸ばしていた。


「……まだ終わらせるわけにはいかない」


彼の目は赤く充血していた。

けれど手の動きだけは微塵も狂わなかった。


「樹、出血量!」


「今、総出血6200ml。もう輸血残りわずか!」


「次はオートトランスフュージョン回せ!自己血回収して使う!」


慎太郎がすでに回収機を回し始めていた。


「自己血、再還流開始!」


樹が支え、慎太郎が回し、ジェシーが命を拾い続けた。





午後8時──


ICUのナースステーション──


「京本先生、感染症の兆候です!敗血症の恐れあり!」


「血液培養採取、抗菌薬ダブルで開始。昇圧剤は2段階上げて」


京本は一瞬も迷わない。


けれど──その内心では、張り詰めた糸が少しずつきしみ始めていた。


(──もし、ここで俺が一つでも間違えたら……)


命の管理者でいることの重圧が、背中にのしかかっていた。





午後8時30分──


現場から再び髙地が搬送について戻ってきた。


顔面の泥はそのまま、声は嗄れていた。


「新たに掘り出された患者搬送完了。俺も一旦待機に入ります」


「髙地……少し休め」

北斗が声をかけた。


「大丈夫。でも……患者の顔が、まだ頭から離れない、」

優吾はうつむき、小さく笑った。


それは医療者が時折見せる、心の隙間からこぼれ出た弱音だった。




午後9時──


ジェシーがオペ室から出てきた。

白衣の袖は血で真紅に染まり、足取りはわずかにふらついていた。


樹が駆け寄る。


「ジェシー、座れ!補液も入れろ!」


「はは……俺、今何人目だった?」

ジェシーは乾いた声で笑った。


「これで今日だけで17人目の執刀だ」



ICU──


ナースがそっと京本に水を差し出した。

「先生……少し休んでください」


「……ありがとう。でももう少しだけ」


京本は答えたが、声はわずかに掠れていた。

視界が霞み始めていた。



午後9時30分──


その時──


館内放送がまた鳴った。


「緊急搬送要請。心停止患者、搬送中。あと10分」


誰一人、顔色を変えなかった。

全員が既に、その次の命の準備に入っていた。


『俺たちは救命だ。止まらない限り、救い続ける』


その覚悟だけが、SixTONESを支えていた──



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