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◆相田side◆
林から、「嬢ちゃんが入っているダンジョンのゲート付近に報道陣が待機している」との連絡が入った。
テレビでも生中継しているようだ。
「相田陸将……いえ、協会長。これ、どうするんです?」
「嬢ちゃんが下手なこと言わなけりゃ問題ないだろうよ。それより『開拓者』の件はどうなった?」
「協会から厳重注意という形で書信を送りました」
「大人しくなればいいが……ならないだろうなぁ」
少し前にあった生インタビューで、『開拓者』の発言は見事なまでの爆弾だった。
おかげでマスコミもネットも、過激な方向にブン回っている。
嬢ちゃんに関しては、ハンター協会の“特別指導役員”として席を用意してある。
立場上は、儂に意見できるポジションだ。
ミノタウロスの一件から続く付き合いではあるが、権力に興味がまるで無いことは、嫌というほど分かった。
協会の設立も、ゴールドの使い道の大枠も、ほとんどが嬢ちゃんの案だ。
本来なら日本国内だけでじっくり進めるつもりだったが、ゴールド市場については世界各国が仕組みに興味を示していて、あっちこっちから問い合わせが来ている。
「それにしても、覚醒とはものすごい効果ですね」
「あぁ。今まで働けなかった者、働いてこなかった者、普通に一流企業に勤めている者すら、ハンター協会に“覚醒するため”の応募書類を抱えてやって来たからな」
「小規模なダンジョンでも、ひとつ攻略すれば最低でも百ゴールドは入りますからね……金の価値が下がったと言えど、日本円で二百万ですし」
覚醒方法が世に出て、ダンジョンが次々と攻略され、金貨のおかげで金の価値は百グラム二万円ほどまで下がった。
現物資産として金を山ほど抱えていた連中は、阿鼻叫喚だったと聞く。
ダンジョンが“一攫千金の夢”を現実にするもんだから、覚醒の応募は今も止まらない。
現在八期目。
一期あたり百万人を想定して全国各地で行ってはいるが、希望者は減るどころか増える一方だ。
資金力のある企業も、続々とダンジョン市場に参入し始めている。
林の見立てでは、「世界規模の、とんでもない巨大市場になる」とのことだ。
「おや、橘さんが出てきましたよ」
「頼むから、変なことは言うなよ……」
祈るような気持ちでテレビを見る。
売り言葉に買い言葉、日本トップクラスの二つのパーティーが口喧嘩している図というのは、正直なところよろしくない。
画面の中で、嬢ちゃんが詰め寄ってきたインタビュアーを失禁させ、その上で報道陣に向き直った。
――そして、堂々と言い放つ。
「――――良くないと思う」
「……はっきり言ったなぁ」
「言いましたね……」
おそらく嬢ちゃん自身に、煽るつもりなんて欠片もないのだろう。
だが、あの言い方では、どうとでも受け取れてしまう。
悪い方向には解釈されないだろうが、間違いなく“対立構図”として煽り立てられる。
こりゃ、本当に――嬢ちゃんの妹が言っていたように、最強決定戦を開いた方が早いかもしれんな。
血みどろのケンカにするより、最初から「興行」として成立させてしまった方が、ずっとマシだ。
「林、決定戦やるぞ」
「ですね。この流れなら、やった方が火消しは早いかと」
問題があるとすれば、『開拓者』からゴールドを受け取っている高官どもだ。
規模は間違いなく大きくなる。そうなれば、政府が口を出してこないわけがない。
『開拓者』の発言が、ただのマイクパフォーマンスで済ませたい軽口だったなら――開催に、ややこしい圧力がかかる。
本心で最強の座を欲しているのなら、むしろ話は早いだろう。
具体的な案の詰めは林に任せて、儂は「何か言われた時の交渉役」として控えるとしよう。
◆『開拓者』side◆
生放送のインタビューが終わり、俺たちは楽屋に戻っていた。
【支援】スキルのくせに、自分にしか強化を掛けられない“使えない女”が、空気も読まずに口を開く。
「先ほどの発言は、女性蔑視と言われてもおかしくない内容ですよ? リーダー?」
「うるせぇな。俺に意見したけりゃ、その使えねぇスキルで“全員”を強化できるようになってから言え」
こいつをパーティーから外さないのには理由がある。
技能をあれこれ駆使して前線で戦い、モンスターのタゲも引いて、負った傷は自分で回復。
――肉盾としては使い道があるからだ。
それに、顔も身体も悪くない。
俺が“使ってやる”には、ちょうどいい。
「ねぇ、りーだぁー。本当に『銀の聖女』は大したことないのぉ?」
「どうせ大したことねぇよ。ミノタウロスを倒した時の名声に縋ってるだけの女どもなんかよ」
『銀の聖女』のリーダーは、ミノタウロスを倒してからというもの、ろくに表舞台に出てきていない。
戦っている映像が残っているのも、あの時だけだ。
剣を使っていることからして、やつのスキルは【剣術】。
使っていた技能は、高速移動系の【俊足】と、【八連斬】あたりだろう。
うちの【剣術】持ちがそう言っていたから、まず間違いない。
楽屋の隅に置かれたテレビのチャンネルが切り替わり、『銀の聖女』のパーティーが出てくるダンジョン前の中継に映像が変わった。
「へぇ、マスコミもたまには仕事するじゃねぇか」
そのまま画面を眺めていると、やつらがダンジョンから出てきて、インタビューに答え始め――
その中で、はっきりと俺たちについて言及した。
――は?
「なんだと……!? 見た目だけのアイドルちゃん達がよォ!!」
近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
俺たちが“眼中になかった”だと? それを、この全国放送で言いやがったのか。
ふざけるな。
大人しく慌てふためく様子でも見せていればよかったものを……。
スマホを掴み取り、ある番号に発信する。
「あぁ、俺だ。――明後日だ。俺も行く」
クソが。
女に生まれたことを後悔させてやる。
『銀の聖女』のリーダーも、画面越しに見た限りじゃなかなかのツラと身体をしてやがる。
――楽しみだぜ。