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「なに? レト――」
振り向こうとすると、私を後ろから包むようにぎゅっと抱きしめてくる。
あまりにも驚いて体が固まってしまう。
夢でも見ているんだろうか。
でも、ドキドキと鼓動が早くなっている感覚があるから現実だ。
しかも、すぐに離してもらえなかった。
レトは何も言わずに私を抱きしめていて、夜景を見る余裕さえ与えてくれない。
どういう気持ちでこうしているのか分からない。
でも、安心するようなぬくもりを感じて体の力が少し緩む。
「今の僕は、節操がないことをしているかもしれない。
でも……、ずっと、かけらのぬくもりを感じたかったんだ」
「私の……?」
「スノーアッシュの人たちに連れて行かれて、何をされているのか毎日気になって仕方がなかった。
痛い思いをしていないか、お腹を空かせていないか、悲しんでいないか。とても不安で……。
離れていた時間は、いつもより長く感じたよ。
かけらのことを忘れた時なんてなかった」
今まで聞いたことがないレトの切なそうな声。
どれだけ心配してくれていたんだろう。
申し訳なさと必要とされて嬉しい気持ちが混ざり合う。
「ふたりで旅をはじめてすぐに僕は熱を出したよね。
大事な時だっていうのに体調を崩してしまって、かけらとよく話せなかった」
「仕方がないよ。レトは疲れていたんだから」
「クレヴェンに来てから寝込んでいた時、かけらが楽しそうに笑っているからすごく気になってたよ。
平和に向けて話が進んで嬉しかったけど、心の中に寂しさが残っていて……」
確かに、寂しい想いをさせてしまった。
守りたいとばかり思って、気持ちまでは考えていなかった。
「本当は、かけらともっと話がしたかった。
だからこうして、かけらのことを独り占めしているんだよ」
その気持ちを現すように、私を抱きしめる力が強くなる。
仲間の皆と仲良くしてきたつもりだったけど、レトにこんな寂しい想いをさせていたなんて知らなかった。
「気付いてあげられなくてごめんね、レト……」
「かけらは僕にとって欠かせない人……。
一番最初にできた大切な……仲間だから……」
「うん。これからは一緒だよ」
「そうだね。この旅が終わる時がきても、僕はかけらと一緒にいるから……――」
このあと、再び夜景を見ることはなかった。
レトが話してくれたこと、抱きしめられたことで胸がいっぱいで。頭の中でループする。
私はレトにとって大切な仲間。
でも、それだけで抱きしめたりするんだろうか。
そもそも、レトに恋人がいるのかまだ教えてもらっていない。
レトの寂しい気持ちは分かったのに、自分の気持ちが分からなくなる……――
戦争がはじまるまであと一ヶ月。
私は仕事を手伝いながら、新しい家で不自由のない生活をしていた。
グリーンホライズンとクレヴェンは、スノーアッシュは和平を結ぶ予定だ。
あと一つの国に行って和平を結ぶことができたら、私の目的は達成する。
でも、そんなに上手くいくんだろうか……。
今までいろいろあったけど、国の未来を背負った王子からいい返事をもらったおかげでスムーズに進んでいる。
それぞれの国の民も巻き込んでいることも忘れてはいけない。
責任がどんどん重くなっていく。
でも、私は逃げない。王子たちと平和に向かって進むんだ。
四人目の王子はどんな人なんだろう……。
考えながらベッドで横になっていると、ドアを叩く音が聞こえた。
「明日に出発することになったぞ。準備しておけよ」
やってきたのはセツナだった。
「どこかに行くの?」
「忘れたわけじゃないよな。
かけらは四つ目の国に行きたいんだろ?」
「そうだけど……。
どうやって国境を越えるのか、まだ話し合ってないよね?」
「三つの国の王子がいるんだ。なんとかなるだろ」
本当になんとかなるんだろうか……。
正直にいうと、安全な方法を見つけてから進みたい。
レトとセツナに迷惑を掛けてしまったから。
でも、出発が決まったから従うしかない。
シエルさんから渡されたダイヤモンドを持っていけば、何かの力になったりするだろうか。
とりあえず持っていこう……。
このダイヤモンドの正体が何なのか、レトとセツナにまだ聞けてないから…――
次の日の朝。
太陽が昇ってきた時に集合場所へ向かう。
すると、レトとセツナ、シエルさんが私が来るのを待っていた。
「おはよう、かけら。
今日から過酷な場所に行くけど、体調は大丈夫かい?」
「大丈夫だけど、過酷な場所ってなに?」
「かけらにとっては四つ目に行く国、ルーンデゼルト。
この世界で一番人口が少ないらしいから、生きていくのに大変な場所なんだろ」
「敵を蹴落とすなら、敢えて行かない方がいいと思うけどな」
「ったく……、フェアじゃねぇ。
かけらとレトに聞こえるだろ」
セツナとシエルさんは何の話をしているんだろう。
「どうしたんだい?」
「なんでもねぇよ」
まあ、いいか。喧嘩しているようではないから。
「確か、ルーンデゼルトには湖からお邪魔するんだよね。
勝手に国に入ることになるけど」
「そんな危ないところから行くの?」
「王子三人で決めたからな。
他に方法がないんだから行くしかねぇだろ」
「私は安全な方法を見つけてから……って、待ってよー!」
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