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何の許可もなく四つ目の国に入るのが怖かった。
でも、王子たちを信じて進む。
ルーンデゼルトという国に入ってから、大きな森の中を歩いた。
木と草だらけで、迷っていないか心配になるほど同じ景色が続く。
獣道を進んでいるせいか、人の姿を見掛けなかった。
しかし、人や動物にいつ襲われるか分からない。
怖がる私の前を歩く三人の王子は、動じることなく前に向かって歩いていた。
「シエル、本当にこっちで合ってるのか?」
「王都への近道だ。明日には到着できる。
だが、森を抜ける前に休んだ方がいい」
平らな場所を見つけてからテントを張り、焚き火を作った。
三人の王子は、手際よく晩御飯の準備をする。
私は邪魔をしないように手伝いをした。
今回は食料や寝袋など準備をしっかりとしてきたから何も困ることはなかった。
食事を終えてから、三人の王子と焚き火を見ながらくつろぐ。
何か面白いことを言って、場を和ませた方がいいのかな……。
話のネタを考えていると、この中で一番口数の少ないシエルさんがレトの方に顔を向ける。
「なっ、なんだい? シエル」
「レト王子とよく話していなかったなと思ったから」
「ボクたちは、特に話すことがなかったからね。
でもシエルのおかげで僕の一つの目的が叶ったよ。
かけらから塩の存在を聞いて、ずっと欲しかったから。本当にありがとう。
スノーアッシュと和平を結んだら、塩を手に入れやすくしてもらいたいなって思うんだけど――」
「その話は、次のスノーアッシュ王とすることだ。
俺はレト王子の命をずっと狙っていたんだから、感謝なんてしなくていい」
「僕のことを狙っていただって……!?」
「シエルさん、なんでそんなことを……」
私とレトは視線を合わせて警戒するけど、セツナは胡座をかいたまま口を開かなかった。
シエルさんが、今すぐに武器を持ってレトに襲いかかってくる様子はない。
とりあえず私も座ったまま、話の続きを聞く。
「俺の恋人は戦争中に亡くなった。彼女の命を奪ったのはグリーンホライズン王。
武器も持たない田舎の平民さえも無慈悲に襲い、小さな村を焼いて滅ぼした。
レト王子はそれを知っているか?」
「ごめん……。知らなかった……。
戦況は聞いていたけど、そのことは覚えていない」
「そうだろうな……。
小さな村を襲うなんて、この世界ではよくあることだから一々覚えてないだろう。
愛する人を失った俺は、復讐するためにグリーンホライズン王の大切にしているものを奪おうと決めた。……それが、次の王であるレト王子の命だ」
戦場に出さないほど、レトのことを大切にしているグリーンホライズン王。
和平を結ぶことを選んでくれたのも、自分の息子を信頼していたからだろう。
「俺は復讐することだけを考えて、レト王子の後を追った。
気付かれないように、影に潜み、その時が来るまで待っていたんだ。
かけらがこの世界にやって来てから、ずっと話を聞いていたのもそうしていたからだ」
「つまり、クレヴェンにいたのは、レトを狙っていたからか」
「それもあるが、トオルにかけらのことを話したら興味を持ってな。
連れてくるように頼まれたんだ」
「レト……。大丈夫……?」
俯いているレトは唇を噛み、眉を寄せて、力を入れて指を組んだ。
その手が少し震えているように見える。
「いくら謝っても、シエルに許してもらえないと思う。
父がやったことだから僕は無関係とはいかないし、復讐されても文句を言えないよ……。
でもシエルは、なぜ僕を襲わないのかな……。
紅の地にいた時だって、狙えるタイミングはあったはずだ」
確かにそうだ。レトが一人で無防備になっていたのは何度もあった。
セツナが前に話していたけれど、シエルさんは戦闘能力が高い。
その気になれば復讐できたはずだ。
今、動き出してもおかしくない……。
ごくりと唾を飲んで、シエルさんの方を見て答えを待つ。