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今日もいつもと変わらない1日が始まった。
施設から学校に行って、学校生活を送り、放課後は深夜までバイトに明け暮れる。
強いていつもと違うとすれば今日からテスト期間だから、学校が午前中で終わることくらいだ。
学力は有難いことに授業を受けていれば、まぁまぁの点数が取れているからわざわざ勉強に割く時間はいらない。
だから、午後は夕方のバイトが始まるまで休む事が出来る。
最近バイトを詰めすぎていて
正直体力がきつかった。
ただ、自分のベットで寝て起きれる自信が無いから公園のベンチで昼寝をしようと思う。
今思えば、この選択が俺の人生を変えた。
……良くも悪くも。
「もー無理だ。眠過ぎる。」
そう小さく呟きながら、鞄を枕にしベンチに横になった。
目を閉じれば、躊躇なく押し寄せる眠気。
暖かい日差しと、鳥や虫の声。
昼寝の条件は揃ってる。
ゆっくりと躊躇うことなく睡魔に身を任せた。
「んー……。」
微かな肌寒さを感じ目が覚めた。
と、同時に嗅ぎ慣れない香りがした。
ぼやける視線の中に。
「おい」
聞き慣れない声。
「んーー……。っ!?」
おもわず飛び起きると隣のベンチにワイシャツを着た男性が座っていた。
その人と目が合うのと同時に何かが落ちた。
落ちた方に目を向けると、高そうなスーツが落ちている。
「やば。あの!これ。すみません。」
慌てて拾い男性にスーツを返す。
「謝られるより感謝されたいんだが?」
「っ、あ、ありがとうございました!」
「ふっ、あぁ。どういたしまして。
それよりいいのか?さっきから電話鳴りっぱなしだぞ?」
「え?あ!やば!!バイト!」
「……近いのか?そのバイト先は」
「え?えぇ、全力で走れば20分くらいです」
「送ってやる。ここで会ったのも何かの縁だ」
「いや!それは悪いです!」
「ほら、行くぞ」
そう言って、その人はさっさと行ってしまった。
その後を急いで追った。
「あの、ありがとうございました。ここで大丈夫です。すぐそこに見える居酒屋なので。」
「っ、へぇあそこで…」
「はい、もし良かったら今度お越し下さい。」
「ふっ、今から行こうかな」
「え?」
「いらっしゃ、あー!黒崎くん!遅刻なんてめずらしいね!どうしたのー」
「すみません。店長。公園で昼寝してて寝過ごしました。」
「公園って!風邪ひかないようにね」
俺のバイト先の店長。
長谷川奏さん。年齢不詳。絶対若いけど。
「って!!暁さん!?!」
「え?」
「黒崎くんどうして暁さんと一緒にいるの?!」
「暁、さん?」
長谷川さんが目を丸くして見ている方向にはさっきの高そうなスーツを着てる男性が
「公園で寝てる時にスーツ掛けておいてくれて今も送って頂いたんです。お知り合いですか?」
「知り合いも何も俺の先輩だよ!この店出す時も色々面倒見てもらってて、聞いた事ない?暁グループって」
「色んなところによく書いてありますね」
「そう!そこの次期社長さん!」
「へぇ、そうなんですね」
「え?それだけ??」
「いや、凄いなとは思いますけど、次期って事は身内の方とかが先に社長やられてて、引き継ぐって感じですよね?大変そうだなと思います。」
「っ。」
「あ、あぁー確かに、ねぇー!」
「つか、俺着替えてきます。すぐ入りますね。」
「うん、よろしくー」
次期社長。やっぱり金持ちか。
高そうなスーツだったもんな。
偏屈な考え方だけど、俺は金持ちが嫌いだ。
自分が貧乏だからとかそんな理由じゃない。
……金持ちは誰も助けてくれない。
お父さんもお母さんもお金はある人だったのに。
なんで、こんな所にいるんだろう。俺。
あれから俺は急いで着替えてバイトに入った。
暁さんは用があるからと
俺が戻る前に店を出たらしい。
そしていつものように深夜までバイトをし帰宅。
死んだように寝た。
次の日もその次の日もテストはあったがバイトが
休みで、充分回復した。
そして、今日が土曜日。
たまにはと思い、映画を観に来た。
「学生証のご提示お願いします。」
「あ、はい。……あれ?」
いつも鞄に入れっぱなしの学生証が無い。
思い返せば、暁さんに送ってもらった時、
車の中で鞄をぶちまけた。あの時か。
「あのー……」
「あ、はい。今日学生証忘れたので一般料金でお願いします。」
「かしこまりました。では、1800円になります」
「はい、じゃあ20「同じチケットをもう1枚、支払いはどちらもこのカードで」」
「あ、はい!かしこまりました!」
「え!?!」
「この間ぶりだな。少年。」
「暁さん!!?てか、チケット代!」
「ん?あぁ、気にするな。俺も観たかった映画だからこんなおじさんとで良ければ一緒に観てくれないか?」
「それは、全然いいですけど…てか、暁さんおじさんじゃないですよね。絶対。」
「高校生からしたら23はおじさんだろ」
「いや、全然お兄さんですよ。って、暁さん23ってことは長谷川さんその下ですよね?いやー、凄いな。」
「凄い?」
「俺、将来どうなってるんだろう。」
「やりたいこととかないのか?」
「…特に無いですし、俺、訳ありなんで将来とか全然考えられないんですよ。はは。」
「そんなにしんどそうな顔して笑うんじゃない」
「……どんな顔してます?俺。」
「助けて欲しそうな顔」
「ははっ、助けて欲しい、か。考えたこともなかったな。誰かに助けを求めるなんて。」
「助けて欲しいのか」
「…どう、なんですかね。わからないんですよ。俺、自分がどうしたいとか何して欲しいとか、何が欲しいとか。そういうの言える環境じゃないんで……」
「…じゃあ、とりあえず
今日は俺と一緒に映画観よう」
「……はい。」
映画はミステリー映画で多少のホラー要素もある映画だった。
『助けて欲しいのか』
映画を観ながらその言葉が頭の中を、
ずっとぐるぐるしている。
ちらりと隣を見ると、キラキラとした目で映画を楽しむ暁さんがいた。
……異様な光景だ。
長谷川さんが見たらいつものオーバーリアクションで言い寄ってきそうだ。
きっと、彼に助けを求めれば何かしらの形で助けでくれるだろう。
ぎりぎりで経営している居酒屋だ。
こんな俺をバイトとして雇ってくれているだけでも有難いのにこれ以上迷惑はかけられない。
何とかするしかない。
[どうすればいいんだ!!!!!!]
っ!!!!!!
映画の中のセリフがあまりにも自分の感情とリンクして、頭を殴られたようだ。
皆を助けて、仲間に助けられて、
そんな、主人公に俺はなれる訳無いのに。
「面白かったな」
「そうですね。ラストの大どんでん返しには驚きましたけど、面白かったです。」
「この後は、暇か?」
「え?えぇ。特にやる事も無いのでその辺うろうろして帰ろうかと思ってましたけど」
「…一緒にお昼でも行かないか?」
「え!?」
「いや、その。少し話したいことがあって。」
「話したいこと?」
「あぁ。もし、良ければだが……その。嫌なら嫌と言ってくれて構わない。」
……もしかしてこの人。
誘い慣れてないのか?
友達少ない?
「…あぁ。友達は少ない方だと思う。」
「?!!俺、声に出して…?」
「ガッツリ出てたぞ」
「っ……すみません。お昼でも行きませんか?」
「ふっ、話を変える天才だな」
「ありがとうございます……。」
………………やらかした。
連れて来て貰ったのは俺みたいな学生でも
入りやすい、落ち着いた雰囲気のカフェだった。
多分気を使ってくれたんだろう。
「勝手に決めてしまったがここで大丈夫だったか?もし、嫌いな食べ物が多ければどこか違うところにするが」
「いえ!俺好き嫌い無いんで大丈夫です」
「いい事だな。俺は葉っぱが嫌いだ」
「葉っぱ?」
「あぁ、葉っぱの野菜が嫌だ」
「……ぶっ、ふふ、ははは」
「…………なんだ。」
「だって、っ、暁さんそんなカッコいいのに、葉っぱって。しかも、嫌いなんだっ、ふはっ」
「嫌いなものは嫌いだ。あんなの食べる必要が無いからな。」
「いやいや、ふっ、食べる必要はありますよ!
ふっ、あーーだめだぁ、ははははっ!!」
「ふっ、そっちの方がらしいな」
「はははっ、えー?何がですか??ふふっ、」
「いや、こちらの話だ」
「……そうですか?」
「ああ」
「というか、お話って?」
「いや、大したことでは無いんだがこの間、長谷川の店で話した時、大変そうだと言ってくれただろ」
「…………はい」
「あれが嬉しかったんだ」
「え?」
「俺は自分の置かれている状況が嫌な訳では無いが、面倒だと思うことも時々ある。
だが、周りは俺の事ではなく、俺の置かれている状況に群がる。
次期社長。御曹司。
……金持ち。」
「………………。」
「俺の周りに来る奴らに、俺の感情を汲み取ってくれる人はいなかった。
まぁ、仕方がないのかもしれないが少し寂しくてな。そんな時に、君が俺の事を気にしてくれたことに、とても嬉しく思ったんだ。」
「別に、俺は。なんとなくそう思っただけで。」
「あぁ、それでも俺は君に救われた。
ありがとう。」
そう言うと、暁さんは俺なんかに頭を下げてくれた。
この人に、
助けてと言ったら助けてくれるのだろうか。
「……暁さん。」
「蓮だ」
「え?」
「暁蓮(あかつきれん)と言うんだ。フルネームが。だから、蓮と呼んで欲しい。」
「あ、はい。蓮、さん」
名前を呼ぶだけでその人はとても嬉しそうにこちらを見ていた。
「蓮さん。映画の前に助けて欲しそうな顔をしていると言いましたよね。」
「あぁ」
「もし、俺が蓮さんに助けてくれと言ったら。助けてくれますか。」
「当たり前だろ」
「っ」
「まぁ、まず君の置かれている状況と何に対して助けて欲しいのか。その他もろもろ確認してからにはなるが、必ず助けるぞ。君が望むなら」
「っ、昴って言います。俺。黒崎昴」
「わかった。昴だね。では、昴。嫌じゃない程度に身の上話をしてもらいたいな。」
俺は全部話した。
両親の事も、施設の事も、学校の事も。
蓮さんはずっと静かに聞いてくれてた。
出会ったばかりの人に話すことでは無いのは
わかっていたけど、
もしかしたら、
本当に助けてくれるかもしれない。
人を信じたことの無い俺が、初めて人を信じた
瞬間だったかもしれない。