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蓮side
大人とも、子供とも言えない歳の子が
今目の前で、大人の所為のせいで
小さくなっている。
この歳で経験するには、負荷が大き過ぎる事を
彼は経験している。
彼が、ぽつりぽつりと放つ言葉を
何ひとつ落とさないよう必死に聞いた。
壮絶。そんな言葉で片付けるのは
駄目かもしれないが、その言葉がこれ程までに
しっくり来る話を俺は聞いたことが無かった。
しかも彼は、その壮絶な渦の中で今も
もがき苦しんでいる。
同情か、好意か…はたまた、興味本位か。
そんなよくわからない感情が沸き上がり
助けたいと思った。彼を。
「昴」
驚いた。
自分の声が思っていたより低く、大きかった。
その声を向けられている彼は、
ビクッと体を大きく震わせていた。
「す、すみません。こんな話突然。」
「いや「聞き流してもらって大丈夫なんで!」」
「蓮さんの重荷になりたくないし。ただでさえ、
蓮さん多忙だと思うし、大変なのに」
彼は今まで、こう育ってきたんだろう。
大人に気を使い、周りの顔色を伺い、
自分のことなんて考える余裕もなかったのだろう
そして、誰にも何も期待しないで。
「昴。大丈夫だよ。そんなに怖がらなくていい。
君は、自分の望みを言っていいんだよ。
今まで頑張って生きてきてくれた君が、
少しの我儘を言って、誰が君を叱る?
少なくとも、俺は叱らない。
その、君の珍しい我儘を全力で叶えてあげたいと
思うよ。だから、教えてくれないか。
君が今1番望むことを。」
「…人と触れ合いながら、安心できる場所で、
俺自身の将来を考えながら生きたい。」
高校生でこれを望むか。
こんなに、身を震わせながら。
「施設を出て、俺の下で暮らさないか?」
「……え!?」
「俺の家、部屋数が多くて
沢山部屋を余らせててね。掃除も大変だから
全然掃除もしてないんだよ。
そうだ、昴、家事は出来る?」
「い、ちおう。人並みには出来ます。」
「料理も?」
「はい。」
「よし、なら、住み込みの家政婦として、
昴を雇うよ。」
「家政婦?」
「どうせ君みたいな気を使いしいの子は、
タダでは住んでくれないだろう?
だから、俺の家の家政婦。仕事だよ。
もちろん賃金も出すし、
住み込みだから部屋も提供する。
うちから学校へは通えばいいし、
テスト期間とかはもちろんそちら優先だ。」
「…………。」
「どうだ?
ああ、長谷川のところを続けたいのなら続けて
構わないよ。長谷川も、君のことを頼りにして
いるみたいだし。
ただ、シフトはもう少し減らしなさい。
体を壊してからでは遅いからね。」
「あ、の。」
「ん?」
「冗談とかでは……?」
「そんな訳ないだろ?本気だよ。」
「俺は、喉から手が出る程受けたい条件ですど、
なんでそこまでしてくれるんですか?」
「それが自分でもよくわかってないんだ。
同情なのか、興味本位なのか。なんなのか。
だけど、心から君の事を助けたいと
思っているのは間違いないし、
今まで君と関わって来た大人達に、
怒りを覚えているよ。
こんな力も何も持たない子供に、どれだけ大変な
思いをさせてきたのかと。」
「………………っ。」
彼の目にはみるみる涙が溜まって行く。
少しでも、彼の助けになれていればいいが。
「では、この条件で交渉成立でいいかな?」
「っ、はい。よろしく、お願いします。」
「こちらこそ、よろしく。
さて、いつから家に来る?俺は今日からでも
構わないほどだが、君はそうもいかないだろ?」
「俺も、全然今日からでも大丈夫です。ただ。」
「ん?」
「施設を出るのに、身元保証人のサインが欲しいん
です。未成年だから。それで、その。」
「俺が書くから安心しなさい。」
「ありがとうございます。っ。」
あぁ、ずっと泣いている。
思わず抱きしめ、大丈夫だと慰めてあげたくなる
ほどに。
「じゃあ、このまま施設に行こうか。
荷物もあるだろうし、早い方がいいだろう」
「本当に、ありがとうございます。」
「ん?気にするな。逆に俺の生活が、規則正しく
なれそうでわくわくするよ。」
「そんなに、悪いんですか?生活リズム」
「最後に掃除をしたのがいつだか覚えてないし、
冷蔵庫の中には、酒と水しかないぞ。」
「……なかなかですね。」
「だろ?」
「っふふ。はい」
やっと、笑ってくれた。
昴side
「はぁー……。」
1人では充分すぎるくらい大きいベットに
身を預けて、見慣れない天井を見上げていた。
あれから、蓮さんと施設に行き、事情を説明して
施設を抜けて来た。
身元保証人のサインを貰う際、蓮さんの事を説明
しなくてはならなくて、そういう立場だという事
が分かった瞬間。
施設の人達の態度が変わったのがわかった。
ペコペコしだし、最後には笑顔で俺を送り出す
始末だった。
まぁ、部屋の片付けをしている時
「あんないい金ズル、どこで見つけてきたんだ」
と、言っていたが俺は無視をして
さっさと施設を飛び出した。
玄関にはこちらに笑顔を向けてくれる蓮さんが
いて、施設と蓮さんがあまりにもアンバランス
過ぎて、またそこで笑ってしまった。
蓮さんは不思議そうにしながら、笑ってくれた。
蓮さんの家はめちゃくちゃ大きくて
駅の近くのタワーマンションの最上階だった。
流石だなと思うけど、そこに自分が居候する
と思うと、なんだか不思議な感覚だった。
初日は疲れただろうと、出前を取ってくれた。
「俺、誰かとの食事を楽しいと
思ったの初めてです。」
「そうなのか?」
「施設では、決まった時間までに食べ終わらない
と怒られていたし、親とは一緒に食べた記憶も
無いし、今日だけで初めてのことが沢山です。」
「きっとこれからもっと沢山そういう経験を
しそうだな。」
「はい!迷惑かけないように頑張ります。」
「迷惑も、心配もかけていいぞ俺には」
「……ありがとうございます。色々。
あとでしっかりとした契約書をください。」
「契約書?」
「はい、家政婦の」
「あぁ、確かにそうだな。期限は昴が出て行きたい
と思うまででいいかな。」
「そんなの、いつまでも居座りますよ」
「それでも別に構わないよ。
ここを少しでも心の拠り所になるのなら、
願ったり叶ったりだよ。」
「蓮さんって優しいですよね。」
「そうか?」
「そうですよ。こんな、よくわからない男の面倒見
てくれて、こんな良くしてくれて、職場まで用意
してくれて」
「昴だからかな。君自身に興味があるんだ。」
「なるほど?」
「わかっていないだろ?」
「んー?とりあえず俺は、今までの人生の中で
今が1番幸せなんで、どうでもいいかなって」
「ふっ、確かにそれならそれでいいな」
昴side
ご飯を食べた後は、蓮さんが用意してくれた
“俺の部屋”に案内してもらい
「自由に過ごすといいよ」
とだけ残し、どこかの部屋に消えた。
「暇だなー。自由と言ってもまだ8時なんだよな」
独り言を吐きながら、
暁家を探検することにした。
普通の家で探検なんて言葉使わないだろうけど、
この家は本当に、探検という言葉その物だった。
しばらくウロウロして、さっき一緒にご飯を
食べていたリビングに戻って来ると、
ソファに座る蓮さんがいた。
いつも見るスーツ姿では無くスエットのような姿
で、髪も下ろしていて年相応に見える。
「どうした?」
俺の姿を見つけた蓮さんが
視線だけをこちらに向け、声をかけてくれた。
「暇だったんで、探検してました。」
「ふっ、隊長。なにか発見はありましたか?」
「…んーー。蓮さんを見つけました!」
「そうですか。蓮さんを副隊長に任命して下さい」
「いいですよ!蓮さん!今から副隊長です!」
「ありがとうございます!……ふっ」
「ふふっ、蓮さんってノリいいんですね」
「そうか?」
「はい!」
「…………………。」
「…………………。」
「蓮さんって、恋人っているんですか?」
「いや、いないよ。大体、何考えてるかわからな
いって言われてフラれる。」
「お金目当てで近寄って来といて?」
「そうだな」
「えー、そうなんですね。もし、女の人連れて来る
時は早めに連絡下さい。俺出てるんで」
「この家には女の人を連れて来た事ない。
完全なプライベート空間に
他人を入れたくなくてね。」
「え、俺、めちゃくちゃ駄目じゃないですか」
「ね。だから自分からこの提案をした時、自分
でも驚いた。そして、連れて来てからも
ストレスが無いからまた、驚いてるよ。」
「同性だからですかね」
「なんでだろうね。」
「蓮さんの家何も無いから、キッチン用品を
明日揃えていいですか?」
「明日バイトは?」
「長谷川さんに連絡したら、慣れない場所で
疲れるだろうから3日くらい休みなって言って
くれました。」
「そうか、なら、明日一緒に見に行こうか」
「はい!」
「蓮さん、キッチン用品揃えたいメーカーとか
ありますか?」
「いや、特には無いな。というかわからない」
「ですよねー。俺も100均とかでしか買わないか
らわからないんだよなー。」
「とりあえず駅あたり行ってみるか?」
「はい!」
初めて会った時も思ったけど、この人
運転してる姿めちゃくちゃ格好いいよな。
何してても様になるけど、特に格好いい。
俺、23でこの貫禄出せるのか?
絶対無理だな。
……23。俺何してるかな。
数日前までは、未来の事なんて真っ暗で
考えないようにしてた。
今も、蓮さんに頼りっぱなしだし、
いつかは自立して行かないといけないけど、
その時間とそれをゆっくり考えていいって
言ってくれる人と場所があるだけで、
こんなに生きやすいなんて思いもしなかった。
こんな子供が1人でやっていくには限界もあるし
その限界を早々に迎えそうだったし。
今冷静に考えても、あの時、蓮さんに会えていな
かったらと思うとゾッとする。
「どうした?具合でも悪いか?」
ーーーーーっ。
ずっと俯いて悶々としていた俺を気にかけてくれ
たのだろう。
「いえ!なんでもないんです!何買おうかーとか
どこで見ようかーとか考えてただけなので!」
「そうか、ならよかった。
俺は、人より察する能力が低いらしいんだ。
だから、何かあったら直接教えて欲しい。」
「居候の俺にそんなに気を使わなくていいのに」
「居候?そんな風に思ってたんだね。そんな悲し
く考えないでくれ。同居人。そう思って欲しい。」
「同居人?」
「あぁ、居候は他人行儀過ぎるだろ?
だから、同居人だ。これから俺を紹介する機会が
あれば、同居人と紹介してくれ」
「ふっ、わかりました!」
やっぱり、この人は少し変わってる。
さっきまで悶々と考えていた事が、
あっという間どうでもいいやと思えた。
それから俺達は、適当な所でキッチン用品や
家庭用品を買った。
何故かお揃いのお茶碗と箸、本当に
何故か分からないけど、お揃いのパジャマも
買おうと蓮さんが言い出して、パジャマもお揃い
で揃えた。と言ってもスエットだが。
たまに見える、蓮さんの天然っぽいところが
俺のツボ過ぎて終始笑いっぱなしだった。
あーー。楽しい。
こんな生活が来るなんて。
「お腹が空いたな。どこかでお昼でも食べようか」
「なるべく葉っぱの少ないメニューあるところに
しましょうね。」
「ああ、それが1番の優先事項だ。」
「ふふっ。ははは」
俺が事ある度笑うから、蓮さんはその原因を
探るのを諦めたらしくどうしたと聞いてくれなく
なっていた。
少し寂しい気もする。
「ここは俺に出させて下さいね!今日のお買い物
全部蓮さん払っちゃうんだもん!」
「え、やだ。」
「……え?」
「やだって言った。年上が払うのは当たり前だし
ましてや君はまだ高校生だ。
金を稼いでいる俺が、昴に奢られるなんて
絶対にいやだ。その気があるのなら……」
「なんですか?」
「初めて家で食事する時、唐揚げを作ってくれ」
「唐揚げ?」
「大好物なんだ。」
「……はははっ!わかりました。」
「黒崎昴???」
「「え??」」
突然俺の名前を呼ぶ声がして、思わず蓮さんと
一緒に声のした方向を見た。
「榎本君?」
そこに立っていたのは、同じクラスの子だった。
榎本斗真。数ヶ月前に転校して来たばかりの子で
初日に自分はゲイだと自己紹介で名乗っていた。
まぁ、興味も無いし話したことも無い。
「昴。この方は?」
「あぁ、同じクラス榎本斗真くんです。
榎本くん、俺の……」
「”同居人”」
「…同居人の暁蓮さん」
「よろしく」
「よろしくお願いします。
というか昴くんとも話すのは初めてだよね。
君、全然クラスの輪にもいないし、放課後は
さっさと帰ってしまうし。
まぁ、僕もクラスじゃ浮いてるからしょうがない
けどさ。」
「榎本くん浮いてるの?」
「え。そこも気付いてないの?」
「…興味が無くて。」
「ははっ、そりゃ浮いてるよ!
転校初日に自分はゲイだーなんて言われたら
腫れ物扱いになるに決まってるだろ?」
「なら、なぜ言ったの?」
「……君、結構ズケズケ来るね」
「あ、ごめん。」
「まぁいいけどさ。
前の学校で、隠して過ごしててそれがバレたら
いじめが発生してね。だったら初めからバラして
しまえーって思って」
「へぇーなるほど」
「君、興味無いだろ?」
「……まぁ?」
「君は同性愛者なのか?」
「え?ええ、まぁ。
……もしかして、暁さんもズケズケさん?」
「昴、俺はズケズケさんか?」
「まぁ、どちらかと言えば」
「なるほど。ズケズケさんらしいぞ」
「面白いね。君たち」
「「ありがとう……?」」
「ふははっ。まぁいいや。僕はそろそろ行くね!
昴くん学校でも話しかけてもいいかな?」
「え?うん。別にいいよ?てか、話しかけるのに
許可いらないでしょ」
「……うん!じゃまた学校でね!」
「はーい」
「……昴。」
「はい?」
「君、学校で友達いないのか?」
「え、いや、友達を作る余裕も無かったというか」
「じゃあゆっくりでいいから、友達を作って
行った方がいいね」
「頑張ります。蓮さんは友達いるんですか?」
「少ないけど、少しはね。
まだ会わせたことないけど、俺にも一応秘書が
いてね。そいつは、中学からの友達だよ」
「へぇ、お会いしてみたいです。」
「もちろん!今度伝えておくね」
「よろしくお願いします!」
最近夢を見る。
呼んでも誰もいない空間に1人でいて。
寂しくて、悲しくて、辛い。
泣いても泣いても涙が止まらなくて。
まるで、あの空間のようだ。