ねぇ、涼ちゃん
本当に一目惚れだったんだよ
「一緒にバンドやりません?」
この人がいい
この人じゃなきゃ駄目だ
この人が欲しい
「いいよ。」
それが恋と自覚したのはもっとずっと後だったけど
多忙な日々に追われ、歯車が少しずつズレていったのかもしれない
休止中にメンバーが二人辞めることになった
沢山話し合ったが意見は平行線で
結局俺は辞めることを認めるしかなかった
もっと強く引き留めたら二人は残ってくれたのだろうか
残ってくれたとしてもそれは本心じゃなく二人の優しさ
飛び立つ羽を切り落としたと
俺は一生悔やまなければいけなかったかもしれない
不安定な精神状態の中、若井が気にかけてくれていた。
「大丈夫?元貴。寝れてる?」
家に来た若井は、俺の顔を見るなりそう言った。きっと酷い顔してたんだろう。
「若井。」
「何?」
「チーム辞めたい?」
無意識に聞いていた。言ってしまってからハッと我に返る。
「あ、いや、ごめん。忘れて。」
すると、若井は俺の肩を叩いた。痛いよ。
「俺は辞めたくないし、もしバンド解散ってなってもまた元貴に誘ってもらえるように頑張るから。」
ニカっと笑った若井。この陽キャ、マジで男前だな。
「そっか。」
幼馴染というだけあって、長い付き合いの若井の言葉は嘘偽りないということは感じることができた。
じゃあ、涼ちゃんは….?
「若井、涼ちゃんはなんか言ってた….?」
「いや。”残念だね”って話をして以来、なんとなくタブーっぽい感じで話題にはでない。でも、”辞める”とか”辞めたい”とかは言ってなかったよ。」
涼ちゃんに会いたい….
「若井、今度二人がルームシェアしてる家行っていい?」
「もちろん。何なら今日泊まりに来なよ。」
「涼ちゃん迷惑じゃないかな?」
「ラインで聞いてみる。」
若井:今日元貴連れて帰って来ていい?
藤澤:何その捨て犬拾ってきていい?みたいな言い方(笑)いいよー。
若井:ついでに泊まる
藤澤:OK。使えそうな布団とか出しとく
若井:ありがと〔スタンプ〕
「OKだってよ。」
「ありがと、若井。とりあえず涼ちゃんには日本酒買って行こう。」
「俺はコーラね。」
「へいへい。」
「元貴いらっしゃい!」
満面の笑みで迎えてくれた涼ちゃん。
それを見た瞬間
(あ。好き、かも….。)
唐突に、何の前触れもなく恋を自覚した。
「どした?元貴。上がって上がって。」
若井がニコニコして促す。弱ってるところに優しく微笑まれたから疑似恋愛的な感情を持ってしまったのかと思ったけど、若井に恋愛的な好きって感じはしないなぁ….。
「元貴が来るっていうから、今日はトマトパスタにしましたー!」
「ありがと、涼ちゃん。あ、これお土産の日本酒です。」
「えー?いいのに。」
「急にごめんね。」
「元貴なら大歓迎だよ!」
これは….気を抜いたら泣いてしまうかもしれない….。
三人で食卓を囲む。当たり障りのない話から、近況報告、そして忙しくなるであろうこれからのこと。
食べた後もしばらく話しているといつの間にか真剣な話になっていて、打ち合わせというか、方針会議のような雰囲気になっていた。気づいた俺は慌てて
「ごめん!ついつい仕事の話しちゃって….。」
「大丈夫。こんな時じゃないと元貴とゆっくり話せないからね。元貴の考えが聞けて良かった。」
涼ちゃんの言葉に嬉しくなった。
(好きが溢れてくる….。)
我ながら簡単というか単純というか….。
若井が風呂に入っている間、涼ちゃんが俺の寝床を整えてくれた。
「元貴、本当にソファーでいいの?」
「うん。」
「寝れる?」
「大丈夫だよ。それよりさ、涼ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」
「なに?」
「涼ちゃんはチーム辞めたいとか思ったとこある?」
なるべく世間話のような軽い感じで聞いてみた。
「んー……..。」
なに?沈黙が怖いんだけど。
「辛いと思ったことはあったけど、辞めたいとは思ったことないかな。」
「そっか….。」
「元貴となら、このチームとなら、絶対楽しい嬉しいが勝つって知ってるしね。」
楽しそうに笑う涼ちゃん。その笑顔を見てほっとした。それと同時に、掌に爪が食い込むほど手を握りしめていたことに気づく。
「涼ちゃんがいてくれてよかった….。」
若井は手を取って引っ張ってくれる
涼ちゃんはそっと側に寄り添ってくれる
「二人がいてくれてよかった….。」
涙が滲んで目の前がぼやける。それを見られたくなくて俯いたけど、きっと涼ちゃんは優しく笑っているんだろう。
涼ちゃんが風呂に入ってる間、今度は若井がやって来た。
「本当にソファーで大丈夫?」
「それ、涼ちゃんにも同じこと聞かれたんだけど。」
「だって、慣れた枕じゃないと寝られないんでしょ?」
「今日は多分寝れる。てか、若井に聞きたいことあるんだけど。」
「何?」
「涼ちゃんって付き合ってる人いないの?」
「いないね。」
「マジ?」
「基本的に俺と一緒に居るし、別行動でも大体家に居るし、スマホ弄ってる時は大抵動物の動画見てるだけだし。」
「そっか….。」
とりあえずは一安心….なのかな?
「だから元貴。頑張って!」
「え?」
「親友の恋を応援するって、アオハル感あってエモいよね。」
「待て待て待て!どういうこと?」
「元貴、涼ちゃんのこと好きじゃん。」
「そ、そりゃ好きだけど….。」
「面倒くさいから単刀直入に言うけど、恋人同士になりたいの好きじゃん?」
「え”?」
なんでこいつが俺の気持ち知ってんの?!
「な、なんで….。」
「いや、それはこっちのセリフなんですけど。今更?」
「今更?」
「元貴の涼ちゃん見る時の目がもう恋に恋するじゃないけどさ。」
「マジで?!いつから?!」
「最初っから。」
オワタ….。恥ずかしくてしばらく立ち直れそうにないかも….。
「大丈夫。普段そこまでじゃないから。気づいてんの付き合いの長い俺くらいじゃない?」
「ねぇ待って?”普段そこまで”ってことは多少は….ってことじゃん?」
「普段はポンコツ涼ちゃんを愛でる飼い主元貴って感じかな。」
「それは…セーフか….?」
「セーフだろ。元貴がそんなだから涼ちゃんの弄られキャラが確立したんじゃん。」
「あのね、若井君。聞いてほしいんだけど。」
「なに?」
「俺、自覚したのさっきなの。」
「さっき?」
「笑顔で涼ちゃんが迎えてくれた時に”あ、好き”って。」
「嘘でしょ!?確かにときめいてるぽかったけど、それで自覚したの?」
「ときめくって…。俺そんなに分かりやすいんだ….。」
「普段はそうないけど、今は疲れてるから取り繕えなかったんじゃん?」
「あー…本当に…。どうしようもないくらい涼ちゃんのこと好きなんだけど….。」
”ガタッ”
「「………。」」
俺と若井はゆっくりと扉の方を見た。そこには風呂から上がったというだけではない、顔を真っ赤にした寝間着姿の涼ちゃんが立っていた。
なんてベタな展開….。
「若井?」
若井をジロリと睨む。
「違う!仕組んでない!偶然だって!」
俺は大きくため息をついた。
「まぁ、同じ屋根の下に居るんだから、必然かもな….。」
俺は立ち上がり、涼ちゃんに近づく。涼ちゃんはあわあわしているが、逃げることはなかった。よかった。これで逃げられたら心が折れるだけじゃなく砕けてたかも。
「ごめんね、涼ちゃん。変なこと聞かせて。でも、涼ちゃんとどうこうなりたいとは思ってないから。」
いや、正直思ってはいる。けど涼ちゃんがいなくなってしまうくらいなら、友達のままでいい。
「それでも、涼ちゃんが俺のこと気持ち悪いと思うんなら、なるべく近づかないようにする。だからチームだけは辞めないで。お願い….。」
卑怯かもしれないが、涼ちゃんの良心に訴えかけるように懇願した。
「あ、あの、ね、元貴っ。」
「うん….。」
「僕も、元貴のこと好き….だよ。」
「本当?嬉しい。」
よかった。嫌われたらどうしようかと思った。
「じゃあ涼ちゃんチーム辞めない?」
「辞めないよ!さっきも言ったじゃんっ。元貴となら、このチームとなら、絶対楽しい嬉しいが勝つって知ってるって。」
「ありがと、涼ちゃん。」
「だから、あの….。」
涼ちゃんは少しはにかんで言った。
「僕ら両想いだね。」
”僕ら両想いだね”
”ぼくらりょうおもいだね”
”ボクラリョウオモイダネ”
脳の処理が追い付かず、錆び付いたブリキのおもちゃのように”ギギギ”と擬態語が聞こえてきそうな動きで首だけ若井の方を見た。若井はウィンクをして
「だから頑張ってって言ったじゃん。流石に望みゼロを応援するほど無責任じゃないよ☆」
無自覚恋からの突然の自覚、そして一気に両想い。
その後のことは覚えていないけど、気を失うように眠ってしまったらしい。多分疲れと気付かないうちに緊張もしていたんだろう。次の日からめでたく両想いという事実を噛みしめ、しっかりと涼ちゃんと”恋人”をしつつ、制作に没頭した。出来上がった曲をいくつか若井に聞かせたら
「分かりやすすぎ。」
呆れたように、でも楽しそうに笑っていた。
涼ちゃんが事故にあって4日が過ぎた。昨日は俺が見舞いに行けなくて若井だけ行ったらしい。そして今日はタイミングが重なったので初めて二人で一緒にお見舞いに行く(もちろんスタッフ込みで)
いつものように病院の裏口から入り、専用エレベーターで最上階へ向かう。
「そういえば今って最上階どれくらい患者いるの?」
スタッフに聞くと
「流石に患者さんのことは教えてもらえませんし、ネームプレートは掲げない仕様になってますので断言できませんが、病院関係者とうちの関係者以外見かけたことないので多分藤澤さん一人かと。」
「元貴、こういうところは本来政治家とかがなんかやらかして世間から逃げるために使う場所なんだよ。」
「ドラマじゃないんだから。」
最上階で扉が開き、涼ちゃんの病室前までやって来た。そして扉をノックしようとした瞬間
「そんなんじゃない!!」
病室から涼ちゃんの大声が聞こえてきて、俺と若井は顔を見合わせた。中からは涼ちゃんのお母さんの声も聞こえてきたので、親子喧嘩中?この状況で中に入るのは躊躇われた為、落ち着くまで様子を窺うことにした。
コメント
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飼い主w これは続きが気になるねぇー 涼ちゃん大丈夫かなぁ
続きが楽しみ!