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最悪の情緒で目を覚ます。時間は午前10時。
嫌な夢を見て、夜中に何度も起きては寝てを繰り返していたから、随分と起きるのが遅くなってしまった。
少し重い体を起こして自室のカーテンを開け、ふと庭を見ると、キラキラと輝く王冠が見えた。
(あいつ、まじでまた来とる…!?)
しろせんせーは急いで身支度を済ませて庭へ出た。
「お、やっほー!また来たよ!」
「……よぉ、」
しろせんせーは、少し気まずそうに小さく手を振った。
「…今日もお袋さんに追いかけられとるん?」
「んや、今日は普通に遊びに来ただけ!」
「お前と話そうと思って!!」
「俺、と………」
胸の当たりがギュッとなる。
「…お、俺も、話したいと思っとった。」
ああいけない、もう会っちゃいけないのに。
帰れって、拒絶しないといけないのに。
なのに、こいつの言葉を聞くと
(そんなこと、言えんやろ…)
「そうだ、お前の名前教えてよ。俺はニキ!」
どんっ!と胸を張り名を名乗った”ニキ”は、しろせんせーにとって、とても眩く、美しく見えた。
「あ、俺は、しろせんせー…。」
その眩い光から目を逸らすようにして、しろせんせーも名を名乗った。
「おっけ、じゃあボビーね!」
「ボビー!?なんで!?どっから?!」
まさかのニックネームに、しろせんせーは再度目線を合わせる。
「なんか昨日ムズい他国の言葉めっちゃ話してたから、ボビー!」
「は、はぁ……………」
(英語のことか…?いうてプログラミングの話くらいしかしてへんけど……)
それから1ヶ月間、ニキは毎日しろせんせー宅に遊びに来た。
肩を組まれそうになったり、腕相撲を挑まれたりして危うい時も多々あったが、持ち前の頭脳で何とか乗りきった。
――そして、しろせんせーが最も恐れていることが起きた。
季節は真夏。○月×日。
「…なあボビー、俺ずっと思ってたんやけどさ」
ニキが額の汗を拭いながら、暑そうに手をパタパタとして扇いでいる。
「ん?」
ニキを日陰に呼び寄せ、二人で座った。
「………なんで触ろうとしたら避けるん?」
「!」
確信をつかれた。もう、話すしかない。
正直、今まで嘘をついているような罪悪感はあった。
ずっと、伝えておきたいと思っていた。
「…俺、生き物に触ったらダメなんよ。」
「なんで?」
ニキはむっとした顔で首を傾げた。
「触ったら病気にしてまう。そういう血が、俺に流れてるんや。」
しろせんせーが、今まで目を向けようとしてこなかったこと。
自身も歳をとるにつれて徐々に病に犯されて行き、僅か20代で死に至ってしまうのだ。
自身も死に至ることは、ニキに伝える勇気は出なかった。
「…それ、俺なら平気かもしんない」
「………は?」
真剣な顔で、ニキはしろせんせーに手を差し伸べた。
「俺なら、ボビーの血に、抗えるかもしれない」
絶望の人生だと思っていた矢先に、一筋の光。
その光に縋りたい、このさしのべられた手を握りたい。
でも、もしもニキが死んでしまったら。
その時は、本当にもう立ち直ることが出来ないほどの絶望に打ちひしがれることになるだろう。
「…怖い、ニキ…」
視界がぼやけて、頬に涙が伝って落ちてゆく。
「お前がおらんなったら、俺、ほんまに…」
「大丈夫、俺はいなくなんないし、絶対ボビーのこと助けてやるから。」
「ほんまに…?ほんまに、信じて、ええ?」
「うん。俺を、信じて。」
目頭が熱い。本当に信じていいのか、わからない。
自分のエゴで、こいつを殺してしまうことが怖い。
怖い、怖いのに
こいつの目を見ていると、不思議と大丈夫なような気がしてならない。
息が苦しい。怖い。でも、でも…
「たすけて、にき…」
しろせんせーは、ニキが差しのべてくれた小さな、しかし大きな手を、ギュッと握りしめた。
数分間、2人は手を握ったまま、硬直していた。
お互いの息を感じ取るように、お互いに、何も異常がないか探り合うように。
「……ほら、大丈夫って言ったやん?」
「なん、で………ほんまに………………?」
しろせんせーは握った手を離すまいと、手の力を強める。
大粒の涙が、しろせんせーの頬を伝って行く。
「俺はいなくなんないし、死なないって言ったじゃん?笑」
ニキは優しく、涙を拭ってくれた。
「っ〜〜〜〜〜〜…」
ニキに触れたことが、臆せず手を差し伸べてくれたことが、自身を受け入れてくれたことが、嬉しくてたまらなくて
思わずニキを抱きしめた。
「ニキ、にき、にき………ありがとう………にき…お前に触れて、うれしい……」
「…俺も――」
ニキがしろせんせーの背中に手を添え、声をかけようとした刹那
ニキの身体に、衝撃が走った。
鼓動が早くなって、目が回って、あつくて、くるしくて――
「うれ……し…ぃ」
ニキはしろせんせーに、力なくもたれかかった。
「にき……?」
しろせんせーの幸福の涙は、絶望の涙へと変わった。
「にき………ニキ!!!なあ、しっかり、しろよ、!なあ!!!大丈夫って言ったやんか!!!!なぁニキ!!!!」
ニキから体を離して、必死に呼びかける。
返ってくるのは、荒い呼吸音だけ。
時折変な音が混じっていて、血の気が引く。
「どうしよう、やっぱり、やっぱりダメだったんや、どうしよう、俺のせいで、ニキが、俺の、俺の友達が……………」
「にき…………」
しろせんせーはその場でうずくまり、涙を流すことしか出来なかった。
助けを呼ぶことも、何も。